公益信託法の改正で変わったのは、「許可」が「認可」という名前になったことだけではありません。2026年(令和8年)4月1日に施行された新制度では、審査基準が法律に書かれ、信託銀行以外も受託者になり得るようになり、金銭以外の財産を生かす道も広がりました。その一方で、認可後の財務規律、情報開示、行政庁の監督は明確になっています。
誰にとって何が重要かを先に整理すると、次の3点です。
- これから公益信託をつくる人は、受託者や財産の選択肢が広がった一方、目的、運営体制、収支の見通しを認可申請で具体的に示す必要があります。
- 受託者になろうとする法人・個人は、経理的基礎と技術的能力を備え、認可後も実務と情報開示を担います。
- 旧制度の公益信託は、原則として2028年(令和10年)3月31日までに移行認可を申請しなければ、同日に終了します。
以下では、公益信託法の改正を「利用する人に何が変わったのか」という順で解説します。
まず結論――改正で変わった7つのこと
| 変更点 | 旧制度 | 新制度で利用者に起きる変化 |
|---|---|---|
| 審査する行政機関 | 目的ごとの主務官庁 | 内閣総理大臣または都道府県知事が行政庁になる |
| 審査の基準 | 主務官庁ごとの運用に差があった | 13の認可基準と欠格事由を法律で確認できる |
| 受託者 | 事実上、信託銀行等が中心 | 必要な能力があれば、公益法人やNPO法人等も候補になり得る |
| 信託財産・活動 | 金銭による助成が中心 | 株式、不動産、美術品等を使う設計や、助成以外の公益事務も検討しやすい |
| 認可後の運営 | 財務規律や開示の枠組みが十分でなかった | 収支、公益事務への支出、財産保有、情報開示のルールが明確になる |
| 税制 | 公益信託の許可と税制上の区分が別だった | 公益信託認可が基本的な税制優遇の入口になる。ただし個別の承認・申告要件は残る |
| 旧公益信託 | 旧制度の下で運営 | 移行認可を申請し、新制度に合わせて信託行為や体制を整える必要がある |
この表のうち自分に関係する行から読めば、改正の影響をつかみやすくなります。
なお、同じ2026年4月1日に公益認定法と整備法も改正され、公益法人・移行法人が公益信託に関わる場面が増えています。公益法人側で確認すべき定款や公益目的支出計画の論点は「公益法人・移行法人と公益信託|寄附先・贈与先・残余財産の帰属先に公益信託が追加」で扱っています。
なぜ約100年ぶりの改正が必要だったのか
公益信託は、財産を受託者へ託し、奨学金、研究助成、地域支援など、決めた公益目的のために使い続ける仕組みです。制度は1922年に法制化されましたが、内閣府は活用が低調だった理由として、次の4点を挙げています。
- 主務官庁ごとに許可・監督の基準が揃っていなかった
- 申請に時間と費用がかかった
- 受託者、信託財産、信託事務、報酬等に事実上の制限があった
- 制度そのものが十分に知られていなかった
公益信託の件数と信託財産残高は、2003年(平成15年)の572件・720億円をピークに減少し、2024年(令和6年)には378件・535億円となりました。そこで2024年に公益信託法が全部改正され、2026年4月1日に新制度が始まりました。
改正の目的は、入口を広げるだけではありません。利用しやすくする一方で、誰が審査しても共通の基準で判断でき、認可後の運営も外から確認できる制度へ組み替えることにあります。
「許可制から認可制へ」で実際に変わったこと
旧制度では、教育なら文部科学省、国際協力なら外務省というように、公益信託の目的に応じた主務官庁が許可と監督を行っていました。同じような公益活動でも、所管官庁によって審査の運用が異なり得る仕組みでした。
新制度では、公益事務を2以上の都道府県で行う旨を信託行為に定める場合などは内閣総理大臣、それ以外は活動区域を管轄する都道府県知事が行政庁になります(公益信託法第3条)。認可を判断するときは、国では公益認定等委員会、都道府県では合議制の機関が関与します(同法第34条、第38条)。
さらに、公益信託法第8条が13の認可基準を、第9条が欠格事由を定めました。13項目をそのまま覚えるより、次の4つに分けると理解しやすくなります。
| 審査されること | 確認される内容の例 |
|---|---|
