2026年(令和8年)4月1日に公益信託法が施行されたとき、変わったのは公益信託の制度だけではありません。同じ日に公益認定法と整備法も改正され、公益法人・移行法人との関係では、公益信託を財産の移転先等として扱う規定が拡充されました。大きく分けると、寄附、公益認定の取消し等に伴う贈与、清算時の残余財産という3つの類型です。条文上は、公益法人について3場面、移行法人について2場面の計5場面に整理できます。
このうち2つは定款に書く事項です。しかも贈与先の定めは、通常は変更できないという強い縛りがかかっています。公益信託を選択肢に加えるかどうかは、まだ決めなくてもかまいません。ただ、その定めを変更できる機会が1回に限られていることは、いま知っておく必要があります。
改正で公益信託が加わった3類型・5つの場面
改正の中身を先に一覧にします。いずれも2026年4月1日施行です。
| 場面 | 根拠条文 | 公益信託について加わったこと |
|---|---|---|
| 公益法人が公益信託へ寄附する | 公益認定法第5条第4号ロ | 特別の利益を与える行為の禁止にかからない場合として明記された |
| 公益認定の取消し・合併消滅で公益目的取得財産残額があるとき | 同法第5条第20号 | 贈与先の選択肢に、類似の公益事務をその目的とする公益信託の信託財産とすることが加わった |
| 清算するときの残余財産 | 同法第5条第21号 | 帰属先の選択肢に公益信託が加わった |
| 移行法人の公益目的支出計画 | 整備法第119条第2項第1号ロ | 特定寄附として、公益信託の信託財産とするための支出が算入対象になった |
| 移行法人が清算するとき | 整備法第130条 | 公益目的財産残額に相当する額の帰属先に公益信託が加わった |
共通しているのは、公益信託が「公益法人と並ぶ受け皿」として法律上位置づけられたという点です。公益信託は法人格を持たない信託ですが、行政庁の認可を受けて公益事務だけを行う器であるという性質は公益法人と重なります。改正は、その重なりを制度の側で認めたものと読めます。
なお、公益信託とは、受益者の定めのない信託であって、公益事務を行うことのみを目的とするものをいいます(公益信託法第2条第1項第1号)。公益事務は、学術の振興や福祉の向上など、同法の別表各号に掲げる事務です(同項第2号)。制度そのものの全体像は「公益信託とは|2026年4月施行の新制度と公益法人との違いをわかりやすく解説」で扱っています。
公益法人から公益信託への寄附――特別の利益供与の禁止の例外
公益認定の基準には、特別の利益を与える行為を禁じる規定があります。営利事業を営む者や、特定の個人・団体の利益を図る活動を行うものとして政令で定める者に対して、寄附その他の特別の利益を与える行為を行わないこと、というものです(公益認定法第5条第4号)。
この禁止には、もともと1つだけ例外がありました。他の公益法人に対し、その公益法人が行う公益目的事業のために寄附する場合です。改正では、この例外がイとロの2つに整理され、ロに公益信託が入りました。
- イ 公益法人に対し、当該公益法人が行う公益目的事業のために寄附その他の特別の利益を与える行為を行う場合
- ロ 公益信託の受託者に対し、当該受託者が行う公益事務のために寄附その他の特別の利益を与える行為を行う場合
読むときに落としてはいけないのが、ロの「当該受託者が行う公益事務のために」という限定です。相手が公益信託の受託者でありさえすればよいのではなく、その受託者が行う公益事務のための寄附であることが必要です。イが「当該公益法人が行う公益目的事業のために」と書いているのと同じ構造で、寄附の使途が公益に向いていることを条件にしています。
寄附先が認可を受けた公益信託かを確かめる
ロの適用を受けるのは、公益信託法上の公益信託、つまり行政庁の認可を受けたものです。旧制度で主務官庁の許可を受けた公益信託は、移行認可を受けるまでは旧制度の規律が適用され、移行認可を受けた日以後に新制度の公益信託となります(公益信託法附則第2条第2項、第4条、第12条)。したがって、旧制度の許可を受けているというだけでロの対象と判断せず、寄附の前に移行認可の有無を確認する必要があります。
