公益信託の認可基準の中心となるのが、公益信託法第8条です。行政庁は、申請された公益信託がこの条の基準に適合すると認めるときに認可をするものとされており、基準は第1号から第13号まで13個並びます。ただし、第8条の基準を満たしていても、第9条の欠格事由に該当すれば認可を受けることはできません。
ただ、13個を頭から順に確認していくのは効率がよくありません。号の並びは論理の順ではなく、内容の重さもまったく違います。第2号のように内閣府令とガイドラインで十数ページの解説が積み上がっているものもあります。第9号の基準割合自体は100分の70ですが、その算定方法や調整は施行規則第24条から第32条までに定められています。しかも、いくつかの号は「政令で定める」「内閣府令で定める」と書いてあるだけで、条文を読んでも中身がわかりません。
見通しをよくするには、13の基準を目的、担い手、お金の流れ、利益供与と残余財産の4つの塊に束ねるのが実用的です。以下、その順に読んでいきます。
13の基準と中身を埋める下位法令
まず全体を一覧にします。「中身を埋める法令」の列は、各号から直接委任された主な下位法令を示しています。空欄は下位法令への直接の委任がないという意味であり、実際の審査ではガイドラインや申請書類も確認する必要があります。
| 号 | 基準の要点 | 中身を埋める法令 |
|---|---|---|
| 第1号 | 公益事務を行うことのみを目的とする | 別表(第2条関係) |
| 第2号 | 受託者が経理的基礎と技術的能力を有する | 施行規則第4条 |
| 第3号 | 信託管理人が受託者を監督するのに必要な能力を有する | 施行規則第5条 |
| 第4号 | 存続期間を通じて公益信託事務が処理される見込みがある | — |
| 第5号 | 公益信託の関係者に信託財産を用いた特別の利益を与えない | 施行令第1条、施行規則第6条 |
| 第6号 | 営利事業を営む者等に信託財産を用いた寄附等をしない | 施行令第2条、施行規則第7条 |
| 第7号 | 公益信託としてふさわしくない事業を行わない | 施行令第3条 |
| 第8号 | 収支の均衡が図られる見込みである | 施行規則第17条〜第23条 |
| 第9号 | 公益事務割合が基準割合以上となる見込みである | 施行規則第24条〜第32条 |
| 第10号 | 使途不特定財産額が制限を超えない見込みである | 施行規則第33条〜第37条 |
| 第11号 | 公益信託報酬の支払基準を定めている | 施行規則第8条 |
| 第12号 | 他の団体の意思決定に関与できる財産が信託財産に属しない | 施行規則第9条、施行令第4条 |
| 第13号 | 残余財産の帰属権利者を信託行為で定めている | 施行令第5条 |
内閣府は「公益信託認可等ガイドライン」を公表しており、その第3章第1節が第8条の基準にほぼ号ごとに対応する形で審査の考え方を示しています(特別の利益供与を扱う第5号・第6号は1つの項目にまとまり、柱書の特定資産公益信託には独立の項目が立っています)。条文と施行令・施行規則で骨格をつかんだうえで、判断が分かれそうな論点をガイドラインで確認する、という順番で使うのが実務的です。
制度そのものの全体像は「公益信託とは|2026年4月施行の新制度と公益法人との違いをわかりやすく解説」、法律の条文構成は「公益信託に関する法律(公益信託法)とは」で扱っています。
塊1|目的――公益事務だけを行う(第1号・第7号)
「のみ」の一語が公益法人との最大の違い
第1号は、公益事務を行うことのみを目的とするものであることを求めます。公益法人の認定基準が「公益目的事業を行うことを主たる目的とするものであること」(公益認定法第5条第1号)であるのと比べてください。公益法人は収益事業等を行えますが、公益信託は公益事務以外の事務を目的とすることが認められていません。
