はじめに 公益法人設立の基本的な疑問
「公益法人を設立したいが、最低何人いれば始められるのか?」これは、NPO活動や社会貢献事業を法人化しようと考える方々から最も頻繁に寄せられる質問の一つです。
結論から申し上げると、公益社団法人なら最低4名、公益財団法人なら最低7名で設立が可能ですが、実際の運営を考慮すると、より多くの人材が必要になるケースがほとんどです。
公益法人の二層構造を理解する
公益法人の設立を理解するためには、まず法的構造が二層から成り立っていることを把握する必要があります。
【第一段階】一般法人としての設立
すべての公益法人は、まず「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」(一般法人法)に基づいて一般社団法人または一般財団法人として設立されます。
【第二段階】公益認定の取得
その後、「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」(認定法)による行政庁の公益認定を受けることで、名実ともに公益法人となります。
この二層構造により、一般法人法の基準に加えて、より厳格な認定法の要件も満たさなければならないという「二段階コンプライアンス」が求められます。
公益社団法人 理論上の「4名体制」
公益社団法人の設立には、以下の役職者が必要です(法定最小構成員数)。
理事:3名以上(公益認定には理事会設置が必須のため)
監事:1名以上(理事会設置法人に必要)
これらの役職は兼任が可能であるため、最小4名での構成が実現できます。
| 【4名での構成例】 | |||
|---|---|---|---|
| 人物 | 役割1 | 役割2 | 役割3 |
| A氏 | 社員 | 理事 | 代表理事 |
| B氏 | 社員 | 理事 | ー |
| C氏 | ー | 理事 | ー |
| D氏 | 監事 | ー | ー |
4名体制の現実的な課題
ただし、この最小構成には以下のリスクがあります。
- 社員総会で2名が対立すれば意思決定が停滞
- 理事会で1名が欠席すると定足数を満たせない
- 業務負担が特定の個人に集中しやすい
公益財団法人:必然的な「7名体制」
公益財団法人では、一般法人法第173条第1項により、評議員は理事、監事、使用人を兼任できません。この兼任禁止により、以下の役職者がそれぞれ別の人物である必要があります。
理事:3名以上
監事:1名以上
合計7名が絶対的な最小構成員数となります。
| 【7名での構成例】 | ||
|---|---|---|
| 人物 | 役割 | 制約 |
| A、B、C氏 | 評議員 | 理事、監事、使用人との兼任不可 |
| D、E、F氏 | 理事 | 評議員、監事との兼任不可 |
| G氏 | 監事 | 評議員、理事、使用人との兼任不可 |
見落としがちな「3分の1ルール」
法定最小人数を満たしても、認定法が定める「3分の1ルール」により、実際にはより多くの人材が必要になるケースがあります。
親族等制限
各理事について、その理事本人、配偶者、三親等内の親族である理事の合計が、理事総数の3分の1を超えてはなりません。
具体例:夫婦が共に理事になりたい場合
- 理事3名の構成では、夫婦2名が2/3を占め、3分の1ルールに違反
- 夫婦が理事になるには、理事総数を6名にして2/6=1/3とする必要がある
密接関係者制限
同一団体の理事や使用人など、密接な関係にある理事の合計も理事総数の3分の1以下でなければなりません。
2025年 公益認定法改正の影響 外部役員の義務化
2025年4月1日から施行された公益認定法改正により、新たな要件が追加されています。
外部理事の設置義務
以下の対象にあてはまる場合は、外部理事を設置する必要があります。
- 対象:年間収益が3,000万円未満かつ費用・損失が3,000万円未満以外の法人
- 要件:理事のうち少なくとも1名は「外部理事」
- 独立性:法人や子法人の業務執行理事・使用人ではなく、過去10年間もその経歴がないこと
外部監事の設置義務
すべての公益法人において、外部監事の設置が義務付けられました。
最小規模の法人でも外部監事の確保が必須となります。
- 対象:すべての公益法人(規模による免除なし)
- 要件:監事のうち少なくとも1名は「外部監事」
- 独立性:法人や子法人の理事・使用人ではなく、過去10年間もその経歴がないこと
実際の設立に向けた推奨人数
公益社団法人の場合
最小理論値:4名 推奨構成:8-10名

- 社員:4-5名
- 理事:5-6名(うち1名は外部理事)
- 監事:2名(うち1名は外部監事)
公益財団法人の場合
最小理論値:7名 推奨構成:10-12名

- 評議員:5-6名
- 理事:5-6名(うち1名は外部理事)
- 監事:2名(うち1名は外部監事)
外部役員の確保と迎え入れるにあたって必要な準備
専門家ネットワークの活用
多くの公益法人にとって、外部役員を確保することが喫緊の課題なのではないでしょうか。
外部役員を確保する方法として、以下のような手段が挙げられます。
・専門人材紹介サービス
・地域の士業ネットワーク(弁護士会、公認会計士協会等)
報酬と責任の管理
また、外部役員への報酬体系や役員賠償責任保険なども整備しておく必要があります。
- 適正な報酬設定:専門知識に見合った報酬体系の整備
- D&O保険の活用:役員賠償責任保険による安心感の提供
予算計画
外部役員を迎えるにあたって、以下の予算も考慮しておく必要もあります。

- 外部役員への報酬(年間10-30万円程度が目安)
- D&O保険料(年間数万円)
- 会計監査人報酬(該当する場合)
まとめ 持続可能な組織構築のために
公益法人の設立は、法定最小人数(社団法人4名、財団法人7名)で理論上可能ですが、実効性のある運営と法改正への対応を考慮すると、8-12名程度の体制が現実的です。
特に2025年の法改正により、すべての公益法人に外部監事の設置が義務付けられるため、設立準備段階から外部人材の確保戦略を立てることが重要です。
単なる法令遵守にとどまらず、社会からの信頼を得て持続可能な事業を展開するためには、適切な規模でのガバナンス体制の構築が不可欠です。設立を検討されている方は、理想とする事業規模と照らし合わせて、適切な人材構成を計画することをお勧めします。
監修者Profile

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桑波田直人(くわはた・なおと)
(株)全国非営利法人協会専務取締役・(一財)全国公益支援財団専務理事。 『公益・一般法人』創刊編集長等を経て現職。公益社団法人非営利法人研究学会では常任理事・事務局長として公益認定取得に従事。編著に『非営利用語辞典』、他担当編集書籍多数。