行政庁は、公益信託の認可をしたときはその旨を公示しなければなりません(公益信託法第11条)。公示はインターネットの利用その他の適切な方法によって行われます(公益信託法施行規則第56条)。信託行為の変更等の認可を受けた場合も同様に公示されます(公益信託法第12条第6項)。したがって、公示情報を確認すれば、認可を受けた公益信託かどうかは外から判断できます。
公益認定が取り消されたときの贈与先(第5条第20号)
ここからが定款に関わる話です。
公益法人は、公益認定が取り消されたとき(公益認定法第29条第1項・第2項)や、合併により消滅するとき(権利義務を承継する法人が公益法人である場合を除く)に公益目的取得財産残額があれば、これに相当する額の財産を1か月以内に贈与する旨を定款で定めていなければなりません(同法第5条第20号)。公益目的取得財産残額とは、おおまかにいえば、公益法人であった期間に公益目的のために積み上がった財産のうち、まだ公益目的に使い切っていない部分です(同法第30条第2項)。
改正前の贈与先は、類似の事業を目的とする他の公益法人、学校法人・社会福祉法人・更生保護法人・独立行政法人・国立大学法人・地方独立行政法人など第20号イからトまでに掲げる法人、そして国または地方公共団体でした。改正後は、ここに類似の公益事務をその目的とする公益信託の信託財産とすることが加わっています(公益認定法第5条第20号)。
「類似の」という限定は、公益法人に贈与する場合と同じ考え方です。どの公益信託でもよいわけではなく、自法人の公益目的事業と類似する公益事務を目的とする公益信託である必要があります。定款に具体的な公益信託の名称まで書くかどうかは設計の問題ですが、書くのであれば、その公益信託が将来も存続している保証はないという点は織り込んでおくべきです。
1か月と3か月という2つの期限
この場面には期限が2つあります。混同しやすいので分けて整理します。
| 期限 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 取消し等の日から1か月以内 | 定款の定めに従って贈与の契約を成立させる。公益信託の場合は、その財産を当該公益信託の信託財産とすることとなること | 公益認定法第5条第20号、同法第30条第1項 |
| 取消し等の日から3か月以内 | 様式第十三号による報告書を行政庁へ提出する | 公益認定法施行規則第70条第1項 |
公益認定法第30条第1項は、1か月以内に贈与の契約が成立しないとき、公益信託の場合はその財産を当該公益信託の信託財産とすることができないときの効果を定めています。この場合、内閣総理大臣が行政庁であれば国、都道府県知事が行政庁であれば当該都道府県が、その金額の贈与を受ける旨の契約が成立したものとみなされます。一部だけ成立した場合の残りについても同じです。
さらに、3か月以内に報告書の提出がないときは、契約が成立しなかったものとみなされます(公益認定法施行規則第70条第3項)。つまり、契約を成立させても報告を怠れば、成立しなかったものとして国または都道府県への贈与に切り替わるという建て付けです。報告書には各契約に係る契約書の写しを添付します(同条第2項)。
清算するときの残余財産の帰属先(第5条第21号)
もう1つの定款事項が、清算をする場合の残余財産です。類似の事業を目的とする他の公益法人、第20号イからトまでに掲げる法人、国または地方公共団体に帰属させる旨を定款で定めていることが公益認定の基準になっています(公益認定法第5条第21号)。ここにも、類似の公益事務をその目的とする公益信託の信託財産が加わりました。
第20号の贈与先と第21号の帰属先は、どちらも「公益目的で集まった財産を公益の外へ出さない」ための規定ですが、働く場面が違います。第20号は公益認定を失うときや合併で消滅するとき、第21号は法人そのものが清算するときです。定款を見直すときは両方を見てください。片方だけ公益信託を追加しても、もう片方には効きません。
第20号の定款の定めを1回に限り変更できる経過措置
ここが今回の改正でいちばん実務的な論点です。
公益法人は、第5条第20号に規定する定款の定めを変更することができません(公益認定法第30条第5項)。公益認定を失うときの財産の行き先が事後的に動かされては、規定の意味が失われるためです。この禁止は例外のない書き方になっています。
