理事会を設置する一般社団法人では、代表理事が法人の業務を執行します。必要に応じて、代表理事以外の理事を「業務執行理事」に選定し、日常の具体的な業務を分担させることもできます。代表理事との違いや、選定に必要な手続、定期的に課される職務報告義務など、実務担当者が押さえるべき法的なポイントは多岐にわたります。
業務執行理事とは何か――代表理事との法的な違い
理事会設置一般社団法人において、代表理事以外の理事であって、理事会の決議によって法人の業務を執行する理事として選定された者は、第91条第1項第2号に基づいて業務を執行する理事に当たります。
なお、代表理事も法人の業務を執行する理事であり、一般社団・財団法人法第115条第1項では「業務執行理事」に代表理事を含めて定義しています。以下、特に断りがない限り、第91条第1項第2号に基づいて選定される「代表理事以外の業務執行をする理事」を、便宜上「業務執行理事」と表記します。
実務上、最も混同しやすいのが「代表理事」との権限の違いです。両者の最大の違いは「法人を代表する権限(代表権)」の有無にあります。
- 代表理事は、法人の業務に関する一切の裁判上または裁判外の行為を行う権限(代表権)を持ちます。契約の締結や対外的な法律行為は、原則として代表理事が法人の名義で行います。
- 業務執行理事は、理事会の決定に基づいて割り当てられた具体的な業務を執行する権限(業務執行権)を持ちますが、原則として法人を代表する権限はありません。
代表理事とは別に業務執行理事を置くことは必須ではない
理事会設置一般社団法人は代表理事を選定しなければならず、その代表理事が法人の業務を執行します(一般社団・財団法人法第90条第3項、第91条第1項第1号)。したがって、代表理事とは別に、第91条第1項第2号の業務執行理事を必ず置かなければならないわけではありません。代表理事だけで日常の業務執行を担える法人であれば、代表理事以外の業務執行理事を選定しない機関設計も可能です。
一方、事業部門が複数ある、代表理事の負担を分散したい、専務理事や常務理事に特定分野の執行責任を持たせたいといった場合には、代表理事以外の理事を業務執行理事として選定することが考えられます。設置の要否は、法人の規模や業務分担に応じて判断します。
契約締結の実務と権限の証明
業務執行理事に選定されたことだけでは、法人を代理して契約を締結する権限は生じません。法人名義で契約を締結する場合は、代表理事からその契約または取引類型について代理権を授与してもらう必要があります(一般社団・財団法人法第77条第4項)。委任状はその代理権を取引先に示す書面となりますが、理事会議事録が示すのは業務執行理事への選定や内部的な担当範囲であり、委任状の代わりにはなりません。
表見代表理事のリスク(第82条)
一般社団法人において、代表理事以外の理事に「理事長」や「会長」など、法人を代表する権限があると誤認されるような名称を付した場合、法的なリスクが生じます。
一般社団・財団法人法第82条の規定により、代表権のない理事に代表権があると誤認させる名称を付したときは、その理事がした行為について、法人は善意の第三者に対して責任を負わなければなりません。これを「表見代表理事」の責任と呼びます。
定款や規程で役職名を定める際は、第三者に代表権があると誤解されないよう、慎重に名称を選択する必要があります。代表理事そのものの代表権の範囲や、内部的な権限制限が善意の第三者に対抗できない仕組み、理事会の有無に応じた選定手続の詳細は、一般社団法人の代表理事|選定方法・権限・変更登記の実務で解説しています。
業務執行理事の選定と解職の手続
業務執行理事の選定および解職は、理事会の決議によって行います(一般社団・財団法人法第91条第1項第2号)。
定款上の役職名と法律上の位置づけ
多くの一般社団法人では、定款において「専務理事」「常務理事」「副会長」といった独自の役職名を設けています。これらはあくまで定款上の任意の役職名であり、法律上の「業務執行理事」として活動するためには、理事会において「業務執行理事として選定する」旨の決議を明確に行う必要があります。
