公益信託は、法人をつくらずに、財産の使い道を決めたうえで信頼できる相手に託し、その目的のためだけに使い続けてもらう仕組みです。2026年(令和8年)4月1日、約100年ぶりに全部改正された公益信託法(令和6年法律第30号)が施行され、主務官庁の許可制は行政庁の認可制へ、受託者の担い手は信託銀行以外へと広がり、税制優遇は認可と連動する形になりました。奨学金や研究助成といった使い道を、財産を出した人の名前を冠したまま、その死後も続けられる制度です。遺贈寄付を一度限りの財産移転で終わらせず、継続する公益活動として残したい人にとっても選択肢になります。
公益信託が法律に書かれたのは大正11年です。ところが第1号の案件が生まれたのは55年後の昭和52年、「公益信託 今井記念海外協力基金」ほか1件でした。その後も件数はピークが平成15年の572件にとどまり、令和6年には378件まで減っています。主務官庁ごとに基準が揃わない、申請に時間と費用がかかる、受託者や信託財産に事実上の制限がある、認知度が低い――内閣府が挙げたこの4つを外しにきたのが、今回の改正です。そして2026年6月9日、新制度での認可第1号が決まりました。受託者はNPO法人、当初信託財産は500万円です。
公益信託とは何か
公益信託とは、受益者の定めのない信託であって、公益事務を行うことのみを目的とするものをいいます(公益信託法第2条第1項第1号)。
信託は、自分の財産を信頼できる相手に移し、決めた目的に沿って管理・運用・処分してもらう制度です。財産の名義は受託者に移り、法律上の権限者は受託者だけになります。その代わりに受託者には、善良な管理者としての注意義務、自分の利益を図らない忠実義務、自分の財産と混ぜない分別管理義務が課されます。名義は移すが、使い道は縛る。たとえるなら、委託者が書いた楽譜を受託者が演奏し続けるようなものでしょう。作曲者が世を去っても、楽譜が残るかぎり演奏は続きます。
公益信託が通常の信託と違うのは、受益者がいない点です。受益者の定めを設けること自体が禁じられており(公益信託法第4条第3項)、奨学金を受け取る学生は信託法上の受益者ではなく、公益事務の相手方という位置づけになります。ただ、それでは受託者を監視する人がいなくなるため、信託行為で信託管理人を必ず指定しなければなりません(公益信託法第4条第2項第2号)。
公益事務とは、学術の振興や福祉の向上をはじめ、不特定かつ多数の者の利益の増進を目的とする事務として、公益信託法の別表に第1号から第23号まで掲げられたものです(公益信託法第2条第1項第2号)。公益認定法の別表と同じ形で、公益法人制度と公益信託制度を車の両輪として整合させる方針が表れています。見落としやすいのは「のみを目的とする」という限定で、公益法人が公益目的事業のほかに収益事業等を営めるのに対し、公益信託は公益事務だけを行う器です。
実際にどう使うのか――内閣府が示す3つのモデル
内閣府は解説資料で3つの活用モデルを示しています。いずれも設計の見本で、認可を約束するものではありません。
1つめは地域密着助成モデルです。お世話になった地域に貢献したいが自分で活動を営むのは難しいという人が、金銭を信託財産として、地域の子どもを支援する団体への助成を目的に設定します。受託者となるのは地域に密着した非営利法人で、受給者の募集から助成金の交付までを担います。
2つめは株式配当活用モデル。企業オーナーが保有株式を拠出し、その配当を原資に難病治療の研究者へ助成します。受託者は株式実務に精通した信託銀行で、議決権は委託者等の助言に基づいて受託者が行使します。財団法人を設立しなくても、委託者の死後まで配当が公益に回り続けます。
3つめは美術品の展示・活用モデル。コレクションを世に見てもらいたいという人が、美術品そのものを拠出し、保全と一般公開を目的に設定します。受託者は美術品の保全・展示のノウハウを持つ法人です。相続で分割されて散逸しやすい財産を、散らばらせずに公開し続けられます。
図上の話でないことは、新制度で認可された最初の案件が示しています。
| 公益信託 | 内容 |
|---|---|
| 地域まるごと「こども応援」公益信託(令和8年6月9日認可) | 委託者は株式会社ミダスプロジェクト、受託者は認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ。こども食堂を支援する団体への助成を行う。当初信託財産は500万円で、信託管理人には弁護士が就いた |
