一般社団法人の理事・監事の責任|任務懈怠責任・損害賠償・責任限定契約

一般社団法人の理事・監事の責任|任務懈怠責任・損害賠償・責任限定契約

一般社団法人の理事は法人の業務執行やその意思決定を担い(理事会設置一般社団法人では、実際に業務を執行するのは代表理事および理事会が選定した業務執行理事で、その他の理事は理事会を通じた監督にあたります)、監事はその理事の職務の執行を監査する重要な役割を担いますが、いずれの職務にも重い法的責任が伴います。万が一、任務を怠って法人に損害を与えた場合はもちろん、職務について悪意または重大な過失があって第三者に損害を与えた場合にも、役員個人が巨額の賠償責任を負うリスクがあります。本稿では、一般社団法人の役員が負う責任の全体像と、そのリスクを適法にコントロールするための実務的な防衛策を詳しく解説します。

ある日突然、法人が行った事業の失敗によって、理事個人に対して数千万円の損害賠償を求める訴えが提起されます。このような事態は、決して他人事ではありません。一般社団法人は非営利法人ですが、これは収益事業を行って利益を上げること自体を禁じる意味ではなく、あくまで株式会社と異なり剰余金を社員に分配できないことを指します(社員総会は剰余金を分配する旨の決議をすることができません。一般法人法第35条第3項)。しかし、その運営を担う役員が負う法的責任の重さは、営利企業の取締役と何ら変わりません。

名前を貸しているだけの平理事だから責任はないだろうという甘い認識は、法的な紛争の場では一切通用しません。役員としての地位を引き受けた以上、すべての理事が善管注意義務という重い鎖で法人と結ばれることになります。では、どのような場合に責任が発生し、どのようにしてそのリスクを回避すべきなのでしょうか。その具体的な仕組みを紐解いていきましょう。

役員が負う善管注意義務と任務懈怠責任の基本構造

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一般社団法人と理事・監事との関係には、委任に関する規定が適用されます(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第64条。以下、一般法人法といいます)。そのため、役員は法人に対して、善良な管理者の注意をもってその職務を執行する義務、すなわち善管注意義務を負います(民法第644条)。この義務を怠ることを任務懈怠と呼び、これによって法人に損害が生じた場合、役員は法人に対して損害賠償責任を負わなければなりません(一般法人法第111条第1項)。

実務上、どのような行為が任務懈怠とみなされるのかは、役員の意思決定プロセスが適正であったかどうかが基準となります。ここで重要となるのが、経営判断の原則という法理です。事業の性質上、将来の予測には不確実性が伴うため、結果的に事業が失敗して法人に損失が出たからといって、直ちに理事が善管注意義務違反に問われるわけではありません。

意思決定の時点で、理事が以下の2つの要素を満たしていた場合には、その判断は尊重され、任務懈怠責任は否定される傾向にあります。

第1に、意思決定の前提となる事実の認識や情報収集のプロセスが、当時の状況に照らして合理的であったこと。 第2に、その情報に基づき、法人の目的や状況を考慮した意思決定の内容自体が、著しく不合理なものではなかったこと。

しかし、この経営判断の原則は、無限の裁量を認めるものではありません。特に一般社団法人の場合、非営利の活動を行うことが多いため、株式会社に比べてリスク許容度が低く見積もられる場面があります。たとえば、十分な調査や専門的な検討を経ずに、法人の財産を投機性の高い金融商品に投資して損失を出した場合や、回収の見込みが極めて低い相手に対してずさんな貸付を行った場合などは、情報収集や調査のプロセスを怠ったとして、経営判断の原則の適用から外れ、善管注意義務違反と判断される可能性が高くなります。

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競業取引と利益相反取引における厳格なルール

理事が法人と競合する事業を行ったり、法人と利害が対立する取引を行ったりする場合、法人の利益が損なわれる危険性が高まります。そのため、一般法人法は、これらの取引について厳格な事前承認手続きを義務付けています(社員総会による承認は第84条第1項、理事会設置一般社団法人における理事会による承認は第92条第1項が根拠となります)。

具体的には、理事が自己又は第三者のために一般社団法人の事業の部類に属する取引を行おうとする場合(競業取引)、あるいは理事が自己又は第三者のために法人と取引をする場合(直接取引)や、法人が理事の債務を保証するなど理事以外の者との間で法人と理事の利益が相反する取引を行う場合(間接取引)といった利益相反取引を行う場合には、あらかじめ社員総会(理事会設置法人においては理事会)において、当該取引についての重要な事実を開示し、その承認を受けなければなりません。さらに、理事会設置一般社団法人においては、取引を行った理事は、取引後遅滞なくその取引についての重要な事実を理事会に報告しなければなりません(一般法人法第92条第2項)。

