平成20年12月1日、新たな法律が施行され、2種類の法人類型が登場しました。それが、「一般社団法人」と「一般財団法人」という法人類型です。これにより、誰でも簡単に法人格がある非営利の団体を設立することができるようになり(一般社団法人)、誰でも簡単に一定の財産に法人格を与えることができるようになりました(一般財団法人)。「簡単に法人格を取得できる」ということは、画期的なことです。
平成20年12月1日から、簡単に設立できる一般社団法人と一般財団法人の2種類の法人類型が利用できるようになった。
法人格があるとこんなことができる
例えば、AさんとBさんとが、ある事業を共同で行おうと意気投合し、金銭や労力を提供しあって任意の団体を作っても、その団体に法人格がなければ、その団体が権利や義務の主体となることはできません。日本では、法律の規定に基づかなければ団体には法人格が認められません(民法33条1項) から、任意に団体を作っても、それだけでは法人格を取得することはできません。
法人格がなく、その団体が権利や義務の主体となることができないということは、その団体が契約の一方の当事者になることができないということです。その団体の事務所を構えようとしても、その団体を賃借人とすることはできません。銀行に口座を開設しようとしても、マネーロンダリングを防ぐ観点から本人確認が厳しい昨今、法人格がないその団体名義で口座を開設することはできません。細かいことをいえば、どんなに安価な備品であっても、その団体が所有者となることはできません。
しかし、その団体に法人格があれば、その団体を賃借人とすることができますし、その団体名義で銀行口座を開設することができますし、備品に限らず、不動産であっても、その団体が所有することが可能になります。法人格があれば、法律関係はすっきりとしたものになります。
新たな法人制度によって、このような法人格の取得が簡単になりました。
法人格を取得することができると、その団体が権利義務の主体となることができる。
準則主義
「簡単に法人格を取得できる」とは、一般社団法人も、一般財団法人も、登記だけで法人格を取得することができる、準則主義がとられたということです。
もう少し正確にいうと、一般社団法人・一般財団法人としての設立の登記をするためには、公証人が認証した定款(その団体の根本規則)が必要です。そのため、一般社団法人も一般財団法人も、定款を作成してその定款を公証人に認証してもらうことが必要になりますが、定款に法律で定められた事項が記載されていれば公証人から認証を受けることはできるのであり、難しい要件はありません。定款を作成して認証を受ければ、あとは登記をするだけで、一般社団法人も一般財団法人も法人として成立するので、「簡単に法人格を取得できる」といえるのです。法人格を取得するために、主務官庁・監督官庁に申請して許可を受けなければならない、ということはありません。
株式会社の場合も、公証人が認証した定款があれば、あとは登記をすれば 株式会社として成立し、法人格を取得することができます。一般社団法人も 一般財団法人も、法人格の取得は、株式会社並みに簡単になったということができます。
一般社団法人・一般財団法人は、株式会社と同様、準則主義によって法人格を取得することができる。
「非営利」な法人
「誰でも簡単に法人格を取得できる」といっても、どのような目的の団体を設立する場合でも法人格が取得できるというわけではありません。
一般社団法人の場合も一般財団法人の場合も、営利を目的としない、すなわち、非営利な団体でなければ法人格を取得することができません。
ここでの「非営利」は、「利益をあげてはいけない」ということではありません。「非営利の法人」というと、ときどき、「利益をあげてはいけない」 とか、「事業はすべて無料で行わなければならない」とか、「事業はすべてボランティアが無償で行わなければならない」等と勘違いされている方がいらっしゃいます。しかし、一般社団法人が「非営利な法人である」という場合の「非営利」というのは、「余剰利益を構成員で分配しないこと」という意味です。