実務上は、理事会の決議において「専務理事に選定すると同時に、法律上の業務執行理事に選定する」というように、定款上の役職と法律上の業務執行理事の紐付けを同時に行うことが一般的です。
理事会議事録による選定の証明
業務執行理事の選定事実は登記事項ではないため、選定・解職を決議した理事会の議事録が、その決議の内容を示す中心的な記録となります。一般社団・財団法人法第95条第3項は、理事会議事録の作成と署名または記名押印について定めています。
議事録の必須記載事項や出席理事・監事の署名・記名押印、10年間の備置き・閲覧請求といった作成実務そのものは、一般社団法人の理事会運営|招集手続・決議要件・議事録の実務で詳しく解説しています。
業務執行理事が「登記事項ではない」ことの実務的影響
一般社団法人において、代表理事の氏名および住所は登記簿(履歴事項全部証明書)に記載されますが、代表権のない業務執行理事(専務理事や常務理事など)は「理事」として氏名のみが登記されるにとどまります。
つまり、登記簿を見ても「その理事が業務執行権を持っているかどうか」は判別できません。
対外的な証明力を担保する方法
登記簿に業務執行理事である旨が記載されないため、金融機関との融資契約や大口の取引において、業務執行理事としての権限証明を求められることがあります。実務担当者は、以下の書類をセットで提示できるように準備しておきましょう。
- 法人の定款(専務理事や常務理事などの役職規定)
- 選定時の理事会議事録(原則として出席理事および監事が署名または記名押印したもの。定款で理事側の署名・記名押印者を出席した代表理事とする場合も、出席監事は署名または記名押印します)
- 代表理事からの委任状(法人の実印が押印されたもの)
職務報告義務と定款による緩和スケジュール
業務執行理事(および代表理事)には、自己の職務の執行状況を理事会に報告する義務が課されています(一般社団・財団法人法第91条第2項)。
この報告義務は、理事会による監督機能(一般社団・財団法人法第90条第2項第2号)を実効的なものにするための手続です。
原則と定款緩和ルールの比較
職務報告の頻度には、法律上以下の2つのパターンがあります。
| 区分 | 報告の頻度 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 原則 | 3か月に1回以上 | 一般社団・財団法人法第91条第2項 |
| 定款による緩和 | 毎事業年度に4か月を超える間隔で2回以上 | 一般社団・財団法人法第91条第2項ただし書 |
理事会の開催負担を抑えるため、定款に緩和規定を設けて年2回以上(4か月を超える間隔)で運用する法人は少なくありません。
3月決算法人をモデルとした年間スケジュール例
定款で「毎事業年度に4か月を超える間隔で2回以上」と定めている3月決算法人を例に、具体的な開催スケジュールを設計してみましょう。
「4か月を超える間隔」を空ける必要があるため、例えば以下のようなスケジュールが考えられます。
- 第1回理事会は6月中旬に開き、前年度の決算承認と定時社員総会に向けた報告準備を行います。
- 第2回理事会は3月中旬に開き、次年度の事業計画と予算案を承認します。
6月中旬から翌年3月中旬までは約9か月間の間隔があり、「4か月を超える間隔」の要件を十分に満たします。一方で、3月中旬から次の6月中旬までは約3か月間しか空かないため、この2回の理事会をもって「毎事業年度に2回以上」の報告義務をクリアすることになります。
年度をまたぐ期間の計算や、開催日の設定においては、報告期間が極端に偏らないよう、あらかじめ年間カレンダーを設計しておくことが実務上不可欠です。
職務報告について報告省略は不可
一般社団・財団法人法において、理事会の決議事項については一定の要件を満たせば書面決議(決議の省略)が可能ですが、「職務の執行状況の報告」については、書面や電磁的記録による報告の省略が認められていません(一般社団・財団法人法第98条第2項)。