これは制約であると同時に、公益信託の設計思想でもあります。収益事業を持たないため、区分経理のような複雑な会計処理が不要になり、公益法人より運営の負担が軽くなります。公益事務だけを行う器だからこそ軽くできる、という関係です。
公益事務とは、学術の振興、福祉の向上その他の不特定かつ多数の者の利益の増進を目的とする事務として、公益信託法の別表各号に掲げる事務をいいます(公益信託法第2条第1項第2号)。別表は第23号まであり、最後の号が政令への委任になっています。
審査では、信託行為と申請書に書いた「公益事務の種類及び内容」に公益事務として認められない事務が混ざっていないかが見られます。信託行為には公益信託の目的や公益事務の内容を定めなければならず(公益信託法施行規則第1条)、信託行為の全体を通じて公益事務だけを行うことが明確である必要があります。
なお、受託者が信託財産を使わずに自分の固有の事業を行うことまで妨げられるわけではありません。禁じられているのは、信託行為に定められた公益事務以外の事務を公益信託として行うことです。
政令が挙げる3つのふさわしくない事業
第7号は、公益信託の社会的信用を維持する上でふさわしくない事業として政令で定めるものや、公の秩序・善良の風俗を害するおそれのある事業を行わないことを求めます。政令が挙げるのは次の3つです(公益信託法施行令第3条)。
- 投機的な取引を行う事業
- 利息制限法第1条により計算した金額を超える利息の契約などを内容に含む金銭消費貸借による貸付けを行う事業
- 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第2条第5項に規定する性風俗関連特殊営業
第1号が「何をするか」の入口を絞るのに対し、第7号は「これだけはしない」という出口の歯止めです。2つを合わせて、目的の塊と考えると整理しやすくなります。
塊2|担い手――受託者と信託管理人(第2号・第3号)
旧制度では受託者が信託銀行等に事実上限られていましたが、新制度では多様な法人や自然人が受託者になり得ます。そのぶん、担い手に力があるかを個別に審査する必要が生じています。ガイドラインが最も紙幅を割いているのがこの塊です。
受託者の経理的基礎を判断する3つの要素
第2号は、受託者が公益信託事務を適正に処理するのに必要な経理的基礎および技術的能力を有することを求めます。経理的基礎の中身は内閣府令が3つに分解しています(公益信託法施行規則第4条第1項)。
- 公益信託事務を安定的かつ継続的に処理するために必要な信託財産および固有財産が確保されていること
- 信託財産の分別管理および経理が適正に行われる仕組みが整備されていること
- 財産目録等の作成・備置き・閲覧等に関する処理方法が定められ、信託財産の状況に係る情報を適正に開示できる仕組みが整備されていること
信託財産については、事業計画書、予定財産目録、収支予算書などから、公益事務の規模に見合った財産が確保されているかが確認されます。当初の信託財産以外の資金を前提とする事業計画であれば、対価収入の積算根拠、追加信託や第三者からの寄附の受入れ見込み、借入れの計画といった情報を求められます。奨学金の支給のように確実な実施が必要な公益事務では、寄附等が確実に実施されることを示す文書の提出を求められることもあります。
見落としやすいのが受託者自身の固有財産です。受託者が破産手続に入ると任務が終了して新受託者の選任が必要になるため、受託者の財政基盤も確認の対象になります。ガイドラインは、法人・個人ともに債務超過ではないことを判断の目安とし、債務超過でも一時的な状態であると合理的に説明できる場合や、定期的かつ安定した収入が見込める場合は基準を満たすものとして扱うとしています。
分別管理も経理的基礎の一部です。受託者は、信託財産に属する財産と固有財産・他の信託の信託財産とを信託法が定める方法により分別して管理しなければなりません(信託法第34条)。信託行為で「登記手続に時間を要する間の一時的な猶予」といった別段の定めを置くことは可能ですが、分別管理義務そのものを免除する定めは置けません。
