公益信託ニ関スル法律は今どうなったのか|全部改正と旧公益信託の移行期間

公益信託ニ関スル法律は今どうなったのか|全部改正と旧公益信託の移行期間

「公益信託ニ関スル法律」を調べると、カタカナと文語体で書かれた12か条の条文が出てきます。この法律は2026年(令和8年)4月1日に全部改正され、題名も「公益信託に関する法律」に変わりました。旧法の条文はもう効力を持ちません。

ただし、旧法の下で許可を受けた公益信託が消えたわけではありません。2028年3月31日までは、旧制度の取扱いが続いています。 旧法の名前で検索してこの記事にたどり着いた方には、2つの異なる関心があるはずです。1つは「この法律は今どうなったのか」、もう1つは「自分が関わっている公益信託はどうなるのか」です。旧制度の税制上の区分だった特定公益信託・認定特定公益信託の扱いも含めて、順に整理します。

廃止ではなく全部改正

公益信託ニ関スル法律の制定から全部改正、旧公益信託の移行期限までの時系列

まず法形式の話です。公益信託ニ関スル法律は、廃止されて新しい法律に置き換わったのではなく、全部改正されました。

根拠は現行法の附則にあります。公益信託法附則第2条第2項は、経過措置の対象を指すのに「この法律による改正前の公益信託ニ関スル法律」という書き方をしています。「改正前の」という語が入っているのは、この法律が旧法を改正するものだからです。廃止・新規制定であれば、こうは書きません。

もっとも、全部改正は法律の中身を丸ごと置き換える改正なので、結果として旧法の条文は1つも残りません。そのため実務の説明では「旧法は廃止された」と表現されることもありますし、e-Gov法令検索でも旧法の題名は2026年4月1日をもって現行法令の一覧から外れます。実質は入れ替えだが、法形式は改正というのが正確な理解です。

この区別が効いてくるのは、附則を読むときです。旧法の下で生じた法律関係をどう扱うかは、新法の附則が「改正前の法律」を参照しながら定めています。旧法が廃止されて無関係になったわけではないため、旧公益信託の関係者は現行法の附則を読む必要があります。

大正11年法律第62号――旧信託法と番号が同じ理由

公益信託ニ関スル法律の法令番号は大正11年法律第62号です。信託法の歴史を少しでも知っていると、ここで違和感を持つはずです。旧信託法も大正11年法律第62号だからです。

これは誤記ではありません。順を追うと次のようになります。

  1. 大正11年(1922年)、信託法(大正11年法律第62号)が制定される。公益信託の規定は、この信託法の一部として置かれていた(旧信託法第66条など)。主務官庁の許可制もこのときからのものです。
  2. 平成18年(2006年)12月15日、全面的に作り直された現行の信託法(平成18年法律第108号)と、信託法整備法(平成18年法律第109号)が公布される。
  3. 平成19年(2007年)9月30日、両法が施行される。信託法整備法第1条により、旧信託法は「公益信託ニ関スル法律」へ改題され、公益信託に関する部分を残して他を削る形に縮減された。

改題と縮減は改正の一種なので、法令番号は制定時のまま引き継がれます。したがって、公益信託ニ関スル法律は大正11年法律第62号のままです。「62号は旧信託法の番号だから、公益信託ニ関スル法律は63号ではないか」と直してはいけません。

この経緯は現行法の条文からも確認できます。公益信託法附則第4条第1項は、信託法整備法による改正前の信託法を指すのに大正十一年法律第六十二号という番号を明示しており、旧信託法の番号が62号であることが条文上わかるようになっています。

なお、番号がそのまま引き継がれるのは、改題・縮減のような一部改正の場合です。2026年の全部改正を経た現行の「公益信託に関する法律」は、改正法の番号である令和6年法律第30号で引用されます。大正11年法律第62号のままなのは、全部改正前の旧法「公益信託ニ関スル法律」の話です。

