一般社団法人において、理事会は法人の業務執行を決定し、理事の職務執行を監督する極めて重要な意思決定機関です。法令に則った適正な理事会運営は、法人のガバナンスを維持し、対外的な信用を担保するための基盤となります。本記事では、招集手続から決議要件、議事録の作成、書面決議の特例に至るまで、実務担当者が確実に押さえておくべき実務のポイントを体系的に解説します。
大海原を行く船において、舵取りの方向を決める羅針盤の役割を果たすのが理事会です。しかし、その羅針盤が正しく機能するためには、精緻に組まれた歯車のようなルールを遵守しなければなりません。もし招集手続や決議の方法に不備があれば、後日その決議の効力が争われるおそれもあります。実務の現場で迷いが生じやすい論点を整理し、円滑な運営を実現するための具体的な手順を見ていきましょう。
理事会設置の要否――任意設置と必置義務の境界線
一般社団法人を設立する際、あるいは運営を見直す際に、まず整理しておくべきなのが理事会の設置義務に関するルールです。すべての一般社団法人が理事会を設置する必要があるわけではありません。
一般社団法人には一人以上の理事を置かなければなりませんが(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律――以下、一般法人法と表記します――第60条第1項)、理事会の設置は原則として任意であり、定款の定めによって置くことができます(同条第2項)。理事会を設置しない機関設計を選択した場合、業務執行に関する意思決定は、理事が2人以上いるときは原則として理事の過半数によって行います(一般法人法第76条第2項)。
もっとも、法人の性質によっては、理事会の設置が法律上必須となる場合や、実務上ほぼ不可欠となる場合があります。代表的な2つの場面を見ていきましょう。
第1に、公益認定を受けて公益社団法人となる場合です。公益社団法人は、そのガバナンスを適正に確保する要請が極めて強いことから、公益認定の基準として理事会の設置が求められ、法律上必須とされています(一般法人法第60条第2項、公益認定法第5条)。
第2に、大規模一般社団法人に該当する場合です。貸借対照表上の負債の合計が200億円以上となる法人はこの大規模一般社団法人にあたり、会計監査人を置く義務があります(一般法人法第62条)。会計監査人を置く法人は監事も設置しなければならないため(一般法人法第61条)、監事も必要になります。大規模一般社団法人それ自体に理事会の設置が法律上義務付けられているわけではありませんが、会計監査人と監事を備えた体制を適切に機能させる観点から、実務上は理事会の設置が強く求められます。
なお、理事会を設置する一般社団法人(理事会設置一般社団法人)では、必ず監事を置く必要があります(一般法人法第61条)。理事会による業務執行を客観的に監視・監査する仕組みが必要となるためです。法人の規模や事業目的、将来的な公益認定の取得可否などを見据えて、最適な機関設計を選択することが重要です。
理事会の招集手続――招集権者と通知期間の厳格なルール
理事会を開催するためには、法令に定められた厳格な招集手続を経る必要があります。この手続を怠ると、後に理事会の決議の効力そのものが否定される原因になりかねません。
招集権者の決定と定款の定め
理事会を招集する権限は、原則として各理事にあります(一般法人法第93条第1項)。もっとも実務上は、代表理事を招集権者とする旨を定款で定めている法人が大半を占めています。
このように定款または理事会において、理事会を招集する理事を定めた場合には、その理事が招集権者となります(一般法人法第93条第1項ただし書)。招集権者以外の理事が理事会を開催したい場合は、招集権者に対して理事会の目的である事項を示して、理事会の招集を請求することになります(一般法人法第93条第2項)。
招集通知の発送期限と短縮の特例
理事会を招集するときは、理事会の日の1週間前までに、各理事及び各監事に対して通知を発しなければなりません(一般法人法第94条第1項)。
この1週間という期間は、定款で定めることによって、さらに下回る期間に短縮することが可能です(一般法人法第94条第1項ただし書)。たとえば、緊急の意思決定に備えて、通知期間を3日前まで、あるいは前日までと定款で短縮している法人も少なくありません。
招集手続の省略
理事及び監事の全員の同意があるときは、招集手続を経ることなく理事会を開催することができます(一般法人法第94条第2項)。
これは、役員全員がすでに一堂に会している場合や、全員のスケジュール調整がついており、あえて正式な招集通知を発する必要がない場合に実務を簡素化するための規定です。ただし、後日の紛争を防ぐためにも、招集手続を省略したことについて全員の同意があった旨を、理事会議事録に明記しておくことが望ましいでしょう。
決議要件と特別利害関係人――適正な意思決定を担保する仕組み
理事会における決議は、社員総会とは異なる独特のルールが適用されます。特に頭数による多数決である点や、特定の議案に関与できない理事が生じる点について、実務担当者は正確に理解しておく必要があります。
決議要件の基本原則
理事会の決議は、その議案について特別の利害関係をもつ理事を除いた理事の過半数が出席し、出席した理事の過半数の賛成によって成立します(一般法人法第95条第1項)。
定款によって、この決議要件を上回る割合(たとえば3分の2以上など)を定めることは可能ですが、下回る割合を定めることはできません。
ここで極めて重要な実務上の注意点は、理事会においては代理人による出席や、書面による議決権の行使が一切認められないという点です。社員総会では委任状による代理出席や書面投票が認められていますが、理事会は理事が自ら出席して議論を交わし、相互に職務執行を監督する場であるため、他人に意思決定を委ねることはできないと解されています。