| 目的 | 公益事務だけを目的としているか、特定の人への利益供与になっていないか |
| 担い手 | 受託者に経理・実施能力があるか、信託管理人に監督能力と独立性があるか |
| 継続性とお金 | 存続期間を通じて事務を続けられるか、収支や財産保有が基準に合うか |
| 終わり方 | 残余財産の帰属先が、他の公益信託、公益法人、国・地方公共団体等に限定されているか |
ただし、認可制への変更は、手続が届出だけで済むようになったという意味ではありません。公益信託は、信託契約を締結しただけでは効力を生じず、行政庁の認可が必要です(公益信託法第6条)。申請するのも委託者ではなく、受託者となろうとする者です(第7条第1項)。
受託者と信託財産の選択肢が広がった
利用者にとって実感しやすい変化は、「誰に託せるか」と「何を託せるか」が広がったことです。
公益法人やNPO法人等も受託者の候補になり得る
旧制度では、受託者は事実上、信託銀行等が中心でした。新制度は、組織の種類ではなく、公益信託事務を適正に処理するための経理的基礎と技術的能力を認可基準にしました(公益信託法第8条第2号)。内閣府の解説資料でも、信託会社に加えて公益法人やNPO法人等が担い手として想定されています。
これは想定にとどまりません。施行初年度に認可された公益信託の受託者は、こども食堂の中間支援を担うNPO法人、二地域居住をテーマとする一般社団法人、信託を業とする株式会社2社の共同受託、信託銀行等4行の共同受託と分かれました。地域の課題や助成先をよく知るNPO法人が受託者となり、地域の子どもを支える団体へ助成する形は、実際の認可例になっています。
一方で、NPO法人なら自動的に受託者になれるわけではありません。信託財産を分別して経理できるか、公益事務を継続できる人員や仕組みがあるか、重要な意思決定を適正に行えるかを申請書類で示す必要があります。認可された案件では、信託財産を固有財産と明確に区分して専用口座で管理する旨を信託行為に書き込んだり、受託者が自主事業として行う公益事務と同種の事業に係る取引をあらかじめ信託管理人の承認事項に組み込んだりして、この点に応えています。本業を持つ法人が受託者になるときは、自法人の事業と信託の事業が重なる部分をどう扱うかが実務上の要点になります。
信託管理人には、受託者を監督する能力と独立性が求められます。受託者や委託者の親族・使用人など、特別の関係がある者は信託管理人になれません(公益信託法第9条第3号)。「活動をする人」と「監督する人」を分ける設計が必要です。
株式、不動産、美術品等も活用しやすくなった
旧制度は金銭を原資とする助成型が中心でした。新制度では、金銭に加え、株式の配当を研究助成に使う、不動産を地域活動に使う、美術品を保全して公開するといった設計が想定されています。
ただし、どの財産でもそのまま認可されるわけではありません。株式等は、他の団体の事業活動を実質的に支配するおそれがないことなど、認可基準の確認が必要です(公益信託法第8条第12号)。不動産や美術品も、維持費、管理体制、公益事務での使い方を含め、存続期間を通じて運営できる見通しを示します。
受託者と信託管理人の報酬についても、事実上抑えるのではなく、不当に高額にならない支払基準を定め、その基準に従って支払う仕組みになりました(公益信託法第8条第11号、第19条)。必要な担い手を確保しながら、財産が過大な報酬へ流れないようにする考え方です。
この変化は、実際の認可例を見ると分かりやすくなります。旧制度では、受託者報酬は信託事務の処理に要する費用を超えない範囲にとどめる運用がされ、受託者が利益を加算した報酬を収受することは想定されていませんでした。ある移行案件の受託者が委託者に向けて作成した説明書類も、改正前は必要な費用を超えないこととされていたが、改正後は適切な信託報酬を収受できることとなった、と整理しています。新制度で認可された公益信託の支払基準は、信託財産の残高に対する定率とするもの、最低報酬額を組み合わせるもの、実際に支給した金額に対する出来高とするものなど、設計が分かれています。