したがって、職務報告を行うための理事会は、必ず理事が実際に一堂に会する(またはテレビ会議やオンライン会議など、即時双方向の意見交換が可能な方法による)実開催を確保する必要があります。
理事会の権限と業務執行理事への委任限界
理事会は、法人の業務執行の決定や理事の職務執行の監督を行う機関です(一般社団・財団法人法第90条第2項)。日常の細かな業務は業務執行理事に委任できますが、何でも委任できるわけではありません。
理事会専決事項(委任できない事項)
一般社団・財団法人法第90条第4項に基づき、以下の重要な業務執行の決定は、業務執行理事に委任することが禁止されています。これらは必ず理事会の決議を経なければなりません。
- 重要な財産の処分及び譲受け
- 多額の借財
- 重要な使用人の選任及び解任
- 従たる事務所その他の重要な組織の設置、変更及び廃止
- 業務の適正を確保するための体制(内部統制システム)の整備
- 定款の定めに基づく役員等の責任の免除
「業務権限規程」による明確な境界線の設計
実務において「どこまでが日常業務で、どこからが理事会決議を要する重要な業務執行なのか」の境界線は曖昧になりがちです。
法人の独断的な運営を防ぎ、ガバナンスを維持するためには、あらかじめ「業務権限規程」や「決裁権限表」を策定しておくことが推奨されます。例えば、「1件100万円未満の契約は業務執行理事の決裁、100万円以上の契約は理事会決議を要する」といった具体的な数値基準を設けることで、実務担当者も迷わずに手続を進めることができます。
報酬・責任における実務上の留意点
最後に、業務執行理事の報酬決定プロセスと、職務に伴う法的な責任について整理します。
役員報酬の決定プロセス(第89条)
業務執行理事の報酬等は、定款にその額を定めていないときは、社員総会の決議によって定めます(一般社団・財団法人法第89条)。
実務上は、社員総会で「理事全員の報酬総額の上限」を決定し、各理事への具体的な配分額の決定は理事会に一任する、という2段階のプロセスをとるのが一般的です。
また、理事が事務局長などの職員を兼ねる場合、理事としての委任関係と職員としての雇用関係は別に成立します。職員としての職務内容と給与を役員報酬から区分し、雇用契約、職務分掌、勤務実態を記録しておくことが必要です。理事本人との雇用条件や給与の決定が法人との直接取引に当たる場合は、利益相反取引として所定の承認手続も確認します。税務上の使用人兼務役員に該当するかは、役職名だけでなく職務の実態に基づいて別途判定しなければなりません。
職務報告を怠った際の任務懈怠リスク(第111条)
前述した「職務報告義務」を怠ることは、それ自体が法令違反(任務懈怠)を構成します。職務報告を怠った結果、理事会による監督機能が働かず、法人に巨額の損失や不祥事が発生した場合、業務執行理事個人が多額の損害賠償責任(一般社団・財団法人法第111条第1項)を問われるリスクに直結します。
「忙しいから」「いつも通りの業務だから」と理事会での報告を省略せず、定期的な実開催と適正な報告を続けることが、法人と理事個人を守ることにつながります。役員が負う任務懈怠責任の要件(善管注意義務・経営判断の原則)や、責任限定契約・社員総会や定款による一部免除といった賠償リスクの軽減制度は、一般社団法人の理事・監事の責任|任務懈怠責任・損害賠償・責任限定契約で詳しく解説しています。
代表理事以外の業務執行理事は、すべての理事会設置一般社団法人に必須の役職ではなく、法人の規模や業務分担に応じて置く任意のポジションです。選定する場合は、代表権を持たないことによる対外的な証明実務や、理事会専決事項との境界線、そして厳格な職務報告義務など、法律上のルールを踏まえて運用する必要があります。
「現在の定款の報告頻度はどうなっているか」「業務権限の基準は明確か」など、自法人の現状に不安がある場合や、規程の整備方法について具体的なアドバイスが必要な場合は、全国公益法人協会にご相談ください。法人の状況に応じて、適切な運営体制づくりをサポートいたします。