| 地域共創「子供の未来・教育応援」公益信託(令和8年6月29日認可) | 委託者は株式会社アクア。教育の振興と学習機会の確保に資する事業、教育分野の研究への助成を行う。当初信託財産は500万円。受託者はほがらか信託株式会社とコモンズジャパン株式会社の2社による共同受託 |
| 公益信託 共創体験移動支援基金(令和8年6月29日認可) | 委託者は個人、受託者は一般社団法人二地域居住共創協会。高校生以上の学生が地域の学習活動や住民等との交流に参加する際の移動費を実費で支援する。当初信託財産は100万円 |
最初の1件はNPO法人が受託者となった初めての公益信託です。旧制度で積み上がった378件は、1件あたり平均で1億円を超える信託財産です。500万円、100万円という額は、これまでの公益信託の姿とはまるで違います。
なお、旧制度からの移行も動き出しています。1979年に設定された公益信託アジア コミュニティ トラストが、令和8年6月9日に新制度の認可を受けました。旧法から新法への移行については「公益信託ニ関スル法律は今どうなったのか|全部改正と旧公益信託の移行期間」で扱っています。
公益財団法人ではなく公益信託を選ぶ理由
公益信託と公益財団法人の分かれ目は、法人格を持つかどうかの一点にあります。ここから運営の形が大きく違います。
| 比較項目 | 公益信託 | 公益財団法人 |
|---|---|---|
| 拠り所となるルール | 信託行為(信託契約または遺言) | 定款 |
| 始め方 | 信託行為と行政庁の認可 | 設立登記と行政庁の公益認定 |
| 機関 | 理事会・評議員会のような法定の型はない | 理事・監事・評議員と各会議体が必要 |
| 執行と監督 | 受託者と信託管理人 | 理事・理事会と監事・評議員会 |
| 目的の範囲 | 公益事務のみ | 公益目的事業のほか収益事業等も可 |
| 規模 | 機関設置が不要なため小さな財産でも設定可 | 機関と一定の財産が必要 |
| 拠出者の事務 | 認可申請も報告も受託者が行う | 設立から運営まで自ら担う |
器をつくらないから、拠出した人に事務が残らない
公益財団法人は、理事・監事・評議員を確保し、理事会と評議員会を開き、事務局を維持することで動きます。公益信託にはこの機関運営がありません。行政庁への認可申請も、毎年度の定期提出書類の作成も受託者が行います(公益信託法第7条第1項、第21条)。委託者に事務の負担が残らない点は、内閣府も公益信託の特徴として挙げています。財産は出せるが人手は出せないという人にとって、ここが最大の分かれ目です。
加えて、信託財産は受託者の固有財産と分けて管理されるため、受託者が破産しても信託財産には及びません。公益法人へ直接寄附した場合、その法人が破綻すれば財産は保護されません。名称に財産を出した人の名を冠せることも、公益信託の側の利点です。
窮屈な面もある
公益信託は、あらかじめ定めた枠組みに縛られて運用されます。信託行為の変更には原則として行政庁の認可が必要で(公益信託法第12条、第22条)、組織の意思決定で柔軟に舵を切ることはできません。拠出した財産も戻りません。委託者を帰属権利者に指定することはできず(公益信託法第4条第2項第3号)、委託者やその親族等に信託財産から特別の利益を与えることも認められていません(公益信託法第8条第5号)。委託者の地位は、相続によって承継されません(公益信託法第33条第2項)。
事業を育てながら形を変えていきたいなら公益財団法人、使い道を決めて手放したいなら公益信託。この線で考えるのが実務的でしょう。
遺贈寄付の選択肢として公益信託を使う
自分の死後に財産を社会のために使ってほしいと考えたとき、公益法人やNPO法人へ直接遺贈するだけが選択肢ではありません。既存の公益信託の信託財産とするために受託者へ遺贈する方法と、遺言によって新しい公益信託を設定する方法があります。遺言による設定は、公益信託法第4条第1項、信託法第3条第2号に根拠があります。
| 方法 | 向いている希望 | 生前に決めること |
|---|---|---|
| 既存の公益信託の受託者へ遺贈する | 支援したい分野が決まっており、すでにある運営の枠組みを利用したい | 対象となる公益信託、受け入れられる財産、遺言書の記載方法 |
