【令和6年改正】公益法人会計基準の改正ポイントを徹底解説
令和6年12月、公益法人会計基準が大幅に改正された。平成20年に制定された現行の会計基準以来、約16年ぶりの大規模な見直しである。新会計基準は令和7年4月1日以降に開始する事業年度から適用されるが、令和10年3月31日までは経過措置期間が設けられており、従前の会計基準を引き続き適用することも可能だ。

本稿では、公益法人会計基準の改正によって何が変わるのか、実務担当者が押さえるべき主要な変更点を解説する。
なお、本稿で扱う内容には、会計基準そのものの変更点と、公益認定法令上の財務規律や提出書類に関する制度変更が含まれる。両者は密接に関連するが、法人区分や適用要件により取扱いが異なる場合があるため、実務上は根拠となる法令・基準を確認されたい。
公益法人会計基準改正の背景と基本方針
改正の背景
平成20年の公益法人制度改革に伴い制定された現行の会計基準は、公益法人の財務報告の透明性向上に貢献してきた。しかし、制定から約16年が経過する中で、いくつかの課題が指摘されていた。
財務諸表の本表が複雑で、一般の利害関係者にとって理解しにくい。企業会計基準との整合性が十分でない部分がある。収益認識のタイミングが必ずしも明確でない。規模の小さい法人にとって負担が大きい項目がある。
改正の基本方針
今回の公益法人会計基準改正では、本表は簡素でわかりやすく、詳細情報は注記等でという基本方針が採用された。財務諸表の本表をシンプルにして理解しやすくする一方で、必要な詳細情報は注記や附属明細書で開示する構造に変更されている。
また、会計監査人設置法人とそれ以外の法人とで、適用すべき会計処理や開示の水準に差を設けることで、実務負担に配慮した仕組みも導入された。ここでいう会計監査人設置法人とは、定款で会計監査人を設置した法人をいい、法令により設置が義務付けられている法人だけでなく、自主的に定款で設置した法人も含まれる。一方、任意で外部の監査法人等による監査を受けている場合であっても、定款で会計監査人を設置していなければ会計監査人設置法人には該当しない。内閣府FAQでも、任意監査を受ける法人は会計監査人設置法人以外の法人として取り扱われ得ることが示されている。

本稿では、会計監査人設置法人以外の法人について、便宜上「小規模法人」と呼ぶ場合があるが、これは法令上の正式な区分ではない。
変更点1:貸借対照表・財産目録の主要変更
基本財産・特定資産の表示位置が変更
平成20年会計基準では、貸借対照表の固定資産の部は基本財産、特定資産、その他の固定資産に区分され、基本財産や特定資産を有する場合は貸借対照表本表の固定資産の部において計上していた。
令和6年会計基準では、本表は簡素でわかりやすくという考え方により、本表においては資産の形態に基づく流動・固定区分の表示となった。公益社団・財団法人が基本財産や使途に拘束のある資産を有する場合は、注記で表示する必要がある。なお、使途に拘束のある資産と公益認定法令上の控除対象財産は、重なり得るものの常に一致するわけではないため、両者の関係については個別に整理が必要である。
退職給付引当資産などの特定資産については、本表での区分掲記はしない方向となった。ただし、公益法人の財務報告は資源提供者への情報提供や受託責任の観点から開示が求められる性格のものであり、重要性に応じて注記等での開示が論点となり得る。

その他有価証券の時価評価差額の処理方法が変更
平成20年会計基準では、その他有価証券の時価評価差額は正味財産増減計算書の評価損益等の区分において計上していた。
令和6年会計基準では、その他有価証券の時価評価差額は貸借対照表の純資産の部において、その他有価証券評価差額金として計上する方式に変更された。いわゆる純資産直入である。これにより企業会計基準との整合性が図られている。原則は全部純資産直入法だが、部分純資産直入法によることもできる。
固定資産の減損会計が本格導入
平成20年会計基準では、固定資産の時価が著しく下落した場合の強制評価減が採用されていた。
令和6年会計基準では、会計監査人設置法人については固定資産を資金生成資産と非資金生成資産に分類し、3ステップで減損会計を適用することになった。減損の兆候の判定、減損を認識するか否かの判定、減損額の測定である。公益社団・財団法人における公益目的事業財産は、その利用態様から非資金生成資産に該当することが多い。
会計監査人設置法人以外の法人については、現に使用されておらず、かつ引き続き使用されることが見込まれない財産について、時価が著しく下落している場合の強制評価減を採用できる。簡便的な方法だ。