そのままでは、改正で公益信託が選択肢に加わっても、既存の公益法人は定款に反映できません。そこで、公益信託法の附則に経過措置が置かれました。公益目的取得財産残額に相当する額の財産を公益信託の信託財産とする旨を定款に定める必要があるときは、公益認定法第30条第5項にかかわらず、1回に限り、第20号に規定する定款の定めを変更することができます(公益信託法附則第28条)。
押さえておきたいのは次の3点です。
- 回数が1回に限られる。試しに入れておいて後で直す、という使い方はできません。追加する公益信託の選び方や書きぶりは、1回で確定させる前提で検討します。
- 第21号(清算時の残余財産)には第30条第5項のような変更禁止がない。こちらは通常の定款変更の手続で足ります。1回限りの制約がかかるのは第20号の定めだけです。
- 定款変更そのものの手続は通常どおり。社員総会または評議員会の決議など、法人の種類に応じた手続を経る必要があります。
「いずれ公益信託への贈与も選べるようにしておきたい」と考えるのであれば、この1回をどう使うかを理事会で議論しておく価値があります。逆に、当面その予定がないのであれば、無理に使う必要はありません。
移行法人の公益目的支出計画と特定寄附
特例民法法人から一般社団法人・一般財団法人へ移行した移行法人にとっては、別の入口があります。公益目的支出計画です。
公益目的支出計画を有する移行法人は、公益目的財産額に相当する金額を公益の目的のために支出して零にするための計画について認可を受けています(整備法第45条、第119条第1項)。この「公益の目的のための支出」の1つが、公益認定法第5条第20号に規定する者に対する寄附、いわゆる特定寄附です。改正により、ここに同号に規定する公益信託の信託財産とするための支出が加わりました(整備法第119条第2項第1号ロ)。
公益目的支出の額は事業年度ごとに算定され、特定寄附の額には、それに付随して発生した費用の額も含まれます(整備法施行規則第16条)。
計画に書く内容も整理されています。特定寄附について、寄附の場合は相手方の名称と主たる事務所の所在場所を、公益信託の信託財産とするための支出の場合は、支出する公益信託の名称と受託者の氏名・住所を記載します。使途を特定して支出する場合は、その使途も書きます(整備法施行規則第25条第5号)。受託者が法人であれば、名称、代表者の氏名、主たる事務所の所在地を記載します。
計画を変えるときの手続も押さえておきます。公益信託の名称や受託者の氏名・住所のみの変更は軽微な変更として扱われ、変更の認可を要しません(整備法第125条第1項、整備法施行規則第35条第2号ロ)。ただし、認可が要らないだけで手続がなくなるわけではありません。軽微な変更をしたときは、遅滞なくその旨を認可行政庁へ届け出る必要があります(整備法第125条第3項第2号)。一方、支出の相手方を別の公益信託に差し替えることは、同じ公益信託の名称だけを変更する場合とは異なるため、通常は軽微な変更に当たらないと考えられます。個別の計画変更では、認可の要否を認可行政庁に確認するのが安全です。
移行法人が清算をする場合も同様です。公益目的財産残額があるときは、残余財産のうちこれに相当する額の財産を、認可行政庁の承認を受けて、公益認定法第5条第20号に規定する者または公益信託の信託財産に帰属させなければなりません(整備法第130条)。承認の申請には、残余財産の処分方法とその理由を記載した書類などを添付します(整備法施行規則第48条第2項)。
公益法人が受け取る側になる場面
ここまでは公益法人が財産を出す側でしたが、逆向きの流れも制度に組み込まれています。両方向を押さえておくと、公益信託との関係が立体的に見えてきます。
1つは、公益信託が終了したときの残余財産の帰属先です。 公益信託の認可基準は、当該公益信託の目的とする公益事務と類似の公益目的事業を目的とする公益法人などを帰属権利者とする旨を信託行為に定めていることを求めています(公益信託法第8条第13号)。帰属権利者となるべき者を指定する定めは、信託行為の必要的記載事項です(同法第4条第2項第3号)。
つまり、自法人の公益目的事業と近い分野の公益信託があれば、その信託行為で帰属権利者に指定されている可能性があります。指定されていれば、その公益信託が終了したときに残余財産を受け入れることになります。心当たりがあれば、受託者に確認しておくとよいでしょう。
