一般社団法人を運営するうえで、最も基礎でありながらトラブルが起こりやすいのが「社員」の管理です。一般社団法人における社員とは、雇用契約を結んで働く従業員のことではなく、最高意思決定機関である社員総会で議決権を行使する「法人の構成員(株式会社の株主に相当する存在)」を指します。
なお、この「社員」は法律上の呼称であり、実務の現場では定款や会員規程で「正会員」「会員」などと称している法人も少なくありません。名称が「会員」であっても、社員総会で議決権を持つ構成員であれば一般法人法上の「社員」に該当します。一方で、議決権を持たない「賛助会員」などを別に設けている場合、それらは法律上の「社員」には当たりません。本記事では、法律上の呼称に合わせて「社員」で統一して解説します。
社員の入会、退社、そして除名といった資格の取得と喪失(得喪)は、法人のガバナンスの根幹をなす要素です。手続きに不備があれば、社員総会決議の効力そのものが揺らぎかねません。
社員資格の得喪は定款の絶対的記載事項
一般社団法人を設立・運営するにあたり、どのような人が社員になり、どのような事由でその資格を失うのかというルールは、法人運営の土台となります。
一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下、一般法人法)第11条第1項第5号において、社員の資格の得喪に関する定めは「定款の絶対的記載事項」とされています。つまり、この定めが定款に欠けている法人は、一般社団法人として成立しません。
実務上は、定款に「本法人の社員になろうとする者は、理事会の承認を得なければならない」といった大枠の基本原則を定め、具体的な入会審査基準や手続きの細部については、定款の委任に基づく「入会規程」や「会員規程」を別途整備して運用するのが一般的です。
社員の入会手続きと実務設計
新しく社員を迎え入れるプロセスでは、法人の理念や目的に合致した人物・組織であるかを精査する仕組みが必要です。
1. 入会申込と審査フロー
入会希望者から所定の「入会申込書」を回収します。申込書には、氏名(または名称)や住所といった法定記載事項のほか、法人の目的に賛同する旨の誓約や、反社会的勢力ではないことの表明保証条項を盛り込んでおくことが実務上不可欠です。
審査は、定款の定めに従って行います。多くの法人では、理事会を承認機関として定めています。理事会設置法人の場合、個々の入会をすべて理事会で決議するのは事務負担が大きいため、実務上は「会員審査委員会」などの諮問機関を設置し、そこでの事前審査を経て理事会が一括して承認する体制をとることが推奨されます。
2. 経費支払義務(会費)の発生
社員は、定款で定めるところにより、法人に対して経費を支払う義務を負います(一般法人法第27条)。この経費(会費)を徴収するには、あらかじめ定款にその旨を規定しておく必要があります。
定款には「社員は、社員総会において別に定める入会金及び会費を納入しなければならない」と定めておき、具体的な金額は社員総会の決議によって機動的に変更できるように設計するのが一般的です。
社員の退社実務――任意退社と法定退社
「退社」というと、一般的には会社員が勤務先を辞める(退職する)ことを指す言葉として使われることが多いですが、一般法人法における「退社」は意味が異なります。ここでいう退社とは、雇用関係の終了ではなく、法人の構成員である「社員」がその社員資格を喪失することを指す法律上の用語です。株式会社でいえば、株主がその地位を失うことに近いイメージです。以下、本記事では一般法人法上の用語としての「退社」を用いて解説します。
社員が法人を辞める「退社」には、本人の意思による「任意退社」と、法律上当然に発生する「法定退社」の2種類があります。
1. 任意退社(いつでも退社できる原則)
一般法人法第28条第1項において、社員は「いつでも退社することができる」と定められています。これが任意退社の原則です。
ただし、同項ただし書により、定款で別段の定めをすることが認められています。例えば、法人の事業年度の途中で突然退社されると、予算管理や事業運営に支障をきたすため、「退社の3か月前までに届け出なければならない」といった予告期間を設けたり、「事業年度の末日に退社することができる」といった時期の制限を定款で課したりすることが可能です。