もっとも、自由になったわけではありません。通常の公益信託では、公益事務の実施に係る費用が、その費用と公益信託報酬その他の管理費との合計に占める割合を公益事務割合といい、その基準割合は100分の70とされています(公益信託法第8条第9号、公益信託法施行規則第24条・第25条)。裏返せば、管理費は合計費用額の30パーセント以内でなければなりません。認可された案件の支払基準にも、公益事務割合が70パーセント以上となる額を限度とする、とこの基準をそのまま書き込んだものがあります。
ただし、この基準がすべての公益信託にかかるわけではありません。後述する特定資産公益信託では、第8条第8号から第10号までが適用除外になるため、公益事務割合の基準そのものが外れます。認可された案件を見ると、この類型を選んだ信託でも、受託者報酬と信託管理人報酬を合算して当該事務年度の事業費の30パーセントを超えないという上限を契約に置いた例があります。ただしこれは法定の基準ではなく、受託者が自ら課した歯止めです。分母も異なり(基準割合は事業費と管理費の合計に対する割合、この例は事業費に対する割合)、結果としては基準割合から換算した水準より厳しくなります。管理費の枠を読むときは、法定の基準なのか、信託行為が自ら置いた上限なのかを見分ける必要があります。認可基準そのものの読み方は「公益信託の認可基準|公益信託法第8条が定める13の基準を条文とガイドラインで読む」で扱っています。
認可後は「公益に使われているか」を継続して示す
選択肢が広がる一方、受託者には認可後も守るルールがあります。大きく分けると、「お金を公益事務へ適切に使うこと」「その状況を外から確認できるようにすること」の2つです。
| ルール | 平易にいうと | 主な根拠 |
|---|---|---|
| 収支の均衡 | 収入や財産を必要以上にため込まず、中期的に公益事務へ使う | 公益信託法第16条第1項 |
| 公益事務割合 | 管理費ばかりを増やさず、一定割合以上を公益事務へ振り向ける | 同条第2項 |
| 使途不特定財産額の制限 | 使い道を決めないまま持てる財産に上限を設ける | 第17条 |
| 情報開示 | 財産目録等を備え置き、行政庁へ提出する | 第20条、第21条 |
信託財産が一定の金銭・預貯金・国債等に限られ、支出方法も限定される「特定資産公益信託」では、認可基準のうち財務規律に関する第8条第8号から第10号までが適用除外になります。小規模で仕組みが単純な助成型などでは、この類型を検討できます。ただし、受託者の能力、信託管理人による監督、情報開示まで不要になるわけではありません。
行政庁は、必要に応じて報告を求め、立入検査を行い(公益信託法第28条)、勧告・命令を経て(第29条)、認可を取り消すことができます(第30条)。新制度は、始めやすさだけでなく、始めた後も公益のために運営されることを重視しています。
税制優遇は認可と連動するが、すべて自動ではない
令和6年度税制改正により、公益信託認可と基本的な税制優遇が連動する仕組みになりました。旧制度のように公益信託の許可とは別に税法上の区分を取る仕組みから、認可を税制優遇の入口とする形への変更です。
| 場面 | 主な取扱い | 注意点 |
|---|---|---|
| 個人が金銭を寄附する | 所得税の寄附金控除(所得控除)の対象(所得税法第78条第2項第4号) | 控除を受けるには確定申告等の手続が必要 |
| 個人が土地・株式等を寄附・遺贈する | みなし譲渡所得税の非課税制度がある | 自動ではなく、租税特別措置法第40条第1項に基づく国税庁長官の承認等が必要 |
| 法人が寄附する | 一般の寄附金とは別枠の損金算入制度がある(法人税法第37条第5項) | 損金算入限度額等を確認する |
| 信託財産から所得が生じる | 所得税を課さない取扱いがある(所得税法第11条) | 利子・配当等では所定の申告書提出などの要件がある |
| 相続人等が取得後、相続財産を拠出する | 一定の要件の下で相続税の課税価格に算入されない | 申告期限、申告書の記載、添付書類などの要件がある |
ここで、遺言者が受託者へ財産を直接遺贈する場合と、相続人等が取得した財産を後から公益信託へ拠出する場合は分けて考えます。前者の現物資産に関するみなし譲渡所得税は租税特別措置法第40条、後者の相続税は同法第70条が中心です。
