一般財団法人の基本財産|定款の定め・維持義務・処分制限の実務

一般財団法人の基本財産|定款の定め・維持義務・処分制限の実務

一般財団法人の基本財産は、法人の目的である事業を行うために不可欠な財産として、定款で定めた財産です。設立時に拠出された財産や300万円の純資産が当然に基本財産となるわけではありません。基本財産を定めた法人では、その維持と処分について、ほかの財産とは異なる制約が生じます。

奨学金の原資として保有する金融資産を組み替えたい。老朽化した施設を売却して、別の場所に建て替えたい。金額だけを見れば、同等の資産に入れ替える取引に見えます。しかし、基本財産の処分で問われるのは、帳簿価額や売却額が維持されるかだけではありません。その財産が法人の事業にどのような役割を果たし、処分後も目的を遂行できるのかを、定款に照らして説明する必要があります。

基本財産は定款で任意に定める財産

基本財産の定義と位置づけ

一般財団法人に基本財産を置くかどうかは、各法人が個別の事情に応じて定款で決めます。一般法人法は、目的である事業を行うために不可欠な財産として定款で定めたものを基本財産と位置づけています(一般法人法第172条第2項)。設立時の拠出財産、設立後に寄附を受けた金融資産、施設として使う土地や建物などが候補になりますが、法人が保有する財産すべてが基本財産になるわけではありません。

何が基本財産に当たるかは、あくまで定款の定め方によって決まります。設立時に拠出された財産をそのまま基本財産とすることもできますが、拠出したという事実だけで自動的に基本財産になるわけではありません。法務省の一般社団法人及び一般財団法人制度Q&Aも、設立時拠出財産や法人存続のために確保すべき純資産が当然に基本財産となるものではないと説明しています。

現行定款に「基本財産」と書かれていても、何が対象となるのか、どのように維持するのか、処分や基本財産からの除外にどの機関の承認が要るのかは、法人ごとに異なります。まず定款本文と別表を読み、財産目録や固定資産台帳と照合して対象を確定することが出発点です。

基本財産という仕組みはどこから来たのか

基本財産制度の成り立ち

基本財産という発想は、財団法人という制度そのものの成り立ちに根ざしています。財団法人は、人の集まりである社団法人とは異なり、一定の目的のために捧げられた財産の集まりに法人格を認めたものです。設立者が拠出した財産こそが法人の実体であり、その中核となる財産が失われれば、法人の存立基盤そのものが揺らぎます。中核の財産を維持するという要請は、財団法人という形態にもともと備わっていたものと言えます。

こうした「財産に目的を与え、設立者亡き後も永続的に運用する」という法人の観念は、ドイツ法のシュティフトゥング(Stiftung=財団)に淵源を持つとされています。明治29年に公布された民法は、その第34条で公益を目的とする社団と財団を主務官庁の許可のもとで法人として認めましたが、法人に関する規定はドイツ民法草案の影響を強く受けて整えられており、財団法人もその系譜にあります。財産そのものが法人になるという、社団法人にはない発想がここに持ち込まれたのです。

もっとも、当時の条文そのものに「基本財産」という言葉が置かれていたわけではありません。旧民法下の財団法人は主務官庁の許可を受けて設立され、その監督のもとで運営されました。設立者は寄附行為(現在の定款に当たる書類)で財産を定め、行政実務の積み重ねのなかで、目的の遂行を支える中核財産を「基本財産」、日々の運用に充てる財産を「運用財産」と呼び分ける区別が定着していきます。この区別を明文で示したのが、平成8年に閣議決定された「公益法人の設立許可及び指導監督基準」でした。基本財産を財団法人の基礎となる重要な財産と位置づけ、その管理運用にあたって減少させることは避けるべきものとして、原則として処分を認めない扱いとしていました。設立許可の目安として基本財産1億円以上を求めていたのも、この時代です。

平成20年の公益法人制度改革は、この構図を大きく変えました。現行の一般法人法は、基本財産を目的である事業を行うために不可欠なものとして定款で定めた財産と位置づけ(一般法人法第172条第2項)、置くかどうかを各法人の判断に委ねています。旧民法の時代に行政実務のなかで育った概念を、任意の制度として法律に明文化し直したものと言えるでしょう。ここで注意しておきたいのは、旧制度の寄附行為に基本財産の定めがあっても、それが当然に現行法の基本財産として引き継がれるわけではない点です。旧制度から移行した一般財団法人は、定款で改めて基本財産を定める必要がありました(整備法第89条第6項)。