事業を行い、法人を維持していくためにはそれなりのコストがかかるのであり、非営利な法人であるから事業で対価をとってはいけない、というのでは法人としての運営を行うことはできません。事業を有償で行ってもよいのです。従業員に給料を支払ってもよいのです。利益をあげてもよいのです。 ただ、残った利益を、その団体の構成員で分配しないというのが、「非営利」の意味です。残った利益は、構成員で分配するのではなく、翌事業年度以降の事業のために、又は、団体運営のために使うことになります。
株式会社は「営利法人」です。株式会社は、事業を行い、必要な費用を支払って残った利益は、株式会社の構成員である株主に対して配当という形で分配します。余剰利益を構成員に分配することが法律上可能な法人ですから、 株式会社は営利法人ということになります。
一般社団法人も、一般財団法人も、営利を目的としない(つまり、余剰利 益を構成員で分配しない)のであれば、個別の事業の目的は、不特定多数の利益を増進する目的でも、団体の構成員の利益を図る目的でも、当該団体の利益を図る目的でも構いません。
つまり、余剰利益を構成員で分配しないのであれば、例えば、ボランティア団体のように不特定多数の利益を増進することを目的とする団体でも、趣味のサークルや同窓会のように構成員の利益を図る目的の団体でも、通常の株式会社が行っている事業を行うことを目的とする団体でも、一般社団法人や一般財団法人として法人格を取得することが可能です。
非営利とは余剰利益を構成員で分配しないことであり、一般社団法人も一般財団法人も非営利な法人である。
公益法人制度改革の結果誕生した一般社団法人・財団法人
一般社団法人も一般財団法人も、平成20年12月1日から利用できるようになった法人類型です。一般社団法人も、一般財団法人も、いわゆる「公益法人改革」の一環で創設された制度で、平成20年12月1日から新たな公益法人制度に変わっています。
一般社団法人・一般財団法人ではなく、「社団法人」や「財団法人」であれば、お聞き及びの方もいらっしゃるでしょう。そう、例えば、○○検定などを実施している団体が財団法人であったりします。従来は、この「社団法人」や「財団法人」のことを「公益法人」と総称していました。そして、この公益法人制度が、平成20年12月1日から変わりました。
民法に基づく公益法人制度が平成20年12月1日から変わった。
従来の公益法人制度
従来の公益法人制度は、民法に基づいて、団体に法人格が与えられる制度でした。これが平成20年12月1日から、従来の公益法人に対する民法の規定は削除・改正され、新たな公益法人制度となりました。
改正前の民法(以下、「旧民法」という。)の公益法人制度では、①公益に関する社団又は財団であって、②営利を目的としないものに、③主務官庁が許可をすることによって法人格を与える仕組みでした。
①の「公益」とは、不特定かつ多数の者の利益のことです。
②の「営利を目的としない」とは、非営利のことです。
③の「主務官庁の許可」とは、法人の設立に主務官庁が関与し、「許可」 がなされることによって法人格が与えられるということです。
つまり、旧民法のもとでは、単に構成員に利益を分配しないというだけ(②)では法人格を取得することができず、積極的に公益目的の事業を行う (①)団体でなければ法人格の対象にならず、さらに、法人格を取得するためには登記だけでは足りず、主務官庁の許可を得なければなりませんでした (③)。つまり、旧民法のもとでは、社団法人や財団法人としての法人格を取得することは決して簡単なことではありませんでした。しかし、旧民法のもとで社団法人や財団法人として法人格を取得すれば、そのような団体は公益 目的があること(①)が主務官庁から認められたことになりますから、社団法人も財団法人も「公益法人」と呼ばれました。
旧民法の下での社団法人・財団法人は、公益性がなければ法人格が与えられなかった。
従来の公益法人制度の問題点
従来の社団法人・財団法人は、民間の非営利部門として様々な活動を行ってきました。しかし、社会経済状況が変動する中で、様々な問題が指摘されるに至りました。
⑴ 設立が困難
設立にあたって準則主義ではなく、主務官庁の許可主義がとられており、 しかも、許可のための要件が主務官庁によって必ずしも統一されていないので、設立が困難でした。
⑵ 務官庁制