「認可から3か月」という時間の目安
条文には書かれていませんが、審査の実務で効いてくる目安があります。ガイドラインは、特別の理由がある場合を除き、認可から遅くとも3か月以内に信託の効力が発生し、実質的に意味のある形で公益事務が開始される必要があるとしています。財産の移転が完了する一般的な期間という理由づけです。
申請時点で合理的な理由なく1年以上先に効力を生ずる公益信託については、認可基準への適合を適切に判断できないとして不認可になり得るとも書かれています。信託の効力発生日を先に置く設計を考えている場合は、この点を早めに確認しておくのが安全です。
技術的能力を構成する3つの要素
技術的能力についても内閣府令が3つの要素を示しています。適正な運営の仕組み、専門家の関与、任務の安定性・継続性です。
公益法人であれば、理事会・監事・評議員会といった一般法人法上のガバナンスに加えて、いわゆる3分の1基準や外部理事・外部監事といった公益認定基準が適用されるため、その体制があること自体をもって技術的能力があると判断するのが原則です。これに対し公益信託には、受託者や信託管理人の内部機関についての規律がありません。そのため、公益信託事務の内容に照らして適正な運営を確保する仕組みを備えているかが個別に審査されます。
ここで重要なのは、適正な運営を確保する仕組みは受託者の内部組織だけで確保する必要がないという点です。合議制機関を設けたり、信託管理人の職務によって確保したりすることもできますし、人員や設備は第三者に委託することもできます。受託者が小さな法人や自然人であっても、全体の体制で基準を満たせる設計になっています。
求められる水準は公益事務の内容によって変わります。奨学金や助成であれば、募集の要件が信託行為に定められていれば判断が必要な場面は選考時などに限られます。一方、学生寮の運営や美術品の展示といった事業運営型の公益事務では、日常的な管理や突発的な判断が必要になるため、相応の専門性が求められます。ガイドラインは、いわゆる軽量な公益信託について一律の基準を設けることは適当でないと明記しています。
実際に認可された案件でも、この「全体の体制で満たす」考え方が使われています。小規模な法人が受託者となった公益信託では、信託行為に添えた信託管理人の規程に重点確認事項という条を置き、受託者の業務執行体制が小規模であることを踏まえて重点的に確認する事項を列挙しました。信託財産と受託者の固有財産の分別管理の状況、支給対象者の選定手続と合議制の機関の議決の状況、個別案件記録の保存状況、支給金額の算定と支給実行の適正性、受託者の固有事業と公益事務との費用配分の状況、公益信託報酬の算定根拠と二重収受の有無などです。受託者の体制が薄い分を、監督側の確認事項を厚くすることで補う設計です。受託者側の組織を強くする以外に、こういう届き方もあると分かります。
公益財団法人の3つの機関の役割を併せ持つ信託管理人
第3号は、信託管理人が受託者による公益信託事務の適正な処理のため必要な監督をするのに必要な能力を有することを求めます。この基準の重さは、公益財団法人と比べるとわかりやすくなります。
公益財団法人では、理事会が業務執行を決定して理事を監督し、監事が理事の職務執行を監査し、評議員会が理事・監事を選任・解任します。監督の役割が3つの機関に分かれています。公益信託ではこれらの役割を信託管理人が併せ持ちます。受託者の選任・解任、受託者による競業行為や利益相反行為の承認、受託者の行為の差止めや損失てん補の請求まで、極めて強い権限を有します。信託管理人を1人置く場合は、その1人がこれらの権限を担います。複数置くこともできますが、その場合は原則として共同して権限を行使します(信託法第125条第2項)。
しかも、この権限は信託行為で制限することができません。公益信託法第33条第1項が信託法第125条第1項ただし書を適用除外としているためです。