本則12条だった旧法の中身

主務官庁の許可を中心とする旧法と行政庁の認可基準を明記した現行法の比較

旧法の中身を見ておきます。本則は第1条から第12条までの12か条です。現行の公益信託法が本則49条に別表と28か条に及ぶ附則を伴うのと比べると、規模がまったく違います(e-Gov法令検索の現行データに表示される附則は経過措置などの第23条までで、第24条以下の他の法律の改正規定は、各改正先の法令に反映される形で収録されています)。

定めていたこと
第1条 受益者の定めのない信託のうち学術、技芸、慈善、祭祀、宗教その他公益を目的とし、次条の許可を受けたもの(公益信託)にこの法律を適用する
第2条 受託者が主務官庁の許可を受けなければ効力を生じない
第3条 公益信託は主務官庁の監督に属する
第4条 主務官庁はいつでも検査をし、財産の供託その他必要な処分を命ずることができる。受託者は毎年1回、信託事務と財産の状況を公告する
第5条 予見できなかった特別の事情が生じたときは、主務官庁が信託の変更を命ずることができる
第6条 信託の変更、併合、分割には主務官庁の許可が必要
第7条 受託者の辞任はやむを得ない事由がある場合に限り、主務官庁の許可を受けて行う
第8条 受益者の定めのない信託に関する裁判所の権限が主務官庁に属する
第9条 終了時に帰属権利者の定めがない等の場合、主務官庁が類似の目的のために信託を継続させることができる
第10条・第11条 主務官庁の権限の委任、都道府県知事等による事務の処理
第12条 過料

一覧にすると、旧法が何をする法律だったかがはっきりします。主務官庁が許可し、監督し、必要なら変更を命じ、終わるときの行き先まで決める。 認可の基準も、受託者に求められる能力も、財務規律も、条文には書かれていません。情報開示に当たるものも、受託者による年1回の公告義務(旧法第4条第2項)があるだけでした。すべてが主務官庁の裁量に委ねられていました。

内閣府は、公益信託の活用が低調だった理由として次の4つを挙げています。

  1. 主務官庁制の下で許可・監督の基準が不統一だったこと
  2. 引受け許可の申請手続に時間とコストがかかったこと
  3. 受託者、信託財産、信託事務、報酬等に事実上の制限があったこと
  4. 認知度が低かったこと

数字にも表れています。公益信託の件数は平成15年(2003年)度の572件をピークに減り続け、令和6年(2024年)度には378件になりました。信託財産残高も、ピーク時の720億円から535億円へと縮小しています。制度そのものは100年以上前からありながら、使われなくなっていったわけです。

改正で何が変わったのかは「公益信託法はどう変わったのか|主務官庁の許可制から行政庁の認可制へ」で詳しく扱っています。

旧公益信託の2つの類型

ここからが、既存の公益信託に関わっている方に向けた話です。

現行法の附則は「旧公益信託」という言葉を使いますが、その中身は2つに分かれています(公益信託法附則第4条第1項)。

  • 旧法公益信託 ―― 施行日前に公益信託ニ関スル法律第2条第1項の許可を受けて効力が生じた公益信託
  • 旧信託法公益信託 ―― 信託法整備法の経過措置によりなお従前の例によることとされた、旧信託法第66条に規定する公益信託

2つ目は、2006年公布・2007年施行の信託法改正の際にも経過措置が置かれ、それ以前から続いていた公益信託が旧信託法の規律のまま存続していたものです。今回の改正では、この2つをまとめて「旧公益信託」と呼び、同じ移行の枠組みに乗せています。

自分が関わる公益信託がどちらに当たるかは、許可を受けた時期と根拠条文で判別できます。もっとも、移行認可の手続はどちらも同じなので、実務上は区別が結論を変える場面は多くありません。

移行期間の満了日は2028年3月31日

旧公益信託の移行前に確認する許可時期、根拠条文、申請期限、名称の猶予、帰属先

旧公益信託の扱いを定めるのが、附則第2条第2項と附則第4条です。

旧法公益信託については、施行日から起算して2年を経過する日までの間はなお従前の例によることとされています(公益信託法附則第2条第2項)。この期間が移行期間です。施行日が2026年4月1日ですので、満了日は2028年3月31日になります。