第70条第3項の適用を受けた財産でも、その受入れの日から2年を経過した日までに公益信託が終了した場合(信託の併合による終了を除く)、またはその財産を公益信託事務の用に供しない、もしくは供しなくなった場合は、課税価格に算入されることがあります(同条第4項)。「認可さえあれば、その後も無条件で非課税」とは限りません。
旧公益信託は2028年3月31日までの申請準備を
現在、旧制度の公益信託に関わっている人にとって、最も重要なのは移行期限です。
旧公益信託は、施行日から2年間、原則として旧制度の取扱いが続きます(公益信託法附則第2条第2項)。移行期間の満了日は2028年(令和10年)3月31日です。移行認可を受ければ、その日以後は新制度の公益信託として運営します(同法附則第12条)。
期限までに何もしなければ、旧公益信託は2028年3月31日に終了します(同法附則第4条第1項)。一方、移行期間内に申請し、期限時点で審査が続いている場合は、申請に対する処分の日まで移行期間が延びます(同条第2項)。したがって、実務上は「3月31日までに認可処分を必ず得る」ではなく、「期限までに申請を済ませる」ことが重要です。ただし、不備修正や関係者間の合意に時間がかかるため、期限直前の着手は避ける必要があります。
移行申請で準備すること
移行は、旧制度の書類をそのまま出し直す手続ではありません。おおむね次の順で準備します。
- 新制度での行政庁を確認する
- 公益事務だけを目的とすること、信託管理人、残余財産の帰属先など、新法が求める事項を信託行為に定める
- 受託者の経理的基礎・技術的能力と、信託管理人の能力・独立性を確認する
- 事業計画、収支予算、財務規律への適合状況を整理する
- 受託者が行政庁へ移行認可を申請する(公益信託法附則第6条第1項)
申請のために必要な信託の変更は、信託行為の定め、または委託者・受託者・信託管理人の合意によって行います。委託者が現にいない場合は、受託者と信託管理人の合意によります(公益信託法附則第9条第2項、第3項)。この変更は旧主務官庁の許可を要しませんが、移行認可を受けるまでは効力を生じません(同条第4項、第5項)。
移行認可の基準は、新規の公益信託と同じ第8条の基準です(公益信託法附則第7条)。旧主務官庁の監督命令に違反している旧公益信託は移行認可を受けられないという、移行特有の条件もあります(同法附則第8条第2項)。
移行の実例も出ています。1979年に設定された公益信託アジア コミュニティ トラストが、令和8年6月9日に移行の認可を受けました。旧法から新法への読み替えを含む移行の全体像は「公益信託ニ関スル法律は今どうなったのか|全部改正と旧公益信託の移行期間」で扱っています。
改正後の公益信託が向いているケース
新制度は選択肢を広げましたが、すべての公益活動に公益信託が向くわけではありません。
公益信託を検討しやすいのは、次のような場合です。
- 奨学金や研究助成など、財産の使い道を長く守りたい
- 法人を新設して自ら運営するより、受託者へ実務を託したい
- 株式の配当、不動産、美術品など、財産の特性を公益活動に生かしたい
- 生前の寄附や遺贈を、一度限りではなく継続する公益活動につなげたい
反対に、活動内容を社会状況に応じて柔軟に変えたい、自ら組織を運営して事業を育てたい場合は、公益法人など別の形が適することがあります。特定の団体を支援できれば使途の細部は任せたい場合は、その団体への直接寄附・遺贈の方が簡潔です。
改正によって「できること」は増えましたが、公益信託の本質は、財産の使い道を信託行為で定め、受託者へ託すことです。選ぶときは、財産の種類や額だけでなく、「誰に、何を、どのくらいの期間託したいのか」から考えると判断しやすくなります。
新制度への対応でお困りの際は
公益信託法の改正は、制度の入口、担い手、財産、運営、税制、旧制度からの移行をまとめて組み替えたものです。新規設定では、広がった選択肢を生かしながら、受託者の能力や長期的な収支まで設計する必要があります。旧公益信託では、2028年3月31日の申請期限から逆算した準備が必要です。
新制度での認可申請、旧公益信託の移行認可、受託者としての体制整備、公益法人や直接寄附との使い分けでお困りのことがあれば、全国公益法人協会の支援サービス「シェアコモン200」でご相談いただけます。毎月の「月刊公益」と各地のセミナーで改正の動きを追いながら、個別の論点は年間利用料の範囲で何度でもお尋ねいただけます。