| 遺言で新しい公益信託を設定する | 自分で定めた使途や助成方針に沿って、死後も継続的に財産を活用したい | 公益事務の内容、受託者と信託管理人、信託財産、残余財産の帰属先 |
寄付先の法人へ直接遺贈する方法では、受け取った財産はその法人に帰属し、具体的な使い方は法人の意思決定に委ねるのが基本です。これに対して公益信託では、信託行為で財産の使い道を定め、受託者はその範囲に拘束されます。自分の名前を冠した奨学金を続ける、株式の配当を特定分野の研究助成へ回し続ける、美術品を散逸させず公開するという希望なら、公益信託を選ぶ意味がはっきりします。
反対に、寄付先の団体が時代に応じて使途を変えられることを優先するなら、直接の遺贈が向いています。公益信託は、決めた使い道を守れることが強みである一方、その使い道を後から変えにくい制度です。遺贈寄付の目的が「どの団体を支えるか」にあるのか、「どの公益活動を残すか」にあるのかが分かれ目になります。
遺言を作る前に受託者候補と協議する
遺言による公益信託の認可申請は、遺言者が亡くなった後に行われます。遺言は死亡時に効力を生じますが(民法第985条第1項)、公益信託は行政庁の認可を受けなければ効力を生じません(公益信託法第6条)。しかも、遺言で受託者となる者を指定しても、その者は就任を引き受けるかどうかを選べます(信託法第5条第1項)。
遺言書に「財産を公益に使ってほしい」とだけ書いても、受託者は認可申請を組み立てられません。公益事務の内容、財産の範囲、受託者と信託管理人、運用と支出の方法、残余財産の帰属先などを具体化し、想定する受託者候補と生前に協議しておく必要があります。遺言書の定めが不足している場合には、受託者が遺言執行者の同意を得て申請書で補足できる余地はありますが、死後の補足に頼るほど、遺言者の意思どおりに制度を組み立てることは難しくなります。
既存の公益信託へ遺贈する場合も、受託者との事前調整は欠かせません。希望する使途が信託の目的に合うか、土地や株式など金銭以外の財産を受け入れられるかを確認し、その公益信託の信託財産とすることが遺言書から明確に読み取れるようにします。
いくらから設定できるのか
法令上、公益信託に最低財産額や最低実施年数の定めはありません。内閣府も質問集でその旨を明言しており、存続期間が1年程度で1回の給付で財産を使い切る設計も、要件を満たすかぎり認可の対象から外れないとしています。実際に認可された最初の数件は、当初信託財産が100万円から500万円の範囲に収まっています。最も小さい公益信託 共創体験移動支援基金は、当初信託財産100万円を原資に、初年度は1万円程度の移動費支援を20件程度実行することを目標とする事業計画で認可されました。同信託の初年度の収支予算書では、移動費の支給額が20万円、支出合計が25万2千円です。もっとも、受託者には事務を安定的かつ継続的に処理するために必要な信託財産の確保が求められ、存続期間を通じて事務が処理される見込みも認可基準になっています(公益信託法第8条第4号)。空き家のように保有に費用がかかる財産なら、固定資産税や管理費を含めて存続期間のキャッシュフローが回ることを示す必要があります。
規模の小さいものについては、公益信託認可等ガイドラインが「軽量な公益信託」という枠を設けています。公益事務の収益・費用が3千万円を超えず、信託財産が1億円を超えず、公益事務の内容が明確かつ具体的で、事業が単一であるものが対象です。この枠に入ると、受託者の経理的基礎と技術的能力の判断、信託管理人の選任、適用する会計基準の4つの場面で簡易な取扱いが認められます。制度を設計した側が、小さく始める道を先に用意したわけです。
公益信託を動かす3者
受託者
受託者は財産の移転を受け、公益事務の実施と信託財産の管理・運用を担います。認可基準は、公益信託事務を適正に処理するのに必要な経理的基礎及び技術的能力です(公益信託法第8条第2号)。旧制度では受託者は事実上、信託業を営む信託銀行等に限られていました。新制度がこれを能力の基準に置き換えたことで、内閣府の解説資料は信託会社に加えて公益法人やNPO法人等も担い手に挙げています。前掲のとおり、新制度での認可第1号はNPO法人が受託者となった案件です。地域の実情を知る法人が担い手になる形が、施行の初年度に現実のものになりました。実際に認可された受託者の顔ぶれは、NPO法人、一般社団法人、信託を業とする株式会社2社の共同受託、信託銀行等4行の共同受託と分かれています。受託者は1人でなければならないわけではなく、複数の者による共同受託も選べます。この場合は各受託者の職務に関する事項を信託行為に定めます(公益信託法施行規則第1条第11号)。担う公益事務も助成に限りません。美術品の展示のように、受託者自身が公益事務を実施する型も採れます。なお、公益信託事務によって生じた債務は、原則として受託者が固有財産をもって負います。