移行期間内に行政庁の移行認可を受ければ、新法第7条第1項の公益信託認可を受けたものとして、新法の規定による公益信託になることができます。逆に、移行期間内に移行認可を受けていない旧公益信託は、移行期間が満了する日に終了します(公益信託法附則第4条第1項)。

ただし、期限の考え方には続きがあります。移行期間内に移行認可の申請をしていて、期間内にその申請に対する処分がされていない場合は、その旧公益信託の移行期間は、施行日から処分がされる日までの間となります(同条第2項)。つまり、審査が長引いても、申請さえ済ませていれば審査中に終了することはありません。

実務上重要なのは、「2028年3月31日までに認可を得る」ではなく「2028年3月31日までに申請を済ませる」という点です。 もっとも、信託行為の変更や関係者間の合意に時間がかかることを考えると、期限直前の着手は避けるべきです。

終了した場合はどうなるか

移行認可を受けないまま移行期間が満了して終了した場合の後始末も定められています。

旧法公益信託が終了した場合の清算については、なお従前の例によります(公益信託法附則第5条第1項)。ただし、信託行為の定めるところにより残余財産の帰属が定まらないときは、新法第27条が適用されます(同条第2項)。新法第27条は、残余財産の帰属が定まらないときは国庫(都道府県知事が行政庁である場合は当該都道府県)に帰属すると定めています。

信託行為に帰属権利者の定めがなかったり、定めた法人が既に存在しなかったりする旧公益信託では、何もしないまま移行期間を過ぎると残余財産が国庫へ行く可能性がある、ということです。移行するか終了させるかの判断は、この結果も踏まえて行う必要があります。

実際の移行はこう行われた

移行の実例が既に公表されています。1979年11月7日に設定された公益信託アジア コミュニティ トラストが、令和8年6月9日に移行の認可を受けました。公益信託の受託者が行政庁に提出した書類は、行政庁が公表するものとされています(公益信託法第21条第2項)ので、その移行実務を書類から追うことができます。以下は、内閣府の公益法人Informationで公表されている提出書類によります。

第1に、信託行為の変更は、旧契約に置かれていた変更条項を根拠として行われました。提出された変更同意書は、1979年11月7日付の旧契約を旧契約第36条に基づいて別添のとおり変更することに合意した旨を述べ、信託管理人も同条に基づいて承認しています。新法対応の契約書に条項を1つずつ追加するのではなく、契約全体を差し替える形が採られました。

第2に、旧制度の下で積み重ねてきた関係書類の整理が行われています。同じ日付で、共同受託に関する覚書等の失効に関する同意書が提出され、1980年7月1日付の共同受託に関する事務の覚書と、2005年10月3日付の共同受託に関する協定書を失効させることに同意しています。一方で、1983年6月25日付の特別基金の共同受託に関する協定書などは新契約の締結日において有効であることを確認し、あわせて、法令の新設や改廃によって協定書が引用する法令や条項の修正が必要になった場合には新設・改正後の法令または新契約の実質的に相応する規定に読み替える、という条項を新契約に置いています。40年前の合意を残すもの、畳むもの、読み替えるもので仕分けたわけです。

第3に、長い時間を経た信託であることに伴う実務上の処理があります。この信託は個人と法人の2者による共同委託で、うち個人の委託者は既に死亡しています。覚書等の失効に関する同意書には、共同委託者である当該委託者は死亡したため押印を省略する、という一文が置かれました。移行認可の申請のためにする信託の変更は、信託行為の定めにより、または委託者・受託者・信託管理人の合意によって行いますが(公益信託法附則第9条第2項)、この案件では前者、つまり旧契約の変更条項によっています。なお、委託者が現に存しない場合は、受託者及び信託管理人の合意によることとされています(同条第3項)。委託者が高齢である、あるいは既に亡くなっている旧公益信託では、どちらの経路で変更できるかを先に確かめておく必要があります。

移行を検討する旧公益信託にとって、旧契約に変更条項があるか、共同受託や特別基金に関する古い覚書がどれだけ残っているか、委託者が現に存するかは、いずれも着手の早さを左右する要素になります。