しかし、この定款による制限にも限界があります。一般法人法第28条第2項により、定款で退社を制限している場合であっても、「やむを得ない事由」があるときは、社員はいつでも即時に退社することができます。病気療養や法人の著しい不正行為など、客観的に見て活動継続が不可能な事由がある場合は、定款の予告期間ルールを無視して退社できる点に留意してください。
2. 法定退社事由(第29条)
任意退社以外にも、以下の事由が発生した場合には、本人の意思にかかわらず法律上当然に退社となります(一般法人法第29条)。
- 定款で定めた事由の発生(たとえば特定の資格を喪失したとき、など)
- 総社員の同意
- 死亡又は解散(個人社員の死亡、法人社員の解散)
- 除名
実務上、特に活用されるのが「定款で定めた事由の発生」です。例えば、「会費を一定期間以上滞納したときは社員資格を喪失する」という自動退会規定を定款に設けておくことで、連絡が取れなくなった滞納社員をスムーズに整理することができます。内閣府のモデル定款などでは、この基準として「2年以上会費を滞納したとき」といった例が用いられています。
3. 退社に伴う持分の不発生と払戻しの有無
一般社団法人は「非営利法人」であり、剰余金の分配や残余財産の分配を受ける権利(持分)を社員に認めていません。
したがって、社員が退社する際、法人の資産を計算して払い戻すよう請求する権利(持分払戻請求権)は一切発生しません。これは、出資持分の払い戻しが発生し得る持分会社(合同会社など)や、一部の古い医療法人(出資持分のある医療法人)との決定的な違いです。
退社時に「これまで支払った入会金や会費を返還してほしい」と要求されるトラブルが稀にありますが、定款や会員規約に「既納の入会金及び会費は、いかなる理由があっても返還しない」と明記しておくことで、法的な返還義務がないことを明確に主張できます。
※ただし、法人が「基金制度」を採用しており、退社する社員が基金の拠出者である場合、その基金返還請求権は退社とは直接連動せず、一般法人法に定める要件(代替基金の積立てなど)を満たしたうえで、契約に基づき返還手続きを行うことになります。
厳格な手続きが求められる除名
除名とは、法人の秩序を著しく乱した社員や、義務を著しく怠った社員に対し、法人の意思によって強制的に社員資格を剥奪する最も重い処分です。それだけに、手続きには厳格な要件が課されています。
1. 除名の要件(正当な事由)
一般法人法第30条第1項において、社員の除名は「正当な事由があるときに限り」行うことができると定められています。単に「気に入らないから」「意見が合わないから」といった主観的な理由での除名は許されません。
客観的に見て、法人の名誉を著しく傷つける行為があった、あるいは定款に定める重大な義務に違反したといった、社会通念上やむを得ない事由が必要です。
2. 社員総会の特別決議
除名を行うには、社員総会の決議が必要です。しかも、通常の決議よりも要件が厳しい「特別決議」を経なければなりません。
具体的には、総社員の半数以上が出席し、総社員の議決権の3分の2以上に当たる多数をもって決議する必要があります(一般法人法第49条第2項)。定款でこの要件をさらに加重することはできますが、緩和することはできません。招集通知の期限や特別決議の数え方(分母を総社員数・総議決権とする点)など社員総会そのものの進め方は、一般社団法人の社員総会の開き方|招集通知・決議要件・議事録の実務で解説しています。
3. 弁明の機会の付与(第30条第1項)
除名手続きにおいて、最も実務担当者が注意しなければならないのが「弁明の機会の付与」です。
一般法人法第30条第1項に基づき、除名の決議を行う社員総会の日の1週間前までに当該社員に対して除名する旨を通知し、かつ、社員総会において弁明する機会を与えなければなりません。なお、除名の効力を当該社員に対抗するには、除名した旨を本人へ通知することが必要です(同条第2項)。
- 通知は総会日の1週間前までに到達している必要があります。
- 弁明の方法としては、対象社員が総会に出席して口頭で意見を述べる機会を保障します。本人が出席を拒否したり欠席したりした場合でも、適切に通知を行い、弁明の機会を提供した事実(通知の送付履歴や議事録への記録)を残しておくことが、後日の紛争を防ぐ備えとなります。
4. 除名対象社員の議決権