もし、この承認手続きを怠って取引を行った場合、その取引の私法上の効力について、一般法人法は明文の規定を置いていません。取引の類型(理事本人が当事者となる直接取引か、法人が理事の債務を保証するなどの間接取引か)に応じて解釈上の議論があり、法令上当然に有効・無効が定まるわけではないため、個別の事案ごとに慎重な検討が必要となります。さらに深刻なのは、法人に損害が生じた場合の損害賠償責任です。

承認の有無にかかわらず、利益相反取引によって法人に損害が生じた場合、その取引を行った理事、法人が取引をすることを決定した理事、そしてその取引に関する理事会決議に賛成した理事は、任務を怠ったものと推定され、賠償責任を免れることが極めて困難になります(一般法人法第111条第3項)。

特に注意すべきは、理事が自己のために法人と直接取引を行った場合です。この直接取引によって法人に損害が生じたときは、その取引を行った理事は、任務を怠ったことが自らの責めに帰することができない事由によるものであることを理由として責任を免れることができない、という加重された責任を負います(一般法人法第116条第1項)。この場合には、社員総会による一部免除・定款による一部免除・責任限定契約(第113条から第115条まで)を適用することができません(同法第116条第2項)。ただし、総社員全員の同意による免除(同法第112条)まで否定されるわけではありません。利益相反取引を行う際は、手続きの不備が役員個人の破滅的な賠償リスクに直結することを肝に銘じておく必要があります。

第三者に対する損害賠償責任と悪意・重過失の判断基準

一般社団法人の役員が負う責任は、法人に対するものだけではありません。職務を行うにあたり、役員に悪意又は重大な過失があったときは、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負わなければなりません(一般法人法第117条第1項)。これは、法人の債権者や取引先などの第三者を保護するために、法律が特別に認めた重い責任です。さらに、計算書類や事業報告、監査報告などの重要な事項について虚偽の記載・記録をした役員は、その行為について注意を怠らなかったことを証明できない限り、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負います(同条第2項)。

ここでいう悪意とは、自己の職務の執行が任務を怠るものであることを知りながらあえて行うことを指し、必ずしも第三者に損害が生じることまで認識している必要はありません。また、重大な過失とは、わずかな注意を払えば任務懈怠を回避できたにもかかわらず、著しい不注意によってそれを怠った状態を意味します。

実務上、どのような行為が重大な過失と認定されるかは、個別の事案ごとに判断されますが、以下のようなケースが典型例として挙げられます。

第1に、代表理事が法人の資金を私的に流用していることを知りながら、他の理事がこれを放置し、適切な監視や是正措置を怠った場合。 第2に、法人の財務状況が極めて悪化しており、近い将来に債務不履行に陥ることが確実であるにもかかわらず、取引先に対してその事実を隠して新たな取引を行い、最終的に代金の支払いが不能となった場合。 第3に、監事が法人の会計や業務執行に重大な不正があることを見逃し、監査報告書に虚偽の記載をして社員総会に提出した場合。

自分は非常勤の理事だから、日常の業務執行には関与していないという言い訳は、第三者に対する責任を免れる理由にはなりません。業務執行を行わない非業務執行理事であっても、他の理事の職務執行を監督する義務を負っているため、その監督を著しく怠ったと判断されれば、重大な過失として第三者への賠償責任を免れなくなります。

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法人に対する賠償責任を軽減・免除する4つの制度

役員が負う損害賠償責任は、時に法人の存続や役員個人の生活を脅かすほどの巨額に達することがあります。そこで、一般法人法は、役員が過度に萎縮することなく適切な意思決定を行えるよう、法人に対する賠償責任を軽減又は免除するための4つの制度を設けています。

第1に、総社員の同意による免除です(一般法人法第112条)。法人に生じた損害について、すべての社員が免責に同意した場合には、役員の賠償責任は全額免除されます。ただし、社員が1人でも反対すればこの制度は利用できません。

第2に、社員総会の特別決議による一部免除です(一般法人法第113条)。役員が職務を行うについて善意で、かつ重大な過失がないときは、賠償責任額から最低責任限度額を控除した額を限度として、社員総会の特別決議によって責任を免除することができます。最低責任限度額は、役員がその在職中に法人から職務執行の対価として受け、または受けるべき財産上の利益の1年間当たりの額(法務省令で定める方法により算定した額)に、役職に応じた以下の数を乗じて算定します。免除の決議後にその役員へ退職慰労金などの財産上の利益を与える場合には、あらためて社員総会の承認が必要となります(一般法人法第113条第4項)。