施行日をまたいだ申請と名称の猶予

日付のまわりに、見落としやすい規定が3つあります。

施行日前に許可を申請していた場合。 施行日前に旧公益信託許可の申請があり、施行日の前日までにその申請に対する処分がされないときは、その申請は施行日に却下されたものとみなされます(公益信託法附則第3条)。旧法の許可を待っていた案件は、そのまま新法の認可へスライドするのではなく、いったん切れます。新制度で設定するには、あらためて公益信託認可の申請が必要です。

名称の使用制限。 新法第5条第1項は、何人も、公益信託でないものについて、その名称または商号中に公益信託であると誤認されるおそれのある文字を用いてはならないと定めています。旧公益信託は新法上の公益信託ではないため、この規定がそのまま働くと、移行前から名称に「公益信託」を含んでいる既存の信託が抵触してしまいます。

そこで附則第17条が2段構えの猶予を置いています。

対象 猶予の内容 根拠
旧公益信託 移行期間中は新法第5条第1項・第2項を適用しない 公益信託法附則第17条第1項
それ以外で、施行の際に名称・商号中に「公益信託」の文字を用いていた者 施行日から起算して6月間は新法第5条第1項を適用しない 同条第2項

旧公益信託は移行期間の満了まで猶予されますが、それ以外の者の猶予は6か月、つまり2026年9月30日までです。

過料。 施行日前にした行為と、なお従前の例によることとされる場合における旧法公益信託に関し施行日以後にした行為に対する過料については、なお従前の例によります(公益信託法附則第21条)。旧法第12条の過料の規定が、移行期間中の旧法公益信託にはまだ生きているということです。

移行期間中に旧法の条文が必要になる場面

「旧法の条文はもう効力を持たない」と冒頭に書きましたが、旧公益信託に関わっている方にとっては留保が付きます。

附則第2条第2項が定める「なお従前の例による」は、移行期間中の旧法公益信託には旧法の規律が適用され続けるという意味です。したがって、2028年3月31日までは、旧法の12か条が実務上の意味を持ち続けます。移行前に信託の変更や併合をするなら主務官庁の許可が必要ですし(旧法第6条)、受託者が辞任するにもやむを得ない事由と許可が要ります(旧法第7条)。過料についても、なお従前の例によることとされています(公益信託法附則第21条)。

ただし、重要な例外が1つあります。移行認可の申請のために必要な信託の変更は、旧主務官庁の許可を要しません(公益信託法附則第9条第5項)。公益事務だけを目的とすることや残余財産の帰属先など、新法の基準に合わせるための信託行為の変更が許可待ちで止まらないようにする手当てです。

移行認可を受けた時点で、その公益信託は新法の規定による公益信託になります(公益信託法附則第12条)。移行するまでは旧法、移行してからは新法。この切り替わりの時点を関係者で共有しておかないと、どちらのルールで動くべきかが曖昧になります。

条文を確認する際にも注意が必要です。公益信託ニ関スル法律は現行法令の一覧から外れているため、e-Gov法令検索では廃止された法令として扱われます。移行期間中に旧法の条文を引く必要があるときは、その前提で探してください。

特定公益信託と認定特定公益信託――旧制度の税制上の区分

旧制度の資料でよく目にするのに、公益信託ニ関スル法律には一度も出てこない言葉があります。特定公益信託認定特定公益信託です。この2つは税法側の区分で、旧法第2条第1項の許可を受けた公益信託のうち、税法が定める要件を満たすものを指していました。旧制度の税制優遇は、主務官庁の許可、主務大臣等の証明、主務大臣等の認定という3段階になっていたと考えると整理しやすくなります。

この2つの用語を検索すると、いまも旧制度を前提にした解説が上位に並びます。旧制度の基本的な取扱いを説明したもので、改正後の新制度に置き換わっていない記事や、そもそも執筆時点が示されていない記事も少なくありません。以下では旧制度の中身を整理したうえで、現行制度のどの規定に対応するのかを並べて示します。古い解説を読むときの前提としても使えるようにするためです。