裏返せば、信託管理人の能力が確保されていなければ、公益信託全体のガバナンスが成立しません。ガイドラインは、受託者が自然人であったり体制が脆弱な法人であったりする場合には、信託管理人の能力が受託者の能力以上に重要になることもあるとしています。信託管理人は「名前を貸すだけの役」ではない、という理解が出発点になります。
なお、信託管理人の独立性は認可基準ではなく欠格事由の側で担保されています。信託管理人のうちに受託者の親族や使用人その他受託者と特別の関係がある者、または委託者やその親族等がある公益信託は、認可を受けることができません(公益信託法第9条第3号)。誰を信託管理人にするかを検討するときは、第8条第3号と第9条第3号をセットで見る必要があります。
塊3|お金の流れ――続くかどうかと公益に向いているか(第4号・第8号〜第12号)
存続期間を通じて処理できる見込み(第4号)
第4号は、信託行為の内容を証する書面、事業計画書、収支予算書の内容に照らして、存続期間を通じて公益信託事務が処理されることが見込まれることを求めます。
将来の寄附や対価収入を確定的に見込むのは困難です。ガイドラインもそこは織り込んでおり、公益事務の中断によって大きな不利益が見込まれる場合(約束した奨学金が途絶えて学業継続を断念させるような場合)を除き、中長期的な予測については明らかに不合理でなければ見込みがあると判断するとしています。民間の発意による挑戦をいたずらに抑制しないという方針が明記されている点は、押さえておく価値があります。
確認の観点として挙げられているのは、金融的収入が一般的な金利水準や配当状況に照らして著しく不合理でないか、寄附金収入が実現可能と説明できるか、費用の見積りに極端な過不足がないか、といったものです。信託財産に不動産が含まれる場合に公租公課・管理費・修繕費が算定されているか、という具体的な例も示されています。
財務規律に関する3つの基準(第8号〜第10号)
第8号から第10号までは、認可後に継続して守る財務規律を、認可の段階で「見込み」として確認するものです。
| 号 | 基準 | 対応する運営義務 |
|---|---|---|
| 第8号 | 収支の均衡が図られる見込みであること | 公益信託法第16条第1項 |
| 第9号 | 公益事務割合が基準割合以上となる見込みであること | 同条第2項 |
| 第10号 | 使途不特定財産額が制限を超えない見込みであること | 公益信託法第17条第1項 |
第9号の基準割合は100分の70です(公益信託法施行規則第25条)。公益法人の公益目的事業比率が100分の50以上(公益認定法第15条)であるのと比べて高いのは、公益事務だけを行う器であるぶん、管理費に回せる割合が絞られているためです。
報酬と株式の保有(第11号・第12号)
第11号は、公益信託報酬について、当該公益信託の経理の状況その他の事情を考慮して不当に高額なものとならないような支払基準を定めていることを求めます。公益信託報酬には、受託者の信託報酬(信託法第54条第1項)と信託管理人の報酬(同法第127条第3項)の両方が含まれます。片方だけの基準では足りません。
支払基準を記載した書類は、備置き・閲覧の対象であり、行政庁への提出と公表の対象でもあります(公益信託法第20条第2項第3号、第21条)。したがって、実際に認可された公益信託の支払基準は読むことができます。施行初年度の認可例では、信託財産の残高の平均額に対する定率とするもの、定率に最低報酬額を組み合わせるもの、実際に支給した金額に対する出来高とするもの(採択決定額や未払額は算定基礎に含めないと明記する例もあります)と、設計が分かれました。
