一般社団・財団法人の公益認定手続
本記事は書籍「【新訂版】一般社団法人一般財団法人の実務―設立・運営・税務から公益認定まで」の一部を抜粋し、記事にしたものです。

一般社団・財団法人の公益認定手続

公益認定の意義とメリット・デメリット

(1) 公益法人制度改革の趣旨と公益認定の意義

 公益法人制度は明治29年の民法制定以来、抜本的な見直しが行われず、主務官庁の許可主義の下、法人設立が簡便ではない、公益性を時代に即して柔軟に見直す仕組みがないなど様々な問題がありました。また、各監督官庁の裁量により設立の許可や公益性の判断を行っていたため、指導監督基準は あるものの、公益性の基準や内部留保率の考え方等について官庁ごとで判 断・指導にバラバラな部分もあり、全公益法人に対して統一的な対応が行え ていない状態でした。さらに、判断・指導について各官庁の裁量による部分が多いことに起因して、国・地方公務員の退職後の天下りの温床ともなっているとして、批判がありました。
 そこで、公益法人制度を抜本的に見直し、以下のような制度改革が行われることになりました。

 ① 現行の公益法人の設立に係る許可主義を改め、法人格の取得と公益性の判断を分離することとし、公益性の有無に関わらず、準則主義(登記)により簡便に設立できる一般的な非営利法人制度を創設すること
 ② 各官庁が裁量により公益法人の設立許可等を行う主務官庁制を抜本的に見直し、民間有識者からなる委員会の意見に基づき、一般的な非営利法人について目的、事業等の公益性を判断する仕組みを創設すること

 このように、公益法人制度が、明治29年の民法制定以来続いてきた主務 官庁制を廃止し、内閣府に置かれる民間有識者からなる公益認定等委員会(都道府県においても国と同様に民間有識者からなる合議制の機関が設置されます。)が中心となって一元的に公益性の判断、監督を行う制度に抜本的 に改正されました。


(出典:行政改革推進本部事務局「公益法人制度改革の概要」)

 これまでは、法人の設立と公益性の判断が一体であったために法人の設立は容易ではありませんでしたが、これを分離し、登記のみで法人が設立できる制度となりました。
 そのなかから公益目的事業を行うことを主たる目的とすることなどの公益 認定基準に適合した法人については、公益認定を受けることができます。
 今までの裁量行政とは決別し、後述する18の公益認定基準を充足しさえ すれば、どの法人でも公益認定を受けることができるようになったことは、 大きな制度改正といえます。

(2) 公益法人制度改革の趣旨と公益認定の意義

 公益社団・財団法人は、登記のみで設立される一般社団・財団法人が、公益認定を受けた場合になることができる法人です。従来と比べて公益認定が比較的容易になったからといってもやみくもに公益認定法人を目指すのではなく、公益認定を受ける(デメリットも斟酌した上で)メリットがあるか否かを慎重に検討する必要があります。

(イ) 公益認定を受けることのメリット
 i 名称上のメリット
 公益社団・財団法人は、移行後はその名称中に「公益社団法人」若しくは「公益財団法人」を用いなければなりません(公益認定法9条3項)。
 名称の面から「公益性」があると判断してもらえるため、社会的に 公益性が特に要請されている事業、例えば法制度の実現を担う事業や社会インフラを支えるための事業などでは、そのサービスの利用者にとってもわかりやすく、メリットがあるといえます。
 ii 税制上のメリット
 法人税は基本的には、法人税法上の収益事業のみに課税されます(法人税法7条)。ただし認定法上の公益目的事業と認められれば非課税となります。また、「特定公益増進法人」に該当するため、公益社 団法人や公益財団法人に対する寄附者にも寄附の控除を受けられるなどの優遇措置が認められています(法人税法37条)。そのため、寄附 を主要な財源として公益目的事業を行っている場合には、寄附を集めやすくなるというメリットがあります。