証明を受けた特定公益信託

特定公益信託とは、旧法第1条の公益信託のうち、信託の終了時に信託財産が委託者に帰属しないことと、信託事務の実施につき政令で定める要件を満たすことについて証明がされたものです(改正前の所得税法第78条第3項、改正前の法人税法第37条第6項)。証明をするのは主務大臣等で、証明をしようとするときは財務大臣に協議しなければならないこととされていました(改正前の所得税法施行令第217条の2第2項・第4項)。

政令の要件は、受託者が信託会社等であることと、信託行為において次の事項が明らかであることでした(改正前の所得税法施行令第217条の2第1項)。法人税の側にも、同じ内容の要件が政令に置かれていました。

  • 信託の併合による終了を除き、終了の場合に信託財産が国もしくは地方公共団体に帰属するか、類似の目的のための公益信託として継続すること
  • 合意による終了ができないこと
  • 受託者が信託財産として受け入れる資産が金銭に限られること
  • 信託財産の運用が預金・貯金、国債、地方債などに限られること
  • 信託管理人が指定されること
  • 受託者が信託財産の処分を行う場合に、目的に関し学識経験を有する者の意見を聴くこと
  • 信託管理人と学識経験を有する者の報酬が、任務の遂行のために通常必要な費用の額を超えないこと
  • 受託者の報酬が、信託事務の処理に要する経費として通常必要な額を超えないこと

受け入れられる資産が金銭に限られ、運用先も預貯金や国債などに絞られる点は、現行法の特定資産公益信託とよく似ています。内閣府の公益信託認可等ガイドラインも、旧制度において税制上の優遇措置を受けていた(認定)特定公益信託の多くは特定資産公益信託の要件を満たすと考えられる、としています。

認定を受けた認定特定公益信託

認定特定公益信託は、特定公益信託のうち、政令が列挙する目的の1つ以上を目的とし、その目的に関し相当と認められる業績が持続できることについて主務大臣等の認定を受けたものです(改正前の所得税法施行令第217条の2第3項)。列挙されていた目的は、正確には次の12種類です。

  1. 自然科学に関する試験研究を行う者への助成金の支給
  2. 人文科学の諸領域について優れた研究を行う者への助成金の支給
  3. 学校教育法第1条に規定する学校における教育に対する助成
  4. 学生または生徒に対する学資の支給または貸与
  5. 芸術の普及向上に関する業務のうち、助成金の支給
  6. 文化財の保存・活用に関する業務のうち、助成金の支給
  7. 開発途上にある海外の地域への経済協力(技術協力を含む)に資する資金の贈与
  8. 野生動植物の保護繁殖を主な目的とし、国・地方公共団体からその業務の委託を受けた法人等への助成金の支給
  9. 優れた自然環境の保存・活用に関する業務のうち、助成金の支給
  10. 国土の緑化事業の推進のうち、助成金の支給
  11. 社会福祉を目的とする事業に対する助成
  12. 幼保連携型認定こども園における教育・保育に対する助成

認定には期限があり、認定を受けた日の翌日から5年を経過していないものに限られていました。優遇を続けるには認定を受け直す必要があったということです。

税制上の取扱いは、どこまで進んでいるかで分かれていました。

区分 個人の寄附 法人の寄附
許可を受けただけの公益信託 寄附金控除の対象外 みなし規定の適用なし
特定公益信託(証明あり) 寄附金控除の対象外 支出した金銭を寄附金とみなす(一般の寄附金の枠)
認定特定公益信託(証明と認定あり) 支出した金銭を特定寄附金とみなして寄附金控除 特定公益増進法人等と同じ枠に含める

根拠は、個人が改正前の所得税法第78条第3項、法人が改正前の法人税法第37条第6項です。法人については、同項の読替えによって、認定特定公益信託への支出だけが同条第4項の枠に入る建て付けでした。「認定」まで進んでいるかどうかで寄附者側の扱いが変わるため、旧制度では認定特定公益信託という言葉が寄附の募集資料や税務の解説に並んでいたわけです。