上限の置き方は2種類に分かれます。1つは、公益事務割合が70パーセント以上となる額を限度とするもので、これは後述する第9号の基準割合をそのまま条件にしたものです。もう1つは、受託者報酬と信託管理人報酬を合算して当該事務年度の事業費の30パーセントを超えないとするものです。後者を採った信託は特定資産公益信託であり、第9号の基準そのものは適用除外になるため(第8条柱書)、この上限は法定の基準ではなく、信託行為が自ら置いた歯止めです。分母も異なります。基準割合は事業費と管理費の合計に対する事業費の割合ですが、後者は事業費に対する報酬の割合で、水準としては基準割合から換算した場合より厳しくなります。第11号が求めているのは不当に高額とならない支払基準を定めることであり、上限の建て方そのものは信託の設計に委ねられている、と読めます。
支払基準では、報酬に含まれる費用と別途支出できる費用を区分し、同じ費用を報酬と費用で二重に収受しない旨を明記する形も見られます。
第12号は、他の団体の意思決定に関与することができる株式その他の内閣府令で定める財産が信託財産に属しないことを求めます。ただし書があり、その財産の保有によって他の団体の事業活動を実質的に支配するおそれがない場合として政令で定める場合は除かれます。政令は、株主総会その他の団体の財務・営業・事業の方針を決定する機関における議決権の過半数を有していない場合としています(公益信託法施行令第4条)。
株式を信託財産とする公益信託を検討する場合は、ここが実務上の分岐点になります。配当を原資として助成を続ける設計は新制度で使いやすくなりましたが、原則として議決権の過半数を有する株式は保有できません。ただし、過半数を保有していても議決権行使に係る実質的な権限等を有しない場合は、「他の団体の意思決定に関与することができる株式」に該当せず、規制の対象外となり得ます。保有割合だけでなく、議決権を実質的に行使できる立場かを確認する必要があります。
塊4|利益供与と残余財産――財産が公益の外へ出ないようにする(第5号・第6号・第13号)
誰に特別の利益を与えてはいけないのか(第5号)
第5号は、受託者が公益信託事務を処理するに当たり、委託者、受託者、信託管理人その他の政令で定める公益信託の関係者に対し、信託財産を用いて特別の利益を与えないことを求めます。政令が挙げる関係者は次のとおりです(公益信託法施行令第1条)。
- 当該公益信託の委託者、受託者または信託管理人
- 委託者または受託者が法人その他の団体である場合の、その団体の業務を執行する役員(これに類する者を含む)
- 上記の者の配偶者または3親等内の親族
- 事実上婚姻関係と同様の事情にある者
- 委託者・受託者・信託管理人またはその団体の業務執行役員(最初の2項目の者)から受ける金銭その他の財産によって生計を維持する者
- 委託者または受託者が法人その他の団体である場合の、その団体が事業活動を支配する法人等および、その団体の事業活動を支配する者(いずれも内閣府令で定めるもの)
親族の範囲が3親等内であることと、生計維持者まで含まれることは、受益対象者の選定方法を設計するときに効いてきます。
2つの例外(第6号)
第6号は、営利事業を営む者や、特定の個人・団体の利益を図る活動を行うものとして政令で定める者に対し、信託財産を用いて寄附その他の特別の利益を与える行為を行わないことを求めます。政令が定めるのは、営利事業者へ特別の利益を与える活動を行う個人・団体と、社員等に共通する利益を図る活動を行うことを主たる目的とする団体、つまり共益的な団体です(公益信託法施行令第2条)。
この禁止には、条文上ただし書で2つの例外が置かれています。
- イ 公益法人に対し、当該公益法人が行う公益目的事業のために寄附その他の特別の利益を与える行為を行う場合
- ロ 他の公益信託の受託者に対し、当該受託者が行う公益事務のために寄附その他の特別の利益を与える行為を行う場合
公益信託から公益法人へも、公益信託から他の公益信託へも、公益目的のためであれば財産を回せるということです。逆方向、つまり公益法人から公益信託への寄附についても、公益認定法の側に同じ構造の例外が置かれています。この点は「公益法人・移行法人と公益信託|寄附先・贈与先・残余財産の帰属先に公益信託が追加」で扱っています。