変更点2:正味財産増減計算書から活動計算書へ
名称の変更
公益法人会計基準の改正により、従来の正味財産増減計算書の名称が活動計算書へ変更された。法人の活動内容をより明確に示すことを意図したものである。
区分・振替処理の大幅な見直し
平成20年会計基準では、一般正味財産増減の部と指定正味財産増減の部に区分し、一般正味財産増減の部は経常増減と経常外増減に区分されていた。指定正味財産等の受入時は指定正味財産増減の部に計上し、指定解除時に一般正味財産増減の部へ振り替える処理を実施していた。いわゆる振替処理である。
令和6年会計基準では、一般純資産・指定純資産の財源別区分は活動計算書本表ではなく注記により開示する。活動計算書本表では、公益法人全体としての純資産の増減内容を経常活動区分およびその他活動区分に分けて表示する。振替処理は廃止された。ただし同様の情報は注記で開示される。
この変更により、本表がシンプルになり、法人全体の活動状況が把握しやすくなった。

費用科目の表示が機能別分類へ変更
平成20年会計基準では、費用科目の表示方法は役員報酬、給料手当、福利厚生費等の形態別分類により開示していた。
令和6年会計基準では、費用科目の表示方法は活動別分類となった。いわゆる機能別分類である。たとえば公益目的事業費、収益事業費、管理費といった区分が考えられるが、具体的な区分の切り方は法人の実態や公益目的事業の設計によって異なる。どの事業にどれだけの費用が投じられているかが明確になる構造である。
従来の形態別分類による情報については、注記により開示する方向で整理されている。ただし、注記での開示が必須となるか否かは法人区分により異なり得るため、適用要件を確認されたい。

配当金・利息の会計処理の明確化
平成20年会計基準では、配当金・利息について、寄付者等から使途に制約が課されている場合などにおいて、指定正味財産として会計処理することがあった。
令和6年会計基準では、配当金・利息について、指定純資産を原資とする資産から生じたものであっても、一般純資産区分の収益として会計処理することが明確化された。
ただし、指定純資産を原資とする資産について売却損益、評価損益、減損が生じた場合は、指定純資産区分の収益・費用として会計処理する。その他有価証券評価差額金は除く。
変更点3:収益認識基準の明確化
交換取引の収益認識
平成20年会計基準では、交換取引に関する収益認識の方法は明示的に定められていなかった。実務では企業会計と同様の処理で会計処理していたと考えられる。実現主義である。
令和6年会計基準では、会計監査人設置法人について、交換取引に関して企業会計基準の収益認識に関する会計基準が適用されることになった。5ステップを3ステップにまとめて適用する。基本的には企業会計基準と同様の処理となる。消費税の会計処理について、税抜処理・税込処理の選択が可能であることが明示されている。
会計監査人設置法人以外の法人は、簡便的な方法での収益計上が可能だ。伝統的な実現主義である。
非交換取引の収益認識(寄付金・補助金等)
平成20年会計基準では、寄付金や補助金等の非交換取引について、いつの時点で収益を計上するのかなどが必ずしも明確ではなかった。
令和6年会計基準では、収益を計上する時点についての考え方が会計基準上で示された。
寄付金については、寄付の申込みと公益法人の承諾があり、かつ履行の確実性が認められる時点で収益を認識するという考え方が示されている。ただし、寄付には条件付のもの、取消可能なもの、契約性の有無など多様な形態がある。履行の確実性が乏しい場合や返還条件が付されている場合には、収益計上の時期を慎重に判断する必要がある。会計基準の定めに沿って個別の事実関係を検討されたい。
補助金等についても収益認識の考え方が示されたが、補助金は制度ごとに交付決定、交付確定、実績報告・精算など、権利確定や返還条件の取扱いが異なる。交付決定通知を受領した時点で収益計上できるとは限らず、制度・条件に応じて収益認識の判断要素を検討する必要がある。
現物寄付に関する会計処理についても明示された。