認可を入口とする現行制度の枠組み

現行法では、税法の本則から特定公益信託・認定特定公益信託という区分がなくなりました。個人が公益信託の信託財産とするために支出した寄附金のうち、その公益信託に係る信託事務に関連するものは、特定寄附金として寄附金控除の対象になります。ただし、出資に関する信託事務に充てられることが明らかな寄附金などは除かれます(所得税法第78条第2項第4号)。法人の支出についても、同様の条件の下で、特定公益増進法人等に対する寄附金と共通の枠の範囲内で損金の額に算入する規定が置かれています(法人税法第37条第5項)。新制度へ移行した公益信託については、税法が独自に証明と認定を行う仕組みがなくなり、行政庁の認可を受けた公益信託であることが優遇の入口になりました。

もっとも、認可を受けたことと税制上の優遇を受けられることが同じになったわけではありません。現物資産を拠出する場合のみなし譲渡所得の非課税や、相続財産を拠出する場合の相続税の特例は、租税特別措置法の要件と手続を別に確認する必要があります(同法第40条、第70条)。新制度の税制の全体像は「公益信託とは|2026年4月施行の新制度と公益法人との違いをわかりやすく解説」で扱っています。

移行認可を受けるまでの経過措置

移行認可を受ける前の旧特定公益信託への金銭の支出については、経過措置が置かれています。個人については改正前の所得税法第78条第3項が、法人については改正前の法人税法第37条第6項が、移行認可を受けていない旧特定公益信託への支出についてなお効力を有します(所得税法等の一部を改正する法律(令和6年法律第8号)附則第3条第1項・第8条)。個人の寄附金控除は、その旧特定公益信託が改正前の所得税法施行令第217条の2第3項の認定を受け、その認定を受けた日の翌日から5年を経過していない場合に限られます。同項から第5項までにも経過措置があるため、移行認可前の旧特定公益信託については、主務大臣等による認定とその5年要件が引き続き意味を持ちます。

つまり、移行するまでは寄附者側の取扱いも従来どおりで、移行認可を受けた時点で新制度の枠に移ります。旧法の条文が移行期間中はまだ意味を持つのと同じ構造が、税制の側にも用意されているということです。旧制度で認定特定公益信託として寄附を募っていた公益信託では、移行の前後で寄附者に案内する根拠条文が変わるため、募集資料の記載を切り替える時点を決めておく必要があります。

旧制度前提の解説を見分ける目安

インターネット上の解説が旧制度を前提にしたものかどうかは、次の記述があるかどうかで判断できます。いずれも、新たに設定する公益信託や移行認可後の公益信託にはない仕組みです。ただし、移行認可前の旧特定公益信託には、表の後で説明する経過措置があります。

旧制度前提の解説に出てくる記述 現行制度での対応
優遇を受けるには主務大臣等の証明・認定が必要と説明している 新制度では税法上の証明・認定は不要となり、行政庁の認可が入口になる(公益信託法第6条)
個人の寄附金控除の根拠を所得税法第78条第3項としている 同条第2項第4号
法人の損金算入の根拠を法人税法第37条第6項としている 同条第5項
受託者になれるのは信託銀行・信託会社だけと説明している 信託銀行等に限られなくなり、経理的基礎と技術的能力が認可基準として審査される(同法第8条第2号)
信託財産として受け入れられるのは金銭だけと説明している 株式や不動産等も信託財産にできる(特定資産公益信託を選ぶ場合は金銭に限られる)
認定の有効期間は5年と説明している 新制度では認定という手続自体がない

ただし、旧制度の解説がすべて無用になったわけではありません。移行認可を受けていない旧特定公益信託への金銭の支出には改正前の規定がなお効力を有しますから、移行期間中は旧制度の説明が実務上の意味を持ちます。問題は情報が古いことそのものではなく、その解説が移行前と移行後のどちらを説明しているかが読み取れないことです。記事の日付と、根拠として挙げられている条文の項番号を確認してください。

旧法の言葉を現行制度へ読み替える

旧公益信託の許可と主務官庁の読み替えと、税制が移行認可の前後で分かれることを示す関係図

旧法の資料や過去の議事録を読むときに使える対応表を置いておきます。次の表は、移行認可を受けた後の姿を示したものです。税制については、移行認可を受けるまでは旧規定がなお効力を有しますので、前掲の「移行認可を受けるまでの経過措置」と併せて読んでください。