残余財産の帰属権利者(第13号)
第13号は、残余財産の帰属権利者を信託行為で定めていることを求めます。帰属権利者になれるのは、当該公益信託の目的とする公益事務と類似の公益事務を目的とする他の公益信託の受託者、類似の公益目的事業を目的とする公益法人、学校法人、社会福祉法人、更生保護法人、独立行政法人、国立大学法人・大学共同利用機関法人、地方独立行政法人、そのほか政令で定める法人、そして国または地方公共団体です。
政令で定める法人は、特殊法人(株式会社であるものを除く)、日本赤十字社、およびそれ以外の法人のうち一定の要件をすべて満たすものです(公益信託法施行令第5条)。最後の類型の要件には、主たる目的が公益に関する事業であること、役員の3分の1を超える親族が入らないこと、構成員に剰余金分配を受ける権利を与えられないこと、残余財産を公益目的に処分することが法令等で定められていることが含まれます。
帰属権利者は信託行為の必要的記載事項です(公益信託法第4条第2項第3号)。委託者や寄附者の意思を担保するために、財産が公益の外へ流出しない設計を求めているものと読めます。
書き方には実務の型が生まれつつあります。施行初年度に認可された公益信託の契約書は、いずれも帰属先を具体的な団体名で特定せず、公益信託法第8条第13号に規定する者の中から信託管理人の同意を得て選定した者とする形で揃えました。数十年先に受け皿となる団体が存続しているかは分からないため、選べる範囲と選ぶ手続だけを先に決めておく、という考え方です。信託行為に団体名を書いた場合、その団体が消滅すれば信託の変更手続が必要になります。
なお、公益信託は、信託行為に別段の定めがない限り、委託者と信託管理人の合意によって終了させることができません(公益信託法第23条第2項)。ガイドラインは、合理的な理由なくいつでも終了させられる別段の定めを置いた場合、第4号の「存続期間を通じて処理される見込み」が認められないとしています。終わり方の設計は第13号だけの問題ではありません。
財務規律の3つの基準が外れる特定資産公益信託
第8条の柱書には長い括弧書きがあり、特定資産公益信託については第8号から第10号までの基準を適用しないと定めています。財務規律に関する3つの基準がまとめて外れるということです。
特定資産公益信託とは、信託行為において次の2点を定める公益信託をいいます。
- 信託財産が、寄附により受け入れた金銭または預貯金、国債その他これらに準ずる資産(いずれも内閣府令で定める要件に該当するものに限る)に限られる旨
- その信託財産(信託財産に帰せられる収益を含む)について、内閣府令で定める方法によってのみ支出する旨
信託財産の要件は、寄附により受け入れる資産が金銭であること、信託財産が金銭、預金、貯金、国債、地方債などに限定されることです(公益信託法施行規則第3条第1項)。支出方法については、助成金の支給その他これに類する金銭の支給等を行い、かつ、信託財産から生ずる利子その他の運用収益に相当する額を超える額を毎信託事務年度に支出することが求められます(同条第2項)。つまり、資産を運用しないという意味ではなく、運用収益だけを支出するのではなく元本部分も取り崩していく「取崩型」であるため、財産が滞留しないという考え方です。
特定資産公益信託であることは認可申請書に記載し、行政庁による公示でも明らかにされます。旧制度で税制上の優遇措置を受けていた特定公益信託の多くは、この要件を満たすと考えられるとガイドラインは述べています。小規模な奨学金や助成の公益信託を検討する場合、まずこの類型に当てはまるかを確認すると、必要な準備の範囲が大きく変わります。