信託管理人
信託管理人は、委託者と受託者から独立した立場で受託者を監督します。認可基準は監督に必要な能力を有すること(公益信託法第8条第3号)で、独立性は欠格事由で担保されています。受託者や委託者の親族・使用人その他特別の関係がある者は、信託管理人になれません(公益信託法第9条第3号)。事業計画・収支予算書の承認、義務違反行為の取消しや差止め、財務諸表の承認などを担う点で公益法人の監事に近い役どころですが、監事が理事会という機関の中に置かれるのに対し、信託管理人は信託行為で指定された個別の立場です。軽量な公益信託では、法律や会計の高度な能力より、公益事務が委託者の意思に沿って実施されているかを判断する能力を重視して選ぶのが望ましいとガイドラインは述べています。実際に認可された案件では弁護士が就いた例があり、報酬の水準は信託の規模によってかなり違います。年5万円と消費税等相当額とする例、信託財産の残高が1,000万円を超えた場合に年3パーセントとする例、そして信託管理人は無報酬とすると定めて実費弁償だけを信託財産から支弁する例まで、公表されている支払基準や信託契約書から確かめられます。報酬が小さくても権限は小さくありません。3か月に1回の定期報告を受け、事業計画書や収支予算書を承認し、受託者は信託管理人の同意を得なければ辞任できないとする契約もあります。
委託者
委託者は信託財産を拠出し、目的や公益事務の内容を信託行為で設定します。設定後の影響力は前述のとおり抑えられますが、実務上の自由度は残っています。委託者の人数に制限はなく、複数人で1つの公益信託を設定できます。委託者の親族が受託者になることも排除されていません。奨学生の選考委員会のような合議制の機関も置けます。適正な運営に不可欠なものとして置く場合は、その職務や構成員の数、選任方法などを信託行為に定めます(公益信託法施行規則第1条第13号)。設置そのものは義務ではありません。
認可を受けなければ効力を生じない
公益信託は、行政庁の認可を受けなければ効力を生じません(公益信託法第6条)。信託契約を結んだだけ、遺言が効力を生じただけでは動き出しません。申請するのは受託者となろうとする者で、委託者ではありません(公益信託法第7条第1項)。申請書には公益信託の名称や公益事務の種類及び内容などを記載し、信託行為の内容を証する書面や事業計画書、収支予算書を添付します(同条第2項、第3項)。
行政庁は公益事務を行う区域で分かれ(公益信託法第3条)、2以上の都道府県で行う旨を信託行為で定めるものは内閣総理大臣、それ以外は区域を管轄する都道府県知事です。旧制度では、公益信託の目的に応じて文部科学省や外務省などの主務官庁が許可権者でした。同じ内容でも所管によって取扱いが揃わないという問題は、ここから生まれていました。
認可基準は4つの塊で読む
公益信託法第8条は認可基準を第1号から第13号まで並べますが、13個を順に覚える必要はありません。目的が公益事務だけに向いているか(第1号・第7号)、担い手に力があるか(第2号・第3号)、お金の流れが規律に乗っているか(第4号・第8号から第12号まで)、関係者と終わり方が適正かの4つに束ねると見通せます。最後の塊には、残余財産の帰属先の縛りが入ります。帰属権利者は、類似の公益事務を行う他の公益信託や類似の公益目的事業を行う公益法人、学校法人や社会福祉法人などの法人、国または地方公共団体に限られます(公益信託法第8条第13号)。なお、逆方向――公益法人の側から見て寄附先・贈与先・残余財産の帰属先に公益信託が加わった点――は「公益法人・移行法人と公益信託|寄附先・贈与先・残余財産の帰属先に公益信託が追加」で整理しています。
認可を受けた後に守る財務規律
認可はゴールではありません。受託者は、内閣府令で定める期間において収支の均衡が図られるようにしなければならず(公益信託法第16条第1項)、公益事務割合を基準割合以上に保つ義務も負います(同条第2項)。基準割合は100分の70です(公益信託法施行規則第25条)。公益法人の公益目的事業比率が100分の50以上(公益認定法第15条)であるのに対し70%を求められるのは、公益事務だけを行う器であるぶん、管理費に回せる割合が絞られているためです。