変更点4:財務報告の開示・規律の強化
区分経理情報の注記開示
平成20年会計基準では、法令等の要請で区分経理を行う必要がある場合は、貸借対照表及び正味財産増減計算書の内訳表を作成していた。
令和6年会計基準では、区分経理に関する情報は本表ではなく注記で開示する方針となった。
今回の公益法人制度改正において、貸借対照表の区分経理情報の作成方法について一定の弾力化が図られているとされるが、具体的な作成方法や要件については、会計基準・運用指針・公益認定法令の定めを確認する必要がある。また、財務情報が法令の定めに従って作成されていない場合は適正な情報開示とみなされない可能性があるため、行政庁の運用も含めて確認されたい。
財務規律適合性に関する情報の開示
平成20年会計基準では、財務規律適合性に関する明細を作成する旨の定めはなかった。
令和6年会計基準および公益認定法令の改正により、公益社団・財団法人において、公益認定法令の財務規律に関する情報を開示することになった。財務規律適合性に関する情報の作成・開示の要否や、どの書類に含めるかは、会計監査人設置法人か否かなど法人区分により取扱いが異なる。
会計監査人設置法人以外の法人は、財務諸表等での作成を省略し、事業報告等に関する定期提出書類において作成・報告することも可能とされている。
関連当事者の範囲拡大
平成20年会計基準では、当該公益法人の役員又は評議員及びそれらの近親者が対象だった。支配法人も含まれる。ただし対象とする者は有給常勤者に限定していた。
令和6年会計基準では、従来の範囲に加え、当該公益法人の従業員及びその近親者、公益社団法人の場合は法人でない社員及び基金の拠出者等、公益財団法人の場合は法人でない設立者及びその近親者等が追加された。
関連当事者の範囲追加に伴い、調査範囲の見直しが必要になると考えられる。
提出書類の公表に関する留意点
今回の制度改正では、行政庁に提出した書類の多くがそのまま公表される点にも留意が必要である。内閣府FAQによれば、事業年度開始前に提出する書類については、事業計画書、収支予算書、資金調達及び設備投資の見込み等がそのまま公表される。また、事業年度終了後に提出する財産目録等についても、全てそのまま公表される。
したがって、個人情報や取引先情報を記載する場合には、開示を前提として記載内容を点検することが求められる。
適用時期と経過措置
適用開始時期
新会計基準は、令和7年4月1日以降に開始する事業年度から適用される。
ただし令和10年4月1日前に開始する事業年度までは、本会計基準によらず従前の会計基準を引き続き適用することができる。
決算日別の適用開始時期
決算日によって、実際の適用開始時期が異なる。3月31日が決算日の法人は令和10年4月1日開始事業年度から新会計基準を適用しなければならない。2月28日が決算日の法人は令和11年3月1日開始事業年度から新会計基準を適用しなければならない。4月30日が決算日の法人は令和10年5月1日開始事業年度から新会計基準を適用しなければならない。
経過措置期間中の特例
公益社団・財団法人については、経過措置期間中、貸借対照表の区分経理に関する表示を省略できる特例が設けられている。
特例区分経理をする法人は、財産目録及び収支予算書の区分も不要だ。ただし区分経理を前提とした新たな制度については適用されず、従前どおり毎事業年度、公益目的取得財産残額に準ずる額の算定が必要である。そのため、別表Hの作成が求められる。

小規模法人への配慮
公益法人会計基準の改正では、小規模法人の実務負担に配慮した措置が設けられている。
作成を省略できる項目
会計監査人設置法人以外の法人については、資産除去債務に係る会計処理、税効果会計、キャッシュ・フロー計算書、資産及び負債の注記、賃貸不動産の時価等に関する注記、財務規律適合性に関する情報について作成しないことができる。資産及び負債の注記は財産目録を作成している場合に限る。
財務規律適合性に関する情報を財務諸表等で作成しない場合は、事業報告等に関する定期提出書類において作成し、行政庁へ報告する必要がある。
簡便的な方法を適用できる項目
会計監査人設置法人以外の法人については、固定資産の減損会計、退職給付引当金、収益の認識について簡便的な方法を適用することができる。
退職給付会計の簡便的な方法は平成20年会計基準と同様だ。固定資産の減損会計及び収益認識の簡便的な方法については前述の各項目を参照してほしい。
区分経理の負担軽減措置
公益社団・財団法人においては貸借対照表も区分経理が原則化されたが、収益事業等を行わない公益社団・財団法人であって、各公益目的事業ごとの内訳を活動計算書に表示している場合には、貸借対照表の区分経理を行わないことができる。
ただし貸借対照表の区分経理を省略する場合、法人運営を行うために必要な財産以外の財産を、全て公益目的事業のために使用等しなければならない。法人活動保有財産等以外の財産は全て公益目的事業財産とみなされる。
実務上の対応ポイント
早期の影響範囲確認
経過措置期間が設けられているとはいえ、自法人への影響範囲を早期に確認することが求められる。自法人が会計監査人設置法人かどうか、収益事業等を行っているかどうか、基本財産や特定資産を保有しているかどうか、その他有価証券を保有しているかどうかを確認する。
任意で外部監査を受けている場合でも、定款で会計監査人を設置していなければ会計監査人設置法人には該当しない点に留意が必要だ。

まとめ
令和6年の公益法人会計基準の改正は、本表は簡素でわかりやすく、詳細情報は注記等でという基本方針のもと行われた。
貸借対照表については、基本財産・特定資産の本表区分掲記の廃止と注記への移行、その他有価証券評価差額金の純資産直入、減損会計の本格導入が行われた。活動計算書については、名称変更、振替処理の廃止、費用の機能別分類への変更が行われた。収益認識については、交換取引・非交換取引の考え方が明確化された。開示・規律については、区分経理の注記開示、財務規律適合性に関する情報開示が求められることになった。会計監査人設置法人以外の法人への配慮として、省略可能項目や簡便的方法の適用が認められている。
新会計基準は令和7年4月1日以降開始事業年度から適用されるが、令和10年3月31日までは経過措置期間が設けられている。この期間を活用し、自法人の状況に応じた準備を進めることが求められる。
本稿で扱った内容には、会計基準の変更と公益認定法令の制度変更が含まれており、法人区分や適用要件により取扱いが異なる場合がある。実務上は、会計基準・運用指針・公益認定法令の定めを確認し、必要に応じて所管行政庁や専門家に相談されたい。