ここで、一般社団法人の「基本財産」と混同しないよう注意が必要です。旧制度では社団法人も財団法人もともに公益法人とされ、基本財産を置く運用は両者に共通していました。その名残で、一般社団法人へ移行した後も定款に基本財産の定めを残している法人があります。しかし、両者は名称が同じでも性格が大きく異なります。一般法人法が基本財産の維持義務や処分制限を定めているのは一般財団法人についてだけであり(一般法人法第172条第2項)、一般社団法人にこれに当たる規定は置かれていません。一般社団法人がいう基本財産は、法律に根拠を持つ制度ではなく、定款や内部規程による自主的な取り決めにとどまります。理事に法律上の維持・処分制限が及ぶ一般財団法人の基本財産と、法人が自らの規律として設けた一般社団法人の基本財産とは、別のものとして扱う必要があります。

設立時拠出財産と300万円の純資産との違い

基本財産と設立時拠出財産と純資産300万円の違い

設立時拠出財産と基本財産は、成立時期も法的な役割も異なります。一般財団法人の定款には、設立者が拠出する財産とその価額を記載し、その合計額を300万円以上としなければなりません(一般法人法第153条第1項第5号、第2項)。これは法人を成立させるための財産に関する要件です。

これに対し、基本財産は、法人の目的事業に不可欠な財産を成立後も維持するための定款上の仕組みです。設立時拠出財産を基本財産に指定することはできますが、自動的に指定されるわけではありません。設立後に取得した建物や、寄附を受けた金融資産を基本財産に加えることもできます。

「設立時に拠出した300万円を、同じ預金口座で永久に凍結しなければならない」という理解も正確ではありません。一般法人法が別に定めているのは、ある事業年度とその翌事業年度の貸借対照表上の純資産額がともに300万円未満となった場合、翌事業年度の定時評議員会の終結時に法人が解散するという基準です(一般法人法第202条第2項)。特定の300万円を動かさないことと、法人全体の純資産額を維持することは区別して考えます。

維持義務と処分制限の判断軸

基本財産を処分するときの判断軸

基本財産を定めた法人では、理事は定款に従ってその財産を維持しなければなりません。さらに、法人の目的である事業を行うことを妨げる処分はできません(一般法人法第172条第2項)。この規定は、基本財産の売却を一律に禁止するものではなく、処分が目的事業の遂行を妨げるかどうかを基準にしています。

たとえば、奨学金の給付原資を運用する財団が、満期や信用リスクを見直して債券を別の金融資産へ組み替える場面を考えてみましょう。運用元本と給付能力を維持し、定款所定の手続きを踏むのであれば、個々の銘柄の売却だけで直ちに目的事業が妨げられるとは限りません。

一方、美術館の運営を目的とする財団が、唯一の展示施設を売却し、代替施設を確保しないのであれば、事業の継続そのものが難しくなります。同じ売却という行為でも、財産が目的事業の中で果たす役割によって評価は変わります。基本財産の滅失などによって目的事業を行えなくなったときは、一般財団法人の解散事由にもなります(一般法人法第202条第1項第3号)。

処分を検討するときは、対象財産が定款上どのように特定されているか、その財産がなければどの事業ができなくなるか、売却代金や代替資産によって同じ機能を維持できるかを順に確認します。売却額が帳簿価額を上回るという説明だけでは、基本財産の処分理由として足りません。

理事会と評議員会の決議を分けて考える

基本財産の処分や取り崩しは、理事会の決議だけで完結するとは限りません。理事会による業務執行の決定、定款に基づく評議員会の承認、定款変更という3つの手続きを分けて確認する必要があります。

一般財団法人の理事会には、一般社団法人の理事会に関する規定が準用されます。重要な財産の処分と譲受けは理事会が理事へ委任できない事項であるため、基本財産の処分が重要な財産の処分に当たるときは、理事会で決定しなければなりません(一般法人法第197条において準用する第90条第4項第1号)。ただし、これは理事会だけで処分を決定できるという意味ではなく、定款が評議員会の承認を求めているときは、その承認も必要です。

一般法人法は、あらゆる基本財産の処分について評議員会の承認を一律に要求しているわけではありません。評議員会は、法律に規定された事項と定款で定めた事項に限って決議するため(一般法人法第178条第2項)、評議員会の関与と決議要件は、まず現行定款で確認します。