(ロ) 公益認定を受けることのデメリット
 i 事業の制約
 法人全体として実施できる事業は、適法であれば制限はありません。しかし、認定法の公益認定基準を遵守しなければならないため、認定法で認められた公益目的事業(公益認定法2条4号、別表)を支出ベースで50%以上実施しなければならないという制約があります(公益認定法5条8号)。別表に掲げられていない種類の事業を実施している場合や、不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するものではない場合は、公益目的事業に該当しません。例えば、会員相互の利益の追求を主たる事業の性格とする事業の場合は、認定法上の収益事業ではありませんが公益目的事業に該当するものでもありません。公益目的事業比率は、公益目的事業と収益事業等(収益事業及びその他の事業)と管理運営のための費用の合計額のうち、公益目的事業のための費用が占める割合で計算されます(公益認定法15条)。
 そして、公益目的事業比率規制を遵守できなければ、行政庁から報告徴収や立入検査を受けたり、勧告・命令や認定の取消し処分を受けることがあります(公益認定法27条、28条、29条)。事業内容を変更する場合には変更の認定手続も必要になります。
 ii 基準充足の制約と事務負担増
 公益認定を受け続けるためには、公益認定基準の遵守が必須条件となります(公益認定法29条2項1号)。
 公益目的事業比率の制約の他、公益目的事業に係る収入がその実施に要する費用を超えないと見込まれること(収支相償基準)(公益認 定法5条6号)や遊休財産額の保有制限(公益認定法5条9号)、その他役員等の欠格要件が定められていたり、組織の機関設計にも制約があります。
 これらを担保するために、公益目的事業財産と収益事業等の財産を区分経理し(公益認定法19条)、財産目録等を毎年行政庁に提出したり(公益認定法22条)、情報開示への対応等、それなりの事務負担に対応しなければなりません。例えば、財産目録や役員の報酬等の支給基準等は事務所に備え置き、閲覧等を求められたら閲覧させなければ ならないことなどが生じ(公益認定法21条4項)、公益認定を受ける 前と比べればそれなりの事務負担増は避けられません。

 以上を勘案して、一般的には以下に掲げるような法人が公益認定を受ける ことに適していると考えられます。

【公益認定向きの法人】

① 寄附を主要な財源として公益目的事業を行っている法人
② 公益性を強調することによるメリットが大きい法人
③ 公益的な事業の規模と財源が比較的明確な法人
④ 税制上の優遇措置によるメリットが大きい法人
⑤ 行政機関との兼ね合いで公益認定を受けることが望ましい法人
⑥ 収益事業で得られた収益を財源の一部として公益目的事業を行っている法人

【特例民法法人、公益社団・財団法人、一般社団・財団法人の主な相違点】

特例民法法人
(従来の公益法人)
公益社団・財団法人
一般社団・財団法人
移行の認定・認可の要件
法人法及び認定法に適合していること。
→公益認定等委員会・都道府県の合議制の機関が審査し、 行政庁が認定を行う
法人法に適合していること。 公益目的支出計画が適正かつ確実であること。
→公益認定等委員会・都道府県の合議制の機関が審査し、行政庁が認定を行う。 行政庁が認可を行う。
事業等
適法であれば制限なし。
ただし、従来の主務官庁に認められた事業に限る。
公益目的事業比率を 50/100以上にしなければ ならないなど公益認定基準を 遵守し事業実施することが必要。なお、事業内容を変更するにあたっては、変更の認定が必要となる場合がある。 公益目的支出計画実施中は、 公益目的支出計画に定めた実 施事業等を着実に実施することが必要。
それ以外については、法人の 創意工夫により公益的な事業 はもとより柔軟な事業の展開 が可能。
監督等
従来の主務官庁により監督が行われる。 行政庁による報告徴収、立入検査の実施、勧告・命令、認定の取消しがある。 原則、法人の自主的な運営が可能。 公益目的支出計画実施中は、 毎事業年度行政庁に対して実施報告をする必要がある。 公益目的支出計画が終了すれ ば、報告も不要となる。
税制
従来と同様の措置。
  • 法人税において収益事業のみに課税(ただし、認定法上の公益目的事業と認めら れれば非課税)。
  • 寄附優遇の対象となる「特定公益増進法人」に該当。
  • 個人住民税における寄附優遇の措置。
「非営利性が徹底された法人等」(注)

  • 法人税において収益事業のみに課税。
  • 登録免許税及び受取利子等に係る源泉所得税の課税。

「それ以外の法人」

  • 普通法人と同等の課税。
(注) 「非営利性が徹底された法人等」とは、「非営利性の徹底された法人」又は 「共益的活動を目的とする法人」のこと。それぞれの要件等については、出典の 「16ページ 2.一般社団・財団法人 法人税」の項目参照。

(出典:内閣府公益認定等委員会事務局「民による公益の増進を目指して」[パンフレット])

執筆者Profile

清水謙一(しみず・けんいち)

税理士・中小企業診断士・CFP。中小企業庁「信託を活用した中小企業の事業承継円滑化に関する研究会」委員等を歴任。主な著書『フローチャートで考える非上場株式の相続対策と対策事例』『一般社団法人・一般財団法人の実務』(共著)など