もう1つが使途不特定財産額の制限です。毎信託事務年度末の使途不特定財産額は、翌年度に必要な額として内閣府令で算定した額を超えてはなりません(公益信託法第17条第1項)。ただし、信託財産が寄附で受け入れた金銭や預貯金、国債等に限られ、支出方法も内閣府令で定める方法に限る旨を信託行為で定めた特定資産公益信託は、収支の均衡・公益事務割合・使途不特定財産額に関する3つの認可基準が適用除外となります(公益信託法第8条)。
税制優遇は認可と連動する
旧制度では税法上の区分で優遇の有無が決まり、許可を受けたことと直結していませんでした。令和6年度税制改正でこの関係が組み替えられ、認可を受けた公益信託であれば、基本的に公益法人並びの優遇を受けられるようになりました。認可が優遇の入口になったということです。
| 場面 | 取扱い |
|---|---|
| 個人が金銭を寄附した | 所得税の寄附金控除(所得控除)の対象(所得税法第78条第2項第4号) |
| 個人が現物を寄附・遺贈した | 国税庁長官の承認を受ければ、みなし譲渡所得税が非課税(租税特別措置法第40条第1項) |
| 法人が寄附した | 一般の寄附金の損金算入限度額とは別枠で損金算入(法人税法第37条第5項) |
| 信託財産から所得が生じた | 所得税を課さない。利子・配当等は所定の申告書の提出が要件(所得税法第11条) |
| 相続人等が取得した相続財産を拠出した | 一定の要件の下で相続税の課税価格に算入されない(租税特別措置法第70条第3項) |
個人の寄附は、条文の建て方を見ておく価値があります。公益信託の信託財産とするために支出した寄附金は、所得税の特定寄附金に当たります(所得税法第78条第2項第4号)。同項第2号の公益法人等に対する寄附金が財務大臣の指定を受けたものに限られるのに対し、公益信託についての第4号には指定や認定を求める文言がありません。認可を受けた公益信託であれば、それだけで特定寄附金になります。
土地や株式などの現物資産を公益信託の受託者へ遺贈する場合、みなし譲渡所得税の非課税は自動ではありません。公益の増進に著しく寄与することなどの要件を満たすものとして、国税庁長官の承認を受けた贈与または遺贈が対象です(租税特別措置法第40条第1項)。金銭と現物資産では確認すべき税務手続が異なります。
相続人等が取得した財産を公益信託へ拠出する制度は、遺言者が受託者へ直接遺贈する場合とは別です。相続または遺贈によって財産を取得した人が、その財産を相続税の申告期限までに公益信託の信託財産とするために支出した場合に、相続税の課税価格へ算入しない取扱いが適用されます(租税特別措置法第70条第3項)。ただし、この支出によって本人や親族等の相続税または贈与税の負担が不当に減少する結果になる場合は対象外です。適用を受ける旨を申告書に記載し、財産の明細書その他の所定の書類を添付する必要もあります(同条第5項)。
この非課税には後戻りがあります。財産を受け入れた公益信託が、その受入れの日から2年を経過した日までに終了した場合(信託の併合による終了を除く)、または受託者がその財産を同日までに公益信託事務の用に供しない、もしくは供しなくなった場合には、その価額は相続税の課税価格に算入されます(租税特別措置法第70条第4項)。拠出後の運用まで見据える必要があります。
公益信託の活用や新制度への対応でお困りの際は
公益信託は、法人をつくらずに公益活動を続ける枠組みとして2026年4月から動き始めました。使い道を決めて手放すなら公益信託、事業を育てながら形を変えていくなら公益財団法人という線で考えると、選択の見通しが立ちます。生前の財産拠出だけでなく、既存の公益信託への遺贈や、遺言による新たな公益信託の設定にも使えます。財産の規模が小さくても、軽量な公益信託として設定する道が用意されています。
遺贈寄付に公益信託を活用する場合の制度選択、受託者や信託管理人を含む信託行為の設計、認可申請の実務、ガバナンス体制の整備などでお困りのことがあれば、全国公益法人協会の支援サービス「シェアコモン200」でご相談いただけます。法人と信託のどちらを選ぶかという入口の検討から、弁護士・税理士を含む約200名の専門家が分野ごとに対応します。