除名決議において、除名対象となっている社員は「利害関係人」に該当するため、自身の除名議案について議決権を行使することはできないと解されています。ただし、総会に出席して弁明する権利は保障されています。
社員名簿の作成・備置きと閲覧実務
社員の得喪があった場合、速やかに「社員名簿」を更新し、適切に管理しなければなりません。
1. 社員名簿の作成・備置き義務(第31条・第32条)
一般社団法人は、社員の氏名(または名称)及び住所を記載・記録した「社員名簿」を作成しなければなりません(一般法人法第31条)。
また、作成した社員名簿は、法人の主たる事務所に備え置く義務があります(一般法人法第32条第1項)。
2. 社員による閲覧・謄写請求(第32条第2項・第3項)
社員は、法人の業務時間内であれば、いつでも社員名簿の閲覧または謄写(コピー)を請求することができます(一般法人法第32条第2項)。この際、請求者は「請求の理由」を明らかにする必要があります。
個人情報保護の観点から「他の社員の住所や氏名を簡単に開示してよいのか」と悩む実務担当者は少なくありません。しかし、一般法人法は社員相互のコミュニケーションやガバナンス確保のために閲覧権を認めており、原則として拒むことはできません。
ただし、一般法人法第32条第3項に基づき、以下のいずれかに該当する場合は、法人は請求を拒絶することができます。
- 権利の確保や行使に関する調査以外の目的で請求したとき
- 法人の業務遂行を妨げ、または社員の共同の利益を害する目的で請求したとき
- 社員名簿の閲覧・謄写によって知り得た事実を、利益を得て第三者に通報するために請求したとき
- 過去2年以内において、社員名簿の閲覧・謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがある者が請求したとき
実務上、請求があった場合は、単に口頭で受けるのではなく、書面(閲覧請求書)によって具体的な理由を提出させ、上記の拒絶事由に該当しないかを理事会等で慎重に判断するフローを構築しておきましょう。
未払会費の回収と会計処理の後始末
社員が退社、あるいは除名によって資格を失った後、在籍期間中に発生していた未払会費(滞納会費)の取り扱いは、実務上避けて通れない問題です。
1. 退社後の請求権
社員が退社しても、在籍中に発生していた会費の支払義務が消滅するわけではありません。法人は退社した元社員に対し、未払分の会費を法的に請求する権利を有しています。
実務上は、退会届を受理する際、あるいは除名処分を通知する際に、未払会費の清算を求める督促状を同封します。回収が困難な場合は、内容証明郵便による督促や、金額によっては少額訴訟の手続きを検討することもあります。
2. 未収会費の会計処理と貸倒損失
会計上、会費を発生主義で計上している場合、期中には「未収会費」として資産に計上されます。発生主義による期間帰属や前受会費・中途退会時の返還処理といった会費の会計処理の基礎は、一般社団法人の会費・入会金の会計処理と税務|受取会費の扱いと非営利型の非課税で詳しく解説しています。退社や除名、連絡不通によって回収不能が確定した債権については、適切な決算整理を行わなければなりません。
回収の見込みがない未収会費については、理事会の承認等を経て、次のように貸倒損失として処理し、未収金を取り崩します。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 貸倒損失 | ××× | 未収会費 | ××× |
金子良太『公益法人会計の教科書【中級】』仕訳4-21より。
このように、お金の後始末までを規程と会計実務の両面でシームレスにつなげておくことが、健全な法人運営には欠かせません。
まとめ
一般社団法人の社員管理は、単なる事務作業ではなく、法人の意思決定の正当性を担保する重要な法務実務です。
入会時の厳格な審査、定款に沿った退社手続き、そして手続き不備が許されない除名処分など、一つひとつのプロセスを一般法人法に準拠して進める必要があります。万が一、手続きに瑕疵があれば、後から社員総会決議の取り消しを求められたり、損害賠償を請求されたりするリスクを抱えることになります。
自社の定款や会員規程が現在の運用と乖離していないかは、一度確認しておきたい点です。定款や会員規程の設計、除名手続きの進め方、社員名簿の閲覧請求への対応などでお困りのことがあれば、全国公益法人協会にご相談ください。