  • 代表理事:6倍
  • 代表理事以外の理事のうち、理事会の決議で業務を執行する理事として選定された者・実際に業務を執行した理事・使用人を兼務する理事:4倍
  • その他の理事(非業務執行理事)、監事および会計監査人:2倍

第3に、定款の定めに基づく一部免除です(一般法人法第114条)。あらかじめ定款に定めておくことで、役員が善意で重大な過失がなく、かつ責任の原因となった事実の内容や職務の執行の状況その他の事情を勘案して特に必要と認められる場合に限り、最低責任限度額を控除した額について、理事会設置一般社団法人では理事会の決議により、理事会を設置しない場合は理事が2人以上ある監事設置一般社団法人に限り、責任を負う役員等が理事である場合には当該理事を除いた理事の過半数の同意により、責任を免除することができます。ただし、この免除は理事会の決議または理事の過半数の同意だけで直ちに確定するわけではありません。その決議・同意の後、理事は遅滞なく、免除の内容と、異議があれば一定期間(1か月以上)内に述べるべき旨を社員に通知し、その責任を負う役員等である社員を除いた総社員の議決権の10分の1(定款でこれを下回る割合を定めた場合はその割合)以上を有する社員がこの期間内に異議を述べなかった場合に、はじめて免除の効力が生じます(一般法人法第114条第3項・第4項)。この制度を導入するには監事の設置が必要であり、免除に関する定款変更の議案を社員総会に提出するには、監事が2人以上あるときはその全員の同意を得なければなりません(一般法人法第114条第2項、第113条第3項)。

第4に、非業務執行理事等との責任限定契約です(一般法人法第115条)。これは、業務を執行しない非業務執行理事や監事、会計監査人を対象に、これらの者が法人に対して負う損害賠償責任について、定款で定めた額の範囲内であらかじめ法人が定めた額と、最低責任限度額とのいずれか高い額を限度とする旨を、あらかじめ契約で定めておく制度です。この責任限定契約を締結できる旨を定款に設ける議案を社員総会に提出するには、監事設置一般社団法人では各監事の同意を得る必要があります(一般法人法第115条第3項、第113条第3項)。ただし、責任限定契約による軽減が認められるのは、対象の役員が職務を行うにつき善意で、かつ重大な過失がない場合に限られます。また、自己のために法人と直接取引をした理事が負う任務懈怠責任については、帰責事由がないことを理由に免れることができないとされ(一般法人法第116条第1項)、社員総会による一部免除・定款による一部免除・責任限定契約(第113条から第115条まで)を適用することはできません(同法第116条第2項)。もっとも、総社員全員の同意があれば、この責任も免除することは可能です(同法第112条)。このように、契約さえ結べば無条件に責任が制限されるわけではない点に注意が必要です。

責任限定契約を導入するための実務手続きは、以下の手順に沿って進めます。

まず、定款に責任限定契約を締結できる旨の規定を追加するため、社員総会の特別決議を行います。この特別決議を可決するには、総社員の半数以上が賛成し、かつ総社員の議決権の3分の2以上に当たる賛成を得る必要があります(出席した社員ではなく総社員が基準となる点に注意が必要です。定款でこれを上回る割合を定めることもできます。一般法人法第49条第2項)。

次に、定款変更の効力が発生した日から2週間以内に、主たる事務所の所在地において、非業務執行理事等が負う責任の限度に関する契約の締結についての定款の定めを変更登記として申請しなければなりません(一般法人法第301条第2項)。この登記申請には、登録免許税として1件あたり3万円が必要となります。登記を怠ると、過料などの制裁を受ける可能性があるため、期限内の手続きを徹底する必要があります。

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役員の訴訟リスクに備えるD&O保険と補償契約の実務

定款による責任免除や責任限定契約は、あくまで法人に対する賠償責任を軽減するための制度であり、第三者から直接訴えられた場合の賠償責任や、訴訟に対応するための多額の弁護士費用(防御費用)まではカバーできません。そこで実務上、極めて有効な防衛策となるのが、D&O保険(役員賠償責任保険)の導入と補償契約の締結です。

