一般財団法人の定款は、法人の組織や運営の基本原則を定めた最も基本的な規則です。法人の活動環境の変化に伴い、事業内容の追加や組織設計の見直しを行うためには、適切な定款変更手続きを踏まなければなりません。
しかし、一般財団法人の定款変更は、一般社団法人に比べて厳しい制限が課されています。財団法人は「設立者が拠出した財産」を基礎として成立する法人であるため、設立者の意思を保護する観点から、特定の重要事項については原則として変更が禁止されているためです。変更できる事項とできない事項の線引きが、そのまま実務上の可否を分けます。
定款変更における評議員会の特別決議要件
一般財団法人が定款変更を行う場合、評議員会の決議が必要となります(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第200条第1項本文。以下、本記事において同法を「一般法人法」と表記します)。評議員会は、法律に規定する事項および定款で定めた事項に限って決議できる機関であり(一般法人法第178条第2項)、定款変更はその法定の決議事項の一つです。
定款変更は法人運営の根幹に関わる重要事項であるため、通常の決議(普通決議)よりも要件が厳格な「特別決議」によって行わなければなりません(一般法人法第189条第2項第3号)。
特別決議の具体的な要件
評議員会の通常の決議(普通決議)は、議決に加わることができる評議員の過半数が出席し、その過半数の賛成により行います(一般法人法第189条第1項)。これに対して定款変更の決議には、第1項のような出席要件(定足数)は定められていません。議決に加わることができる評議員(原則として評議員の総数)の3分の2以上に当たる多数の賛成があるかどうかだけで、可否が決まります(定款でこれを上回る割合を定めている場合は、その割合。一般法人法第189条第2項第3号)。
ここで注意すべきは、賛成数の基準が出席した評議員の数ではなく、評議員の総数である点です。例えば総評議員数が6人の場合、評議員会に4人が出席したとしても、定款変更を可決するためには4人全員(総数6人の3分の2以上)の賛成が必要となります。出席した4人の3分の2(3人)の賛成では足りません。
なお、条文上の正確な母数は「議決に加わることができる評議員」の数です。決議について特別の利害関係を有する評議員は議決に加わることができないため(一般法人法第189条第3項)、そのような評議員がいる場合に限り、その人数を総数から除いて計算します。例えば評議員6人のうち1人が特別の利害関係を有する場合、母数は5人となり、その3分の2以上、すなわち4人の賛成が必要です。
評議員会における「決議の省略(みなし決議)」
評議員全員を一堂に集めることが難しい場合は、書面または電磁的記録による「決議の省略(みなし決議)」を活用できます。理事が定款変更を提案し、議決に加わることができる評議員の全員が同意すれば、評議員会の決議があったものとみなされます(一般法人法第194条第1項)。
みなし決議が成立する日は「最後の評議員の同意書が法人に到達した日」であり、実務上はこの日を定款変更の効力発生日として扱うのが一般的です。この効力発生日は後述の変更登記の起算日にも関わるため、正確に押さえておく必要があります。決議要件の詳細や議事録の作成・備置き、みなし決議の成立要件といった評議員会運営の実務は、一般財団法人の評議員会の運営|評議員の選任・決議要件・議事録の実務で詳しく解説しています。
原則として変更できない2つの重要事項
一般財団法人の定款変更において、最も注意しなければならないのが「変更禁止事項」の存在です。一般法人法第200条第1項ただし書の規定により、以下の2つの事項については、原則として定款変更によって内容を変えることができません。
- 法人の目的(一般法人法第153条第1項第1号)
- 評議員の選任及び解任の方法(一般法人法第153条第1項第8号)
財団法人は、特定の目的のために捧げられた「財産の集まり」に法人格が与えられたものです。そのため、設立者が財産を拠出した当時の意図(目的)や、その財産が正しく使われているかを監督する機関の選定ルール(評議員の選解任方法)を、後から理事が主導して自由に変更することは、設立者の信頼を裏切ることになりかねません。このような理由から、これら2項目は法律上、強い変更制限が設けられています。
変更禁止事項を変更可能にする「2つの例外ルート」
原則として変更が認められない「目的」と「評議員の選解任方法」ですが、時代の変化や社会情勢の激変によって、どうしても変更しなければ法人の存続自体が危ぶまれるケースが生じます。
一般法人法では、このような硬直化を防ぐため、例外的に変更を可能とする2つのルートを定めています(一般法人法第200条第2項、第3項)。
1. 設立時定款に例外規定を設けておく方法(第200条第2項)
設立者が定款において、目的や評議員の選任・解任方法を評議員会の決議で変更できる旨をあらかじめ定めていた場合、評議員会の決議によってこれらの事項を変更することが可能になります(一般法人法第200条第2項)。
これは設立者自身の意思によって、将来的な変更の権限を評議員会に委ねる意思表示をしていると解釈されるためです。
定款の記載例
将来の機動的な運営を見据えるなら、設立時の定款にこうした条項を盛り込んでおくべきです。
(定款の変更)
第〇条 この定款は、評議員会の決議によって変更することができる。
2 前項の規定にかかわらず、第〇条に定める「目的」並びに第〇条に定める「評議員の選任及び解任の方法」については、評議員会の決議によって変更することができる。
設立時にこの定めを置いていない場合、後から定款変更によってこの例外規定を追加することはできません。これから一般財団法人を設立する実務担当者は、必ずこの規定を初期定款に盛り込んでおくべきでしょう。
2. 裁判所の許可を得て変更する方法(第200条第3項)
