一般財団法人の定款の作成と記載事項を解説
本記事は書籍「【新訂版】一般社団法人一般財団法人の実務―設立・運営・税務から公益認定まで」の一部を抜粋し、記事にしたものです。

定款の作成と重要性

 一般財団法人の成立には、前述のとおり準則主義がとられていますから、一般財団法人を設立する場合には、適法な定款を作成することが極めて重要です。

定款の意義

 一般財団法人の場合にも、一般社団法人の場合同様、定款には、法人の組 織や計算に関する根本規則を意味する実質的意義における定款と、この根本規則を記載した書面を意味する形式的意義における定款とがあります。法 152条1項・2項は、形式的意義における定款を意味していて、形式的意義における定款を作成しなければ法人を設立することはできません。もっと も、法人の設立にとって重要なのは、法律に従った実質的意義における定款を作成することであり、定款の作成にあたっては、関係者は、法人の組織や 計算に関して法律がどのように規定しているかを十分に理解しておく必要があります。なお、一般財団法人は、形式的意義における定款としては、書面だけではなく、電磁的記録をもって作成することも可能です(法152条3 項、10条2項)。
 旧民法では、財団法人の根本規則及び根本規則を記載した書面を「寄附行為」と表現していましたが、一般法人法の下では、一般財団法人の根本規則及び根本規則を記載した書面は、一般社団法人と同じ「定款」という文言で 表現しています。

定款の記載事項

 定款の記載事項は、必要的記載事項、相対的記載事項及び任意的記載事項 に分類することができます。

⑴ 必要的記載事項

 必要的記載事項とは、定款に必ず記載しなければならず、その事項についての記載がない場合には、定款全体が無効となる記載事項です。一般財団法 人の場合には法153条1項が必要的記載事項を規定しています。

  i 目的(法153条1項1号)
 定款には、目的として、「本協会は、○○に関する事業を行い、○○○○○ことを目的とする。」という規定を総則の章に設けるのが一般的です。一般財団法人の「目的」は、その目的を達成するために行う事業を合わせて理解することによって明確になるため、目的を達成するために行う具体的な事業についての規定も必要的記載事項として定款に規定する必要があります。
  ii 名称(法153条1項2号)
 名称も、総則の章に設けるのが通常です。なお、一般財団法人の場合には、名称中に、「一般財団法人」を用いなければなりません(法5条1項)。
  iii 主たる事務所の所在地(法153条1項3号)
 主たる事務所の所在地は、必要的記載事項であり、総則の章に設けるのが通常です。
 従たる事務所の所在地は定款の必要的記載事項ではないので、必ずしも定款に記載する必要はありません。
  iv 設立者の氏名又は名称及び住所(法153条1項4号)
 一般財団法人の場合には、設立者の氏名又は名称及び住所が必要的記載事項です。
  v 設立に際して設立者(設立者が2人以上あるときは、各設立者)が拠出する財産及びその価額(法153条1項5号)
 一般財団法人制度は「財産」に法人格を与える制度です。したがって、設立には財産が不可欠であり、設立者が拠出する財産及びその価額が定款の必要的記載事項となっています。
  vi 設立時の評議員、理事及び監事の選任に関する事項(法153条1項6号)
 設立時の評議員、理事及び監事の選任に関する事項が必要的記載事項となっています。
  vii 設立しようとする一般財団法人に会計監査人を置かなければならない場合や設立に際して会計監査人を置く場合には、その会計監査人の選任に関する事項(法153条1項7号)
 設立時に会計監査人を設置する場合には、その会計監査人の選任に関する事項が必要的記載事項となっています。
  viii 評議員の選任及び解任の方法(法153条1項8号)
 一般財団法人の場合には、評議員の選任及び解任方法は必要的記載事項とされています。しかし、理事又は理事会が評議員を選任し、又は解任する旨の定款の定めは、無効となります(法153条3項1号)。
  ix 公告方法(法153条1項9号)
 公告方法は、一般法人法の下で必要的記載事項となりました。
  x 事業年度(法153条1項10号)
 事業年度は、一般法人法の下で必要的記載事項になりました。

⑵ 相対的記載事項

 相対的記載事項とは、定款をもって規定しておかなければその事項について効力が生じない記載事項です。一般財団法人における基本財産の定め(法 172条)を始め、数多くの相対的記載事項が存在します。
 相対的記載事項の場合には、必要的記載事項と異なり、定款に記載してい なくても定款が無効となることはありません。しかし、効力を発生させるためには、必ず定款に記載しなければなりません。

⑶ 任意的記載事項

 一般財団法人の定款には、必要的記載事項や相対的記載事項以外に、一般 法人法の規定に違反しないものを規定することができ(法154条)、これを 任意的記載事項といいます。

記載事項の選択

 一般財団法人の定款に、必要的記載事項を盛り込めば、定款として無効となることはありません。もとより、一般財団法人に監督官庁は存在しないので(ただし、特例財団法人から一般財団法人に移行した場合であって、公益目的支出計画が完了する前は、行政庁の監督を受けます。後述。)、必要的記載事項だけを規定した最小限度の規定を有する定款を作成したとしても、第三者から干渉を受けることはありません。
 しかし、定款は当該法人の根本規則であり、当該法人の関係者にとっては、 定款を一覧することで当該一般財団法人の骨格や運営の原則が明らかになるということも重要であるといえます。
 このような観点から、定款作成にあたっては、任意的記載事項を含め、どの程度の規定を当該定款に規定するのかを法人ごとに決定する必要があります。
 なお、内閣府では、特例民法法人が公益社団法人又は公益財団法人に移行認定を申請するための「移行認定のための『定款の変更の案』作成の案内」(以下、「内閣府モデル定款」という。)を作成しているので、この内閣府モデル定款の記載事項を参考にするというのも一案です。

定款の配列

 一般財団法人の定款の規定の配列について法定されたものがあるわけではありません。したがって、それぞれの法人ごとに必要な事項を順次記載していくことで特に問題ありません。
 もっとも、内閣府モデル定款は、公益社団法人や公益財団法人の定款の標準となっています。一般財団法人も、定款の規定の配列は内閣府モデル定款に準ずる形としておけば、標準的な定款との異同が明らかになります。したがって、定款の規定の配列は、内閣府モデル定款に準ずる形としておくことが望ましいといえるでしょう。

執筆者Profile

熊谷則一(くまがい・のりかず)

昭和63年3月に東京大学法学部卒業後、建設省(当時)勤務を経て、平成6年4月から弁護士。平成19年12月に涼風法律事務所設立。著書に『公益・一般社団法人の社員総会 Q&A』『公益 、 ・一般財団法人の評議員会 Q&A』『逐条解説 一般社団・財団法人法』(全国公益法人協会)など。