もう1つは、公益信託から公益法人への寄附です。 公益信託の側にも、特別の利益供与の禁止に例外を置く規定があり、公益法人に対してその公益目的事業のために寄附する場合と、他の公益信託の受託者に対してその公益事務のために寄附する場合が除かれています(公益信託法第8条第6号イ・ロ)。公益認定法第5条第4号ロと鏡になった構造です。
公益法人から公益信託へ、公益信託から公益法人へ、そして公益信託から公益信託へ。公益目的のためであれば財産が行き来できる設計になっており、2026年4月の改正はその往路にあたる部分を公益認定法の側で整えたもの、と読むと位置づけがつかみやすくなります。
公益法人が公益信託の受託者になれるか
ここまでは、公益法人が公益信託に対して財産を出す側に立つ場面でした。よく一緒に質問されるのが、公益法人が公益信託の受託者になれるのかという論点です。これは制度の別の場所にある話で、今回の公益認定法の改正とは関係しません。
旧制度でも、受託者を信託銀行等に限定する明文の規定はありませんでしたが、運用上は受託者等に事実上の制限がありました。新制度では、信託会社だけでなく、公益法人、NPO法人、自然人など多様な主体が受託者となることが想定されています(内閣府「新しい公益信託制度について」令和8年5月版)。ただし、誰でも受託者になれるという意味ではなく、公益信託事務を適正に処理するのに必要な経理的基礎および技術的能力を有することが認可基準として求められます(公益信託法第8条第2号)。この基準の中身は「公益信託の認可基準|公益信託法第8条が定める13の基準を条文とガイドラインで読む」で扱います。
想定にとどまる話ではありません。施行初年度に認可された公益信託では、NPO法人と一般社団法人がそれぞれ受託者になっています。非営利法人が受託者になる場合に実務上の焦点になるのは、自法人の事業と信託の公益事務が重なる部分の扱いです。認可された契約書には、この点を正面から扱った条項が置かれています。ある案件では、受託者が自主事業として行う公益事務と同種の事業に係る取引を、信託管理人の承認を要する取引としてあらかじめ列挙しました。別の案件では、信託財産を固有財産その他の財産と明確に区分して管理し、公益信託のために開設した専用口座で管理する旨を定めたうえで、受託者の固有事業と公益事務との費用配分の状況を信託管理人が重点的に確認する事項に挙げています。自法人の事業領域と重なるからこそ受託者に選ばれるという構図であれば、重なりを消すのではなく、開示と承認の手続に載せるのが実務的な解になります。公益法人が受託者を検討する場合も、経理の分別と費用配分の根拠を説明できる状態にしておくことが出発点になります。
もう1つ、忘れやすい区別があります。公益法人が公益信託へ寄附することと、その寄附について税制上の優遇を受けることも別です。公益認定法第5条第4号ロは、寄附をしても公益認定の基準に反しないという趣旨の規定であって、寄附金の損金算入や現物資産のみなし譲渡所得の非課税を保証するものではありません。税務の取扱いは法人税法や租税特別措置法の各規定で個別に判断します。
定款と計画の見直しでお困りの際は
今回の改正で公益法人・移行法人が確認すべきことを整理すると、次のようになります。
- 公益信託へ寄附する予定があるか。あるなら、相手方が認可を受けた公益信託であることを公示で確かめる
- 第5条第20号の定款の定めに公益信託を加えるか。加えるなら、1回限りの経過措置をどう使うかを決める
- 第5条第21号の定款の定めも合わせて見直すか
- 移行法人であれば、特定寄附の相手先として公益信託を使うか。使うなら公益目的支出計画の記載と変更手続を確認する
公益信託は2026年4月に動き出したばかりで、実務の蓄積はこれからです。定款の文言をどう書くか、計画変更が軽微な変更に当たるかといった判断には、条文とガイドラインを行き来しながら個別の事情に当てはめる作業が伴います。定款や公益目的支出計画の見直し、公益信託への寄附の設計などでお困りのことがあれば、全国公益法人協会の支援サービス「シェアコモン200」でご相談いただけます。会計・税務・法務の各分野に約200名の専門家が対応しており、年間利用料の範囲で何度でもお尋ねいただけます。