特別利害関係人の定義と実務上の扱い
決議について特別の利害関係を有する理事は、その議決に加わることができません(一般法人法第95条第2項)。
特別の利害関係とは、理事が法人の利益と相反する個人的な利害関係を有している場合を指します。代表的な例としては、以下のような場面が挙げられます。
- 理事自身が代表を務める他の団体や企業と、一般社団法人との間で取引を行う場合(自己取引・間接取引の承認決議)
- 特定の代表理事の解職や、特定の理事に対する責任追及(損害賠償請求)を行うかどうかの決議
これらの議案を審議する際、該当する理事は決議に加わることができないため、定足数(出席理事の数)の算定基礎からも除外されます。該当する理事は、審議の公平性を保つため、その議案の審議および採決の間は退席してもらうのが実務上の一般的な対応です。
理事会議事録の作成と保存――実務担当者が押さえるべき必須記載事項
理事会を開催したときは、その内容を正確に記録した議事録を作成することが法律上義務付けられています(一般法人法第95条第3項)。議事録は、意思決定のプロセスが適正であったことを証明する唯一の公的文書であり、怠ると過料の対象となるため、細心の注意を払って作成しなければなりません。
議事録の必須記載事項
理事会議事録に記載すべき事項は、一般法人法施行規則(第15条第3項)に定められています。主に以下の項目が求められます。
- 理事会が開催された日時及び場所(ウェブ会議等による場合は、その出席方法)
- 理事や監事の請求を受けて招集された場合など、一定の招集事由に当たるときはその旨
- 出席した理事、監事、代表理事等の氏名
- 議事の経過の要領及びその結果(どのような議論が行われ、どのような結論に至ったか)
- 決議について特別の利害関係を有する理事の氏名
- 議長が存するときは、その氏名
署名・記名押印の義務
作成した理事会議事録には、出席した理事及び監事が署名し、又は記名押印しなければなりません(一般法人法第95条第3項)。
定款において「出席した代表理事及び監事が署名押印する」といった限定的な定めを置くことも可能ですが、原則としては出席者全員の署名押印が求められます。実務においては、遠方に居住する理事がいる場合など、全員から押印を回収するまでに時間を要することが多いため、あらかじめ回収ルートやスケジュールを設計しておくことが欠かせません。
議事録の保存期間と閲覧請求
完成した理事会議事録は、理事会の日から10年間、法人の主たる事務所に備え置かなければなりません(一般法人法第97条第1項)。
理事会議事録の閲覧・謄写には、社員総会議事録よりも厳格な制限がある点に注意が必要です。社員は、その権利を行使するために必要があるときに、裁判所の許可を得て閲覧又は謄写を請求できます(一般法人法第97条第2項)。債権者も、理事又は監事の責任を追及するために必要があるときは、同じく裁判所の許可を得て請求できます(一般法人法第97条第3項)。
書面決議(決議省略)の例外――迅速な意思決定を可能にする要件
日常の法人運営において、急を要する事項や、極めて形式的な事項について、わざわざ役員を一堂に集めて理事会を開催することが非効率な場合があります。このような場合に活用できるのが、書面又は電磁的記録による決議の省略(いわゆる書面決議)の制度です(一般法人法第96条)。
書面決議が成立するための3つの要件
書面決議を有効に成立させるためには、以下の3つの要件をすべて満たさなければなりません。
第1に、定款に「理事会の決議の省略(書面決議)ができる」旨の定めを設けていることです。定款にこの根拠規定がない場合は、いかなる議案であっても書面決議を行うことはできません。
第2に、理事が提案した決議事項について、議決に加わることができる理事の全員が、書面又は電磁的記録(メールや電子署名システムなど)により同意の意思表示をすることです。1名でも反対している場合や、回答が得られない場合は、書面決議は成立しません。
第3に、監事がその提案について異議を述べないことです(一般法人法第96条ただし書)。監事は、理事が提案した内容に問題があると判断した場合には、異議を述べることで書面決議の成立を阻止し、通常の理事会の開催を求めることができます。
報告の省略とその例外
理事会への報告事項についても、理事、監事又は会計監査人が、理事及び監事の全員に対して報告すべき事項を通知したときは、理事会への報告を省略することができます(一般法人法第98条第1項)。
ただし、この報告省略には重大な例外があります。代表理事や業務執行理事が自己の職務の執行状況を理事会に報告する義務(一般法人法第91条第2項)については、報告省略の規定を適用できません(一般法人法第98条第2項)。
この報告は、原則として3か月に1回以上行う必要があり、定款で定めた場合に限り、毎事業年度に4か月を超える間隔で2回以上とすることが認められます(一般法人法第91条第2項)。ガバナンスの根幹をなす報告であるため、書面による通知だけで済ませることはできず、実際に理事会を開催するか、ウェブ会議システムなど双方向でやり取りできる状態で報告する必要があります。実務上、極めて注意を要する点です。
結び
一般社団法人の理事会運営は、一見すると形式的で煩雑な手続の連続に見えるかもしれません。しかし、その一つひとつのプロセスは、法人の意思決定の正当性を担保し、役員の責任を明確にするための法的盾となります。
特に招集通知の期間や特別利害関係人の除外、議事録の署名押印といった基本実務を疎かにすると、後々になって決議の効力が争われるなど、法人の存続に関わる事態を招きかねません。
法改正の動向や、定款の記載内容に応じた個別具体的な実務対応について、判断に迷う場面が生じた際には、確実な実務を期するためにも、全国公益法人協会にご相談ください。豊富な知見をもとに、貴法人の適正なガバナンス構築をサポートいたします。