一般社団法人が事業規模の拡大や地方拠点の開設に伴い、従たる事務所(株式会社の「支店」に相当する組織)を設置することがあります。また、既存の従たる事務所を移転したり、事業整理に伴って廃止したりすることもあるでしょう。
これらの意思決定や登記、その後の行政手続きには、一般社団法人ならではのルールが存在します。特に登記実務においては、近年の法改正によって手続きが簡素化されました。
従たる事務所の設置・変更における意思決定プロセス
従たる事務所を設置、移転、または廃止するためには、まず法人内部での適法な意思決定が必要です。この決定方法は、法人が「理事会設置法人」であるか「理事会非設置法人」であるかによって異なります。
理事会設置法人の場合
理事会を設置している一般社団法人の場合、従たる事務所の設置、移転、廃止は「重要な組織の設置、変更及び廃止」に該当します。
一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下、一般法人法)第90条第4項において、重要な組織の設置や変更、廃止は理事会の専決事項と定められており、理事個人に委任することはできません。理事会の決議は、定款に別段の定めがない限り、議決に加わることができる理事の過半数が出席し、その過半数の賛成によって成立します(一般法人法第95条第1項)。
理事会非設置法人の場合
理事会を置いていない一般社団法人で理事が2人以上いる場合は、定款に別段の定めがない限り、理事の過半数をもって決定します(一般法人法第76条第2項)。従たる事務所の設置、移転、廃止の決定は各理事へ委任できません(同条第3項第1号)。定款で社員総会の決議事項としている場合などは、その定款の定めに従います。
定款変更(社員総会決議)が必要になる3つのパターン
従たる事務所の設置等において、理事会や理事の決定だけで手続きを進められるか、あるいは社員総会の特別決議による「定款変更」が必要になるかは、現行の定款にどのように記載されているかによって3つのパターンに分かれます。
パターン1:定款に従たる事務所の具体的な所在場所まで書かれている場合
定款に「この法人は、従たる事務所を〇〇県〇〇市に置く」のように、具体的な最小行政区画や所在場所まで明記されている場合です。 このケースで従たる事務所を設置・移転・廃止する際は、定款の文言そのものを書き換える必要があるため、意思決定機関での決定に加えて、社員総会の特別決議による定款変更手続きが必須となります(一般法人法第146条、第49条第2項)。特別決議の成立要件(総社員の半数以上かつ議決権の3分の2以上)や議事録・現行定款の管理など、定款変更そのものの一般的な手続きは、一般社団法人の定款変更|社員総会の特別決議と変更登記の実務で詳しく解説しています。
パターン2:定款に「設置することができる」という任意規定がある場合
定款に「この法人は、理事会の決議によって従たる事務所を必要な場所に設置することができる」といった、設置の可能性を留保する任意規定のみが書かれている場合です。 この場合は、具体的な場所が定款に記載されていないため、定款変更の手続きは不要です。理事会(または理事の過半数)の決議のみで具体的な所在場所と設置日を決定し、次のステップである登記手続きへ進むことができます。
パターン3:定款に従たる事務所に関する記載が一切ない場合
定款に従たる事務所に関する規定が全く存在しない場合です。 一般社団法人の定款において、従たる事務所の定めは「任意的記載事項」であるため、記載がなくても法的に問題はありません。定款に記載がない状態であっても、理事会等の決議によって従たる事務所を設置することは可能です。この場合も定款変更の手続きは不要となります。
従たる事務所所在地での登記の廃止
従たる事務所の設置、移転、廃止を行った場合、法的に登記事項の変更手続きを行う必要があります。ここで実務担当者が最も注意すべきなのは、令和4年(2022年)9月1日施行の改正商業登記法等による制度変更です。
主たる事務所所在地での登記に一本化