設立時の定款に上記のような例外規定が設けられていない場合であっても、どうしても変更が必要な場合の救済措置として、裁判所の許可を得るルートが用意されています(一般法人法第200条第3項)。
具体的には、「設立の当時予見することのできなかった特別の事情」により、目的や評議員の選解任方法を変更しなければ、法人の運営継続が不可能、または著しく困難となるに至った場合に限られます。
裁判所の許可が必要となる「特別の事情」の具体例
裁判所が変更を許可する「特別の事情」は、厳格に判断されます。単に「事業を拡大したい」「手続きを簡素化したい」といった理由では認められません。以下のような客観的かつ重大な事態が生じている必要があります。
- 法人の主たる事業が、法改正や社会構造の変化によって法的に実施不可能となり、社会的需要も失われた場合
- 支援対象としていた地域や人が、災害や過疎化などによって消滅し、活動の余地がなくなった場合
- 定款が定める評議員の選任母体(特定の団体など)が解散・消滅し、規定どおりに評議員を選べなくなって、法人の意思決定ができなくなった場合
裁判所への申立て実務
この手続きは、法人の主たる事務所の所在地を管轄する「地方裁判所」に対して、定款変更許可の申立てを行います(家庭裁判所ではない点に注意が必要です)。
申立てにあたっては、変更を必要とする具体的な理由を証明する書面、現行の定款、評議員会の議事録、その他法人の財務状況を示す資料などを提出します。
添付する「評議員会の議事録」とは何か
ここでいう評議員会の議事録とは、「目的(または評議員の選任及び解任の方法)に係る定款の定めを、変更案のとおり変更する」旨の決議があったことを証する議事録です。単に「裁判所に申立てをする」ことだけを決めた記録では足りず、変更後の条文案を確定させたうえで、評議員会が法人としての変更の意思を正式に固めていることを示す必要があります。
裁判所の許可ルートであっても、法人内部の意思決定を省略できるわけではありません。一般法人法第200条第3項は「裁判所の許可を得て、評議員会の決議によって」変更することができると定めており、裁判所の許可と評議員会の特別決議の両方がそろわなければ定款変更は成立しません。実務上は、あらかじめ「裁判所の許可を得たときに効力が生じる」旨を付した決議を行ってその議事録を申立てに添付するか、許可決定を得た後に改めて評議員会の特別決議を行う段取りをとります。
議事録には、決議の年月日、議決に加わることができる評議員の数、出席した評議員、賛成した評議員の数を明記し、前述の3分の2以上という特別決議の要件を満たしていることが書面上で確認できるようにしておきます。裁判所による審理を経て許可決定が下されるまでは、定款変更の効力は生じません。
定款変更に伴う登記手続きと注意点
定款変更の内容が、登記事項(法人の名称、目的、主たる事務所の所在場所、公告方法、存続期間・解散事由の定めなど。一般法人法第302条第2項)に関わるものである場合、定款変更の決議を行っただけで手続きは完了しません。法務局での変更登記申請が必要となります。
2週間以内の登記義務
登記事項に変更が生じた場合、その効力発生日(評議員会決議の日、またはみなし決議の成立日)から2週間以内に、主たる事務所の所在地を管轄する法務局へ変更登記を申請しなければなりません(一般法人法第303条)。
この期限を怠った場合、法人の代表者個人に対して100万円以下の過料が科されることがありますので(一般法人法第342条)、決議後は速やかに登記申請の準備を進める必要があります。
登記申請に必要な主な書類
目的や名称を変更する場合、一般的に以下の書類を法務局へ提出します。
- 登記申請書
- 評議員会議事録(決議省略の場合は、提案書および評議員全員の同意書)
- 定款の原本(または原本と相違ない旨を代表者が記名押印した写し)
- 登録免許税は1件につき3万円(名称と目的を同時に変更する場合など、同一の区分内であれば3万円で申請できます)
一般社団法人との手続きの違い
一般社団法人と一般財団法人では、定款変更の難易度と手続きの性質が大きく異なります。
| 比較項目 | 一般社団法人 | 一般財団法人 |
|---|---|---|
| 決議機関 | 社員総会 | 評議員会 |
| 決議要件 | 総社員の半数以上かつ議決権の3分の2以上(定款で加重可能) | 議決に加わることができる評議員の3分の2以上(定款で加重可能) |
| 目的の変更制限 | なし(社員総会の決議で自由に変更可能) | 原則として変更不可(例外規定または裁判所の許可が必要) |
| 選任方法の変更制限 | なし | 原則として変更不可(例外規定または裁判所の許可が必要) |
一般社団法人は「人の集まり」であるため、最高意思決定機関である社員総会の特別決議さえ経れば、事業目的を含めてどのような定款変更も自由に行うことができます(社員総会の特別決議要件や変更登記の実務は一般社団法人の定款変更|社員総会の特別決議と変更登記の実務で解説しています)。一方、一般財団法人は「財産の集まり」という性質上、前述の通り目的や監督機関の設計変更に対して法律による強力なブレーキがかけられています。
定款変更で押さえておくべき要点
一般財団法人の定款変更は、法人のアイデンティティである「目的」や、ガバナンスの根幹である「評議員の選解任方法」に制限があるため、一般社団法人よりも慎重な法務判断が求められます。
設立時の定款に例外規定(一般法人法第200条第2項の定め)があるかどうかによって、その後の選択肢は大きく変わります。もし例外規定がなく、かつ運営継続が困難なほどの重大な事情が生じている場合は、地方裁判所への申立てという厳格な法的アプローチを検討しなければなりません。
定款変更の決議要件の確認や、具体的な定款記載例の設計、裁判所への申立て手続きなど、実務上少しでも不確実な点や判断に迷う部分がある場合は、法的な瑕疵を避けるためにも、全国公益法人協会にご相談ください。貴法人の状況に応じて、定款変更の決議から登記申請までの手続きを円滑に進められるようサポートいたします。