旧法の言葉 現行制度での対応
主務官庁の許可(旧法第2条) 行政庁の公益信託認可(公益信託法第6条)
主務官庁(旧法第3条ほか) 内閣総理大臣または都道府県知事(同法第3条)
主務官庁の監督(旧法第3条・第4条) 行政庁の監督に加え、公益認定等委員会等への諮問(同法第34条以下)
主務官庁による信託の変更命令(旧法第5条) 行政庁の監督権限と、信託行為の変更の認可(同法第12条)
主務官庁による信託の継続(旧法第9条) 委託者・受託者・信託管理人の合意による目的変更での継続(同法第24条)
運営委員会(旧制度の実務上の呼称) 合議制の機関。設置する場合は職務・権限、構成員の数、選任方法、任期、報酬の有無と額を信託行為に定める(公益信託法施行規則第1条第13号)
認可基準の定めなし 第8条に13の認可基準
財務規律の定めなし 収支の均衡、公益事務割合、使途不特定財産額(同法第16条・第17条)
特定公益信託・認定特定公益信託(改正前の所得税法第78条第3項) 移行認可後は、この税法上の区分はなくなり、認可を受けた公益信託への一定の寄附が対象になる(所得税法第78条第2項第4号、法人税法第37条第5項)。移行認可前の旧特定公益信託への支出には、改正前の規定と認定の5年要件がなお効力を有する

行政庁は、公益事務を2以上の都道府県の区域内で行う旨を信託行為で定めるものと、国の事務・事業と密接な関連を有する公益事務であって政令で定めるものを行うものは内閣総理大臣、それ以外はその公益事務を行う区域を管轄する都道府県知事です(公益信託法第3条)。旧制度では公益信託の目的に応じて文部科学省や外務省などが主務官庁でしたので、窓口の決まり方そのものが変わっています。

条文の並びと全体構成は「公益信託に関する法律(公益信託法)とは」に地図の形でまとめています。新制度の認可基準を条文とガイドラインから読むなら「公益信託の認可基準|公益信託法第8条が定める13の基準を条文とガイドラインで読む」が入口になります。公益法人・移行法人の側に加わった規定は「公益法人・移行法人と公益信託|寄附先・贈与先・残余財産の帰属先に公益信託が追加」にまとめています。

旧公益信託の移行でお困りの際は

整理すると、次のようになります。公益信託ニ関スル法律は廃止ではなく全部改正され、一般には現行法として引く法律ではなくなりました。ただし、移行認可前の旧公益信託には「なお従前の例による」とされるため、移行期間中も旧法の条文を確認する必要があります。法令番号が旧信託法と同じ大正11年法律第62号なのは、信託法整備法が旧信託法を改題・縮減してこの法律にしたためです。そして旧公益信託には、2028年3月31日という移行期間の満了日が設定されています。

移行認可は、旧制度の書類をそのまま出し直す手続ではありません。公益事務だけを目的とすること、信託管理人の設置、残余財産の帰属先など、新法が求める事項を信託行為に定める作業が先に来ます。関係者の合意が必要になる場面もあり、委託者が現にいない公益信託では手順そのものの確認から始まります。

旧公益信託の移行認可の準備、信託行為の変更、移行するか終了させるかの判断などでお困りのことがあれば、全国公益法人協会の支援サービス「シェアコモン200」でご相談いただけます。会計・税務・法務の各分野に約200名の専門家が対応しており、年間利用料の範囲で、条文の読み方から申請書類の組み立てまで何度でもお尋ねいただけます。

監修者Profile
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桑波田直人(くわはた・なおと)
(一財)全国公益支援財団専務理事、(株)全国非営利法人協会(全国公益法人協会)専務取締役、(公社)非営利法人研究学会常任理事。 『公益・一般法人』編集長、非営利法人研究学会事務局長等を経て現職。AIチャット「全国公益AIナビ」開発者、全国公益法人協会AI駆動自動化委員会委員長。編著に『新訂版 公益法人・一般法人の機関と運営』、『非営利用語辞典』。

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