D&O保険とは、役員が職務執行に伴って損害賠償請求を受けた場合に、役員個人が負担する賠償金や争訟費用を補填する保険契約です(一般法人法第118条の3)。一般社団法人がこの保険契約の内容を決定するには、理事会設置一般社団法人では理事会の決議が、理事会を設置しない一般社団法人では社員総会の決議が必要です(一般法人法第118条の3第1項)。なお、法人が保険料を負担した場合の役員個人への給与課税の有無は、一般法人法ではなく法人税法上の取扱いや国税庁の通達等によって判断される事項です。適法な手続きを経て法人が保険料を負担した場合、一定の要件のもとでは役員個人への給与課税は生じないものとして取り扱われることがありますが、被保険者の範囲や補償内容、法人負担の合理性によって税務上の取扱いは異なるため、導入にあたっては個別に確認が必要です。なお、全国公益法人協会でも一般社団法人・一般財団法人や公益社団・財団法人の役員を対象とした役員賠償責任保険をご用意しています。社員代表訴訟や第三者訴訟における損害賠償金や争訟費用(弁護士費用等)を補償対象としており、こうした保険を活用することも、役員個人のリスクを軽減する有効な選択肢の一つとなります。

また、補償契約とは、役員が職務執行に関して損害賠償請求を受けた場合に、法人がその役員に対して、責任追及への対処に要する争訟費用や、第三者に生じた損害の賠償・和解による損失を補償することをあらかじめ約束する契約です(一般法人法第118条の2第1項)。この契約の内容を決定するには、理事会設置一般社団法人では理事会の決議が、理事会を設置しない一般社団法人では社員総会の決議が必要です(一般法人法第118条の2第1項)。もっとも、補償できる範囲には法律上の限界があり、通常要する費用を超える部分、第三者への損害賠償に関して法人が肩代わりすれば当該役員が法人に対して損害賠償責任を負うこととなる部分、および役員に悪意または重大な過失があったことによりその賠償責任を負う場合の損失などは、補償の対象とすることができません(一般法人法第118条の2第2項)。

これらの制度を組み合わせることで、役員は個人財産を失うリスクを大幅に低減させることができ、安心して法人の運営に専念することが可能となります。

社員による責任追及の訴えと法人の対応

一般社団法人において、理事が任務を怠って法人に損害を与えたにもかかわらず、法人がその理事に対して賠償請求を行わない場合、社員が法人に代わって理事の責任を追及する訴えを提起することができます。これを責任追及の訴え(代表訴訟)と呼びます(一般法人法第278条第1項)。

社員は、法人に対して、理事の責任を追及する訴えを提起するよう書面その他の法務省令で定める方法により請求することができ、法人が請求の日から60日以内に訴えを提起しないときは、その社員自らが法人のために訴えを提起することができます。ただし、その請求が当該社員や第三者の不正な利益を図り、または法人に損害を加えることを目的とする場合には、この請求は認められません(一般法人法第278条第1項ただし書)。また、60日の経過を待つことで法人に回復することができない損害が生ずるおそれがある場合には、社員は直ちに責任追及の訴えを提起することができます(同条第4項)。この制度があるため、理事が他の理事と馴れ合って責任を有耶無耶にすることは許されません。

このような法的リスクから役員を守り、同時に法人の適正な運営を確保するためには、日頃からのガバナンスの構築が不可欠です。意思決定を行う際には、理事会設置一般社団法人であれば理事会を適切に開催し(理事会を設置しない法人では原則として理事の過半数によって業務執行を決定し)、必要な情報を十分に収集した上で、議論のプロセスを議事録に詳細に記録しておく必要があります。また、利益相反取引などのデリケートな取引を行う場合は、事前に承認手続きを確実に経ておくことが、万が一の際の最大の防御壁となります。

一般社団法人の役員責任や、責任限定契約の導入手続き、定款変更の実務について、具体的な進め方や自法人の状況に応じた最適な設計に迷う場合は、全国公益法人協会にご相談ください。専門的な知見に基づき、貴法人の健全な運営と役員のリスク管理をトータルでサポートいたします。

監修者Profile
監修者イラスト
桑波田直人(くわはた・なおと)
(一財)全国公益支援財団専務理事、(株)全国非営利法人協会(全国公益法人協会)専務取締役、(公社)非営利法人研究学会常任理事。 『公益・一般法人』編集長、非営利法人研究学会事務局長等を経て現職。AIチャット「全国公益AIナビ」開発者、全国公益法人協会AI駆動自動化委員会委員長。編著に『新訂版 公益法人・一般法人の機関と運営』、『非営利用語辞典』。

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