務官庁制がとられていることで、例えば、主務官庁をまたがるような事業を行うことに関しては、事実上の制約がありました。また、主務官庁からの補助金の妥当性やいわゆる「天下り問題」なども指摘されるに至りました。
⑶ 情報開示
公益法人は税制上の優遇措置を受けているにもかかわらず、旧民法の下では情報開示の規定が整備されていませんでした。
⑷ 公益性の問題
社団法人も財団法人も公益目的がなければ法人格を取得することはできませんが、その公益性の有無の判断は、中立的な機関ではなく、主務官庁が行っていました。どのような場合に「公益性がある」といえるのかが不明確なうえに、主務官庁が「公益性がない」と判断すれば、法人格は取得できませんでした。
他方、社団法人や財団法人として法人格が与えられると、その後に公益性がなくなっても、解散されずに公益法人として存続し続けるという問題もありました。
⑸ ガバナンス
旧民法には、社団法人や財団法人の運営に関して、必要最小限の規定しか設けられていませんでした。基本的には、社団法人や財団法人の運営は、その自治に委ねられていました。しかし、運営が自治に委ねられていることに乗じて、恣意的に法人を運営し、私腹を肥やす理事などが問題となりました。法人管理(ガバナンス)については、きちんと法定すべきであるという指摘がなされるようになりました。
以上のような問題意識から、公益法人制度改革が議論されるようになりました。
旧民法下の公益法人制度には種々の弊害があり、公益法人制度改革が議論されるようになった。
民間非営利部門の重視
公益法人制度改革は、しかし、公益法人制度の問題点・弊害を除去するという観点だけで進められたわけではありません。むしろ、今日の社会経済状況の中で、民間非営利部門を重視し、積極的に社会経済システムの中に位置付けようということで進められたと考えるべきでしょう。
平成15年6月の閣議決定「公益法人制度の抜本的改革に関する基本方針」では、公益法人制度を改革する目的が明らかにされており、そこから制度改革の背景事情を窺うことができます。
すなわち、今日では、個人の価値観が多様化し、社会のニーズが多岐にわたってきており、これらのニーズに柔軟かつ機動的な活動を展開して対応することができる民間非営利活動の促進は、21世紀の日本の社会を活力に満ちた社会として維持していくうえで極めて重要です。
行政部門は行政部門であるが故に画一的な対応が重視され、他方、民間営利部門は収益をあげる前提で活動を行うことになるため個人や社会の多様なニーズに応えるのが困難です。しかし、民間非営利部門は行政部門や民間営利部門では満たすことができないニーズに対応する多様なサービスを提供することができます(現に、NPO法人は様々なサービスの担い手になっています)。
また、民間非営利部門の活動は、人々の様々な価値観を受け止めることができ、人々の活動の選択肢が広がることによって、自己実現の機会が増進することにもなります。
そこで、民間非営利活動を日本の社会経済システムに位置付けることが重要であるとの観点から、何らかの施策が必要であると考えられるようになりました。
他方、旧民法上の公益法人は、民間非営利部門の代表的な存在であり、民間非営利部門の重要性を踏まえ、その活動を活性化させるために、従来の公益法人制度の問題点に対処しつつ抜本的に見直すこととし、新たな制度を創設することとなりました。これが、いわゆる公益法人制度改革です。
公益法人制度改革は、民間非営利活動を日本の社会経済システムに位置付け、活力ある社会を作るという観点からも進められた。
新たな公益法人制度の概要
従来は「社団法人」「財団法人」であった法人類型は、新たな公益法人制度では、「一般社団法人」「公益社団法人」と「一般財団法人」「公益財団法 人」のそれぞれ2種類の法人類型となりました。
一般社団法人・一般財団法人は、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」(以下、「一般法人法」という。)に基づき、非営利である社団・財団が登記をすることによって成立する法人類型です。
他方、公益社団法人・公益財団法人は、「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」(以下、「公益認定法」という。)に基づき、「行政庁」から公益認定を受けた一般社団法人・一般財団法人をいいます。