施行初年度の認可例を見ると、この類型を選んだものが複数あります。書き方は一様ではなく、契約書の前文で本公益信託は特定資産公益信託であると述べる例、名称等を定める条に本公益信託は特定資産公益信託とすると置く例、収支予算書の冒頭で本予算書は特定資産公益信託として作成していると注記する例があります。取崩型であることの効果もはっきり見えます。ある移行案件の収支予算書は、運用収入と寄附金収入の合計が約277万円である一方、助成金を含む支出が約4,837万円で、差額を元本の取崩しで賄う予算です。第8号の収支の均衡の基準が適用されないからこそ成り立つ形で、低金利下で運用収益に頼れない旧制度からの移行案件にとって、この類型は現実的な選択肢になっています。
認可基準(第8条)と欠格事由(第9条)の違い
第8条に並ぶ13の基準を満たしても、第9条の欠格事由に当たれば認可を受けられません。第9条は「前条の規定にかかわらず」で始まり、6つの類型を挙げています。
| 号 | 欠格事由の対象 |
|---|---|
| 第1号 | 受託者が、必要な行政機関の許認可等を受けられない、または国税・地方税の滞納処分の執行を受けている(執行の終了から3年を経過しない場合を含む) |
| 第2号 | 受託者(法人の場合はその理事等)に、認可取消しの責任者や一定の法令違反による罰金刑、拘禁刑、暴力団員等に該当する者がいる |
| 第3号 | 信託管理人に、受託者や委託者の親族・使用人その他特別の関係がある者がいる |
| 第4号 | 信託管理人(法人の場合はその理事等)に第2号イからニまでに該当する者がいる |
| 第5号 | 信託行為または事業計画書の内容が法令や行政機関の処分に違反している |
| 第6号 | 暴力団員等が公益信託事務を支配している |
第8条が「積極的に満たすべき条件」であるのに対し、第9条は「1つでも当たれば認可できない条件」です。申請の準備では、第8条の適合性を組み立てる作業と、第9条に触れていないかを確認する作業を分けて進めるほうが漏れが出ません。
もう1つ、条文以外の手続も見ておきます。公益信託が公益事務を行うに当たり法令上行政機関の許認可等を必要とする場合、行政庁は、第8条第1号・第2号・第7号と第9条第1号イ・第5号に規定する事由の有無について、その許認可等を行う行政機関(許認可等行政機関)の意見を聴くものとされています(公益信託法第10条第1号)。許認可を要する分野の公益事務では、審査の期間にこの手続が入ることを見込んでおく必要があります。
認可と税制上の優遇の関係
最後に、混同されやすい点を1つ確認しておきます。認可を受けたことと、税制上の優遇を受けられることは同じではありません。
たしかに新制度では、認可を受けた公益信託であれば、基本的に公益法人並びの優遇を受けられる形に組み替えられました。個人が金銭を寄附した場合の所得税の寄附金控除のように、認可を受けていること自体が要件となる場面もあります。
一方で、個人が土地や株式などの現物資産を拠出する場合のみなし譲渡所得の非課税は、国税庁長官の承認を受けた贈与または遺贈が対象です(租税特別措置法第40条第1項)。認可を受けたことによって承認まで得られるわけではなく、別に申請して要件を満たす必要があります。認可基準の検討と税務の検討は、別の作業として並行させてください。
認可申請の準備でお困りの際は
第8条に並ぶ13の基準は、目的(第1号・第7号)、担い手(第2号・第3号)、お金の流れ(第4号・第8号から第12号まで)、利益供与と残余財産(第5号・第6号・第13号)の4つに束ねて読むと見通しが立ちます。そのうえで、政令と内閣府令が中身を埋める号を特定し、判断が分かれそうな論点をガイドラインで確認する、という順序が効率的です。
もっとも、実際の申請では、信託行為の条項をどう書けば基準に適合していると読めるのか、受託者と信託管理人の役割分担をどう設計するのか、事業計画と収支予算をどこまで詰めるのかといった、条文を読むだけでは決まらない判断が続きます。公益信託の設計や認可申請の準備でお困りのことがあれば、全国公益法人協会の支援サービス「シェアコモン200」でご相談いただけます。会計・税務・法務の各分野に約200名の専門家が対応しており、年間利用料の範囲で、条文の読み方から申請書類の組み立てまで何度でもお尋ねいただけます。