もっとも、標準的な定款例では、基本財産の処分または基本財産からの除外を評議員会の決議事項とし、3分の2以上の賛成を求めています。内閣府の公益認定のための「定款」については、基本財産の処分・除外について理事会と評議員会の事前承認を求め、評議員会では3分の2以上の多数による決議とする例を示しています。日本公証人連合会の一般財団法人定款記載例も、基本財産の処分・除外について評議員会の3分の2以上の承認を求めています。このような定款を採用している法人では、理事会決議に加えて、評議員会の3分の2以上の承認が必要です。

厳密には、基本財産の処分・除外それ自体は、一般法人法第189条第2項が列挙する法定の特別決議事項には含まれていません。そのため、定款が評議員会の承認だけを求め、決議割合を加重していない場合は、同条第1項の通常の決議要件によります。他方、定款が3分の2以上と定めていれば、その定款上の加重された決議要件に従わなければなりません。

定款本文や別表で特定の財産を基本財産として指定しており、その指定自体を削除または変更する必要があるなら、定款変更の手続きも問題になります。一般財団法人の定款変更は原則として評議員会の決議によって行い、その決議には、議決に加わることができる評議員の3分の2以上に当たる多数が必要です(一般法人法第200条第1項、第189条第2項第3号)。単なる処分承認の決議と定款変更の決議では要件が異なるため、同じ評議員会で決議するときも別の議案として整理しておくのが確実です。

特に、金融資産の銘柄を入れ替えて元本と事業遂行能力を維持する組替えと、基本財産の元本を事業費に充てる取り崩しは区別しなければなりません。後者は、基本財産の処分だけでなく、基本財産からの除外や定款・別表の変更を伴う可能性が高いため、理事会だけで実行できるものと考えるべきではありません。

評議員会の招集、決議要件、議事録の作成は、公開済みの一般財団法人の評議員会に関する解説で詳しく扱っています。基本財産の議案では、処分理由だけでなく、代替資産、売却代金の使途、目的事業への影響を資料に示し、評議員が処分後の状態まで判断できるようにします。

会計記録と登記の整理

基本財産を処分または組み替えたときは、定款だけでなく、財産目録、固定資産台帳、会計帳簿、理事会と評議員会の議事録を同じ内容にそろえます。一般財団法人の会計には、その事業に応じて一般に公正妥当と認められる会計慣行に従うという原則が適用されます(一般法人法第199条において準用する第119条)。すべての一般財団法人に一律の会計基準が適用されるわけではないため、採用している会計基準に従って、資産区分や注記の変更を検討します。

基本財産そのものは、一般財団法人の登記事項に列挙されていません(一般法人法第302条第2項)。したがって、基本財産を組み替えたという理由だけで、その財産の内容を登記する手続きは生じません。ただし、処分に伴う定款変更が法人の目的、主たる事務所、公告方法などの登記事項にも及ぶときは、その変更登記が別に必要です。

会計処理を先に行い、定款上は旧財産が基本財産のまま残っている状態は避けなければなりません。決算時に定款、財産目録、貸借対照表、台帳の不一致が見つかれば、処分時の決議や説明資料まで遡って確認することになります。処分の効力が生じる日を決議で定め、その日を基準に各資料を更新してください。

処分前に整える判断資料

基本財産の処分前に確認する6項目

基本財産の処分は、次の順序で検討すると論点を漏らしにくくなります。

  1. 現行定款と別表から基本財産の範囲を特定する
  2. 維持方法、処分、除外に関する定款所定の手続きを確認する
  3. 処分後も目的事業を継続できるかを検証する
  4. 理事会決議、評議員会承認とその決議割合、定款変更の要否を分ける
  5. 代替資産と売却代金の使途を議案書に記載する
  6. 財産目録、台帳、会計帳簿、現行定款を処分の効力日を基準に更新する

とりわけ議案書には、なぜ今その財産を処分するのか、処分しない場合に何が起きるのか、処分後にどの財産が事業を支えるのかを記載します。この3点が明確であれば、理事会と評議員会は、価格だけでなく目的事業への影響を基準に判断できます。

基本財産の範囲、処分手続き、定款変更、会計記録の整合に迷う場合は、全国公益法人協会にご相談ください。現行定款と財産資料を確認し、法人の目的事業を継続するために必要な手続きを整理します。

監修者Profile
監修者イラスト
桑波田直人(くわはた・なおと)
(一財)全国公益支援財団専務理事、(株)全国非営利法人協会(全国公益法人協会)専務取締役、(公社)非営利法人研究学会常任理事。 『公益・一般法人』編集長、非営利法人研究学会事務局長等を経て現職。AIチャット「全国公益AIナビ」開発者、全国公益法人協会AI駆動自動化委員会委員長。編著に『新訂版 公益法人・一般法人の機関と運営』、『非営利用語辞典』。

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