一般社団法人の主たる事務所移転では、現行定款に記載された所在地の範囲、法人の機関設計、移転先を管轄する登記所の3点によって手続きが分かれます。定款変更を伴うときは社員総会の特別決議が必要となり、登記上の所在場所が変われば、同じ市区町村内の移転であっても変更登記が必要です。
賃貸借契約の開始日は10月1日、実際に事務局が業務を始めるのは10月3日、理事会は10月5日――このように日付が前後すると、どの日を移転日として決議し、いつから2週間の登記期間を数えるのかが曖昧になります。事務所探しや引越しの手配が先行しやすい場面だからこそ、法人内部の決議と登記を移転計画の中に組み込んでおかなければなりません。
最初に確認する現行定款の所在地
移転手続きの出発点は、現行定款の主たる事務所条項です。一般社団法人の定款には主たる事務所の所在地を記載しなければならず、登記簿には主たる事務所の具体的な所在場所が記録されます(一般法人法第11条第1項第3号、第301条第2項第3号)。
定款に「主たる事務所を東京都港区に置く」と定めている法人が港区内で移転する場合、通常は定款変更を要しません。定款が所在地を番地まで特定していれば、同じ区内や同じ建物内の移転でも、その記載を変えるための定款変更が必要です。反対に、港区から中央区へ移る場合は、定款に定めた所在地の範囲を外れるため、定款変更を伴います。
ここで、市区町村の境界と登記所の管轄区域は別の判断軸であることを押さえておきたいと思います。定款変更の要否は定款の文言と移転先を照合して判断し、登記申請の方法は旧所在地と新所在地を管轄する登記所が同じかどうかで判断します。この2つを一緒に考えると、必要な決議や申請書を取り違えます。
定款変更と移転先決定の順序
定款に記載された所在地の範囲を超える移転では、社員総会で定款を変更します。定款変更は社員総会の特別決議事項であり、総社員の半数以上であって、総社員の議決権の3分の2以上に当たる多数が必要です。定款でこれを上回る割合を定めているときは、その定めに従います(一般法人法第146条、第49条第2項第4号)。
定款変更一般の手続き、公証人による再認証の要否、現行定款の整え方は、公開済みの一般社団法人の定款変更に関する解説で詳しく扱っています。事務所移転では、社員総会の議案に変更後の所在地だけでなく、定款変更の効力が生じる日も明確に記載しておくと、移転日との関係を整理しやすくなります。
定款上の所在地を変更しただけでは、具体的な移転先と移転日が決まらないことがあります。たとえば、社員総会で所在地を「東京都港区」から「東京都中央区」へ変更した後、中央区内のどの住所にいつ移るかは、業務執行の決定として別に確定させます。
理事会を置かない一般社団法人で理事が2人以上いるときは、定款に別段の定めがなければ、理事の過半数で業務を決定します(一般法人法第76条第2項)。理事会設置一般社団法人では、業務執行の決定は理事会の職務であるため、理事会で移転先と移転日を決議します(一般法人法第90条第2項第1号)。定款変更と移転先の決定を別の機関で行う場合は、それぞれの議事録に記載した所在地と効力発生日が食い違わないようにします。
移転日を曖昧にしない決議と契約
移転日は、登記期間の起算に直結します。決議書や議事録に「新事務所で業務を開始した日」などと抽象的に書くのではなく、具体的な年月日を定めてください。その日までに賃貸借契約上の引渡しを受け、法人が新所在地を主たる事務所として使用できる状態を整えます。
契約開始日、鍵の引渡日、什器の搬入日、旧事務所の退去日が異なることは珍しくありません。すべての日付を一致させる必要はありませんが、理事または理事会が決めた移転日と、実際に法人の中心的な業務拠点を移した日が食い違う状態は避けるべきです。登記申請書、議事録、賃貸借契約書を並べたときに、移転の経緯を一貫して説明できる日程にします。
管轄内移転と管轄外移転の変更登記
主たる事務所は登記事項であるため、その所在場所が変わったときは2週間以内に変更登記を行います(一般法人法第303条)。定款変更が不要な同一市区町村内の移転でも、登記簿上の住所が変わる以上、登記は省略できません。
旧所在地と新所在地を同じ登記所が管轄する場合は、その登記所へ主たる事務所移転登記を申請します。別の登記所の管轄区域へ移る場合は、旧所在地では移転の登記を、新所在地では一般社団法人の登記事項を登記しなければなりません(一般法人法第304条)。管轄外移転では、旧所在地を管轄する登記所宛てと新所在地を管轄する登記所宛ての申請書を作成し、2通を同時に旧所在地の登記所へ提出します。申請書の現行様式と記載例は、法務局の商業・法人登記の申請書様式で確認できます。
添付書面は決議の構成によって変わります。定款変更を伴う場合は社員総会議事録、理事会設置法人で移転先と移転日を別に決めた場合は理事会議事録、理事会を置かない法人では理事の決定を証する書面が中心です。代理人が申請するときは委任状も必要になります。申請書を作り始めてから議事録の不足に気づくのでは遅いため、社員総会や理事会の招集前に、登記申請までを見据えて議案を組み立てます。
登記を怠った理事等は100万円以下の過料の対象となります(一般法人法第342条第1号)。2週間という期間を確保するには、移転日より前に申請書案と添付書面案を作り、決議後は日付と決議結果を反映すれば提出できる状態にしておくのが確実です。
現行定款と住所情報の更新
定款変更を伴う移転では、変更後の条文を反映した現行定款を整えます。一般社団法人は定款を主たる事務所と従たる事務所に備え置かなければならないため、備置き資料も新しい現行定款へ差し替えます(一般法人法第14条第1項)。設立時の認証済定款を直接書き換えるのではなく、社員総会議事録とともに変更の履歴を保管してください。
登記が終わっても、住所変更は完了していません。税務署、都道府県税事務所、市区町村、年金事務所、労働保険の窓口、金融機関、保険会社、契約先、許認可や補助金の関係先など、法人の住所を届けている相手を洗い出します。ウェブサイト、請求書、領収書、名刺、封筒、規程類に旧住所が残っていないかも確認が必要です。
公告方法を主たる事務所の公衆の見やすい場所への掲示としている法人は、移転先でも公衆が閲覧できる掲示場所を確保します。貸借対照表の公告をウェブサイトで行っている場合、事務所移転だけで掲載先URLが変わるわけではありません。ただし、移転と同時にサイトを移し、登記済みの公告URLや決算公告URLを変更するなら、その変更登記も検討します。決算公告の方法とURL登記については、一般社団法人の決算公告に関する解説を参照してください。
移転日から逆算する準備
主たる事務所移転は、次の順序で進めると手戻りを抑えられます。
- 現行定款の所在地と機関設計を確認する
- 新旧所在地の登記所管轄を確認する
- 定款変更、移転先、移転日について必要な決議を行う
- 移転日から2週間以内に変更登記を申請する
- 現行定款の備置きと関係先への住所変更を進める
- 公告場所、ウェブサイト、帳票類の住所表示を更新する
とりわけ先に決めるべきなのは、引越し業者の日程ではなく、法人としての移転日と機関決定の予定です。ここが定まれば、賃貸借契約、社員総会または理事会、登記申請、各種届出を1本の工程表に落とし込めます。
定款の記載と移転先の関係、社員総会や理事会の議案、登記までの書類整理に迷う場合は、全国公益法人協会にご相談ください。法人の機関設計と移転日程を確認し、必要な手続きを整理します。