法改正前は、従たる事務所を設置・変更した際、「主たる事務所の所在地」と「従たる事務所の所在地」の双方の法務局でそれぞれ登記申請を行う必要がありました。
しかし、令和4年9月の改正以降、従たる事務所の所在地における登記制度は完全に廃止されました。現在は、主たる事務所の所在地を管轄する法務局に対してのみ、一括して登記申請を行う実務に一本化されています。
これにより、遠方の法務局へ二重に申請する手間や郵送コスト、添付書類を複数用意する負担が解消され、実務負担は軽減されました。なお、改正前に設置されていた従たる事務所の登記簿については、法務局側で順次職権閉鎖の処理が行われているため、法人側で特別な廃止手続き等を行う必要はありません。
登記申請の手続きと登録免許税
従たる事務所に関する事項は、主たる事務所の所在地における登記事項とされています(一般法人法第301条第2項)。そのため、設置・移転・廃止が生じたときは、必ず期限内に登記申請を行わなければなりません。
登記の申請期限
一般法人法第303条の規定により、登記事項に変更が生じたときは、「2週間以内」にその主たる事務所の所在地において変更の登記をしなければなりません。この期間を過ぎてしまうと、登記懈怠(とうきけたい)として過料の対象となる可能性があるため、意思決定後は速やかに申請書類を準備する必要があります。
登録免許税(印紙代)の金額
主たる事務所の法務局に支払う登録免許税の額は以下の通りです。
- 従たる事務所の設置:1箇所につき 60,000円
- 従たる事務所の移転:1箇所につき 30,000円
- 従たる事務所の廃止:申請1件につき 30,000円
主な添付書類の例
主たる事務所の法務局へ提出する申請書には、一般的に以下の書類を添付します。
- 理事会議事録(理事会設置法人の場合。設置や移転などの決議内容を証明するもの)
- 理事の過半数の一致を証する書面(理事会非設置法人の場合)
- 定款(定款変更を伴った場合、または理事会の権限規定を確認するために提示を求められる場合)
- 委任状(司法書士などの代理人に申請を委任する場合)
主たる事務所の移転と同時に申請する場合
「主たる事務所の移転」と「従たる事務所の設置(または移転・廃止)」が同時に発生する場合、同一の登記所管轄内での移転であれば、1件の申請書に複数の登記事項を記載して申請できます。主たる事務所を他の登記所の管轄へ移転する場合は、旧所在地分と新所在地分の申請が必要になるため、管轄内移転と同じ扱いにはなりません。
登録免許税は登記区分ごとに計算します。主たる事務所の管轄内移転は30,000円ですが、管轄外移転では旧所在地分と新所在地分がそれぞれ30,000円となり、合計60,000円です。従たる事務所の設置は1か所につき60,000円で、同時に申請しても税額が一つにまとまるわけではありません。主たる事務所の移転そのものの手続き(定款変更の要否、管轄内・管轄外での登記の違い、移転日と決議の進め方)は、一般社団法人の主たる事務所移転|定款変更・決議・登記の実務で詳しく解説しています。
登記と並行して必要な税務・労務・行政手続き
従たる事務所の設置・移転・廃止に伴う届出期限は、登記の完了日ではなく、事務所の設置日や移転日、保険関係の成立日などから進行します。登記の完了を待つと期限を過ぎるおそれがあるため、登記申請と並行して必要な手続きを確認してください。
1. 税務関係(国税・地方税)の届出
国税と地方税では、従たる事務所の設置等に伴う届出が異なります。
地方税の法人設立・設置届等
従たる事務所が、人的・物的設備を備えて継続的に事業を行う地方税法上の「事務所等」に該当する場合は、設置先の都道府県や市区町村へ法人設立・設置届等を提出します。所在地の変更や事務所の廃止は、異動届等で届け出ます。届出名と期限は自治体の条例によって異なるため、設置先の都道府県・市区町村の案内で確認してください。非営利型一般社団法人・一般財団法人についても、法人住民税の均等割や減免申請の要否を自治体ごとに確認する必要があります。
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書