つまり、新たな公益法人制度では、法人格取得の問題と、公益性の判断の問題を分離したところに特徴があります(従来の制度では、公益性がなければ法人格は与えられず、法人格取得の問題と公益性の判断が一体となっていました。)。非営利でありさえすれば、法人格は一般社団法人・一般財団法人として簡単に取得することができ、他方、公益性については「行政庁」が公益認定を行うという形で判断し、公益性が認められれば公益認定がなされて公益社団法人・公益財団法人となることになりました。
公益認定は、公益認定法所定の要件を備えていることが必要であり、しかもその要件は法定されたという意味では明確ですが、かなり厳しい要件です。新たな公益法人制度は、一般社団法人・一般財団法人として法人格を取得することは簡単ですが、公益認定を受けて公益社団法人・公益財団法人となるのは、それなりに難しい制度であるといえるでしょう。公益社団法人・公益財団法人には、大きな法人税制上のメリットが与えられたことの反面として、厳しい要件が定められたと考えられます。
一般社団・財団法人を新規に設立するのは簡単であるが、公益認定を受けるためには、厳しい要件をクリアしなければならない。
特例民法法人
では、旧民法の下で既に社団法人・財団法人として運営してきた団体は、新たな公益法人制度の下ではどのようになったのでしょうか。
従来の社団法人・財団法人は、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(以下、「整備法」という。)によって、法的には一般社団法人・一般財団法人でありながら、旧民法の規定に従った運営が可能なような数々の運営上の特例が設けられた法人に位置付けられました。このように整備法によって数々の特例が認められた従来の社団法人・財団法人を特例社団法人・特例財団法人といい、これらを併せて特例民法法人といいます。
しかし、特例民法法人は、平成20年12月1日から5年以内に、特例が認められない通常の一般社団法人・一般財団法人に移行するか、公益社団法人・公益財団法人に移行するか、いずれかの選択をしなければならないとされました。したがって、現時点では、特例民法法人は、通常の一般社団法人・一般財団法人か、公益社団法人・公益財団法人に移行しています。移行しなかった特例民法法人は、解散したものとみなされています。
旧民法下の社団法人・財団法人は、新たな制度では、様々な特例が認められた一般社団法人・一般財団法人としていったん存続したものの、現時点では、通常の一般社団法人・財団法人か、公益社団法人・財団法人に移行して存続している。
法人税はどうなるのか
一般社団法人も、一般財団法人も、法人税が課税されます。もっとも、課税の対象となる事業や、税率については、法人税法上、3種類に分類されています(2023年3月1日執筆時点)。
まず、①公益認定法に基づく公益認定を受けている公益社団法人と公益財団法人は、法人税法上の「公益法人等」として取り扱われます。この場合、公益目的事業から生じた所得は課税対象外であり、また、公益目的事業以外の事業のうち、法人税法上の収益事業から生じた所得が課税対象です。
次に、②公益認定を受けていない一般社団法人・一般財団法人であって、非営利性が徹底された法人や共益活動を目的とする法人の場合は、法人が行うすべての事業のうち、法人税法上の収益事業から生じた所得が課税対象となります。
③最後に、①でも②でもない一般社団法人・一般財団法人は、株式会社同様、法人税法上の「普通法人」として取り扱われます。この場合、法人が行う全ての事業から生じた所得が課税対象となります。
税率については、開始事業年度によっても異なることがありますので、国税庁のHP等で確認する必要があります。
執筆者Profile
熊谷則一(くまがい・のりかず)
昭和63年3月に東京大学法学部卒業後、建設省(当時)勤務を経て、平成6年4月から弁護士。平成19年12月に涼風法律事務所設立。著書に『公益・一般社団法人の社員総会 Q&A』『公益 、 ・一般財団法人の評議員会 Q&A』『逐条解説 一般社団・財団法人法』(全国公益法人協会)など。