従たる事務所で給与等の支払事務を取り扱う場合は、開設・移転・廃止の事実があった日から1か月以内に、所轄税務署へ提出します。移転の場合の提出先は、移転前の給与支払事務所等の所在地を管轄する税務署です。職員が従たる事務所で勤務していても、給与支払事務を主たる事務所で一括して取り扱っている場合は、従たる事務所についてこの届出が必要になるとは限りません。
収益事業開始等届出書
法人税法上の非営利型一般社団法人・一般財団法人が、従たる事務所の設置に伴って法人全体として新たに収益事業を開始した場合は、開始日以後2か月以内に、納税地の所轄税務署へ提出します。すでに法人として収益事業を行っている場合や、非営利型法人に該当しない普通法人には、この開始届は適用されません。
2. 労働保険・社会保険の手続き
従たる事務所に労働者や被保険者が所属する場合は、その事務所が独立した適用単位となるか、主たる事務所に含めて取り扱われるかを確認します。労働保険と社会保険では判定や一括手続きの制度が異なるため、分けて検討してください。
労働保険(労基署・ハローワーク)
従たる事務所が場所的に分離され、経営組織上も独立性を有する一つの「事業」となる場合は、原則として個別に労働保険の手続きを行います。「保険関係成立届」は保険関係成立の日から10日以内、「概算保険料申告書」は同日から50日以内に提出します。雇用保険の適用対象者がいる場合は、「雇用保険適用事業所設置届」を保険関係成立日の翌日から起算して10日以内に提出し、対象者の「雇用保険被保険者資格取得届」を被保険者となった日の属する月の翌月10日までに提出します。
一方、規模が小さく、上部組織との関係や事務能力から独立した一つの事業と認められない出張所等は、直近上位の事業に含めて取り扱われることがあります。独立した複数の継続事業を一つにまとめる「継続事業の一括」はこれとは別の制度であり、事業主と事業の種類が同一であることなどの要件を満たした上で、厚生労働大臣の認可を受ける必要があります。
独立した適用単位である従たる事務所を移転した場合は、変更日の翌日から起算して10日以内に「労働保険 名称、所在地等変更届」と「雇用保険事業主事業所各種変更届」をそれぞれの提出先へ提出します。廃止した場合は、「雇用保険適用事業所廃止届」を廃止日の翌日から起算して10日以内に提出し、労働保険の保険関係が消滅するときは、消滅日から50日以内に確定保険料を申告・精算します。
社会保険(年金事務所)
健康保険・厚生年金保険は事業所単位で適用されます。従たる事務所が人事・労務・給与管理を行う独立した適用事業所となる場合は、事実発生から5日以内に「新規適用届」を提出し、被保険者となる職員についても、資格取得日から5日以内に「被保険者資格取得届」を提出します。
独立した適用事業所を移転した場合は、事実発生から5日以内に「適用事業所名称/所在地変更(訂正)届」を提出します。年金事務所の管轄外へ移転する場合の提出先は、変更前の所在地を管轄する年金事務所です。廃止して適用事業所に該当しなくなった場合は、事実発生から5日以内に「適用事業所全喪届」を提出します。本部で人事・給与等を集中的に管理するなど一定の基準を満たす場合は、承認を受けて複数の適用事業所を一つにまとめる「一括適用」も検討できます。
一般社団法人の従たる事務所に関する手続きは、法人の機関設計(理事会の有無)や定款の記載内容によって、事前にクリアすべき意思決定プロセスが異なります。
登記実務においては、令和4年の法改正によって従たる事務所所在地での登記が廃止され、主たる事務所所在地での一括申請に簡素化されたため、以前よりも手続きのハードルは下がりました。しかし、一般法人法第303条に定められた「2週間以内」の登記期限や、事務所の設置・移転・廃止等を起点とする税務・労務関係の届出期限は依然として厳格です。
「手続きの進め方に不安がある」「定款の記載パターンに応じた最適な議事録の作成方法を知りたい」といった実務上の疑問が生じた場合は、手続きを放置せず、全国公益法人協会にご相談ください。法人の状況に合わせた正確な実務支援を提供いたします。