一般社団法人で役員が欠けたら?欠員時の対応と仮理事・職務代行者の違い

一般社団法人で役員が欠けたら?欠員時の対応と仮理事・職務代行者の違い

一般社団法人を運営するなかで、理事や監事、代表理事といった役員が突然欠けてしまう事態は起こり得ます。役員の欠員や事故は、法人の意思決定や業務執行を停止させ、組織の存続を脅かす重大なリスクとなります。

どの対応策をとるべきかは、役員が退任した理由と法人の状況によって変わります。欠員が生じたときの原則は、法人の機関で速やかに後任役員を選任することです。任期満了や辞任であれば、後任が就任するまで前任者が職務を続ける「権利義務役員」の仕組みも働きます。

裁判所が選任する「一時役員の職務を行うべき者(仮理事・仮監事)」は、役員が足りなくなるたびに必ず利用する制度ではありません。法令上は裁判所が「必要がある」と認めることが要件であり、法人内部の手続きによって速やかに後任を選任できない場合は、その必要性が問題となる典型例です。役員同士の対立が絡む局面では、さらに「職務代行者」という別の制度が登場します。これらを分ける基準と、それぞれの登記実務を、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法人法」)に即して確認します。


役員の欠員時にまず確認すべき「権利義務役員」の原則

一般社団法人において、法律や定款で定められた役員の員数が不足した場合、すぐに裁判所の手続きが必要になるわけではありません。まずは、退任した役員が引き続き役員としての権利義務を持つ「権利義務役員(権利義務理事・権利義務監事)」の仕組みが適用できるかを確認します。

権利義務役員が発生する退任事由と発生しない事由

役員が退任したからといって、どのような場合でも権利義務役員になるわけではありません。退任にいたった原因によって、次の2つに明確に切り分けられます。

  1. 権利義務役員が発生する事由(任期満了・辞任) 役員が欠けた場合、または法律・定款で定める役員の員数を欠く場合には、任期満了または辞任により退任した役員は、新たに選任された役員が就任するまで、なお役員としての権利義務を有します(一般法人法第75条第1項)。これは、法人の業務執行や監査体制に空白期間が生じるのを防ぐための措置です。
  2. 権利義務役員が発生しない事由(死亡・解任・資格喪失・破産による退任など) 役員が死亡した場合、社員総会決議によって解任された場合、または一般法人法第65条第1項の欠格事由に該当して資格を喪失した場合には、権利義務役員は発生しません。一般社団法人と役員との関係には委任の規定が適用されるため(一般法人法第64条)、役員本人が破産手続開始の決定を受けた場合も委任が終了して退任します(民法第653条第2号)。破産による退任は欠格事由による「資格喪失」ではなく、登記原因も「退任」となります。なお、役員の解任は一般法人法第70条第1項に基づきます。
権利義務役員の発生条件の切り分け

権利義務役員の権限の範囲と実務上の限界

権利義務役員となった前任者は、原則として通常の役員とまったく同等の権限と義務を持ちます。例えば、権利義務理事であれば理事会に出席して議決権を行使できますし、代表理事であれば法人の代表として契約を締結することも可能です。なお、代表理事が欠けたときの権利義務代表理事の扱いや後任選定の進め方は、一般社団法人の代表理事|選定方法・権限・変更登記の実務で詳しく整理しています。

ただし、代表理事である理事が任期満了または辞任により退任しても、理事の員数が法律・定款上の定数を欠かなければ、その者は理事としての権利義務を承継しません。この場合、理事の地位を前提とする代表理事の退任原因は「資格喪失」となるため、任期満了または辞任による代表理事の退任を対象とする一般法人法第79条第1項は適用されず、当然に権利義務代表理事となるわけではない点に注意が必要です。

また、権利義務役員はあくまで「後任が決まるまでの暫定的な措置」です。権利義務役員が存在するからといって、後任の選任を怠って放置することは許されません。法律・定款で定めた役員の員数を欠いているのに後任役員の選任手続きを怠ると、一般法人法第342条第13号による過料の対象となることがあります。

なお、権利義務役員の退任登記は、後任役員の就任登記と同時でなければ申請できず、登記期間も後任役員の就任日から起算されます。これに対し、死亡・解任など権利義務を承継しない事由による退任は、その事由が生じた日から2週間以内に変更登記が必要です(一般法人法第303条)。したがって、権利義務役員がいる場面でまず問題となるのは、単なる「登記懈怠」ではなく、後任役員を選任する手続きを怠っていることです。


自力で後任を選任できない場合の例外措置「一時役員」

一時役員は、欠員が生じた場合の通常の後任選任手続きに代わるものではありません。残存役員が社員総会を招集できる場合や、権利義務役員が職務を行いながら後任を選任できる場合には、まず法人内部の手続きによって欠員を解消します。法令上の要件は裁判所が「必要がある」と認めることであり、法人内部の方法では速やかに欠員を解消できないことは、その必要性を基礎づける重要な事情となります。

一般法人法第75条第2項は、役員が欠けた場合または法律・定款で定めた役員の員数を欠いた場合に、裁判所が必要と認めれば、利害関係人の申立てにより「一時役員の職務を行うべき者」を選任できると定めています。対象は一時理事・一時監事であり、一時代表理事については一般法人法第79条第2項が根拠となります。

選任要件は「欠員」と「裁判所が選任する必要性」

一時役員の選任が認められるためには、単に役員が不足しているという「欠員の事実」だけでなく、業務継続のために裁判所が一時的な職務担当者を選任する「必要性」が認められなければなりません。法人内部の通常の手続きで速やかに後任を選任できるかどうかは、その必要性を判断するうえで重要な事情となります。

例えば、理事会設置一般社団法人では理事を3人以上置く必要がありますが(一般法人法第65条第3項)、理事が死亡して3人から2人になった場合でも、直ちに一時役員の選任を申し立てるわけではありません。まず、残存理事による理事会決議が可能かを確認し、後任理事を選任する社員総会の招集を検討します(同法第38条第2項、第95条第1項)。また、一定割合以上の議決権を有する社員は社員総会の招集を請求でき、招集手続きが進まない場合は裁判所の許可を得て自ら招集できます(同法第37条)。これらの方法が利用できるなら、一時役員を選任する必要性は一般に乏しくなります。

一方、代表者も招集権限を行使できる役員も存在しない、深刻な対立により後任選任のための総会を開催できないなど、法人内部の手続きが現実に機能しない場合には、一時役員の選任を申し立てる余地があります。権利義務役員の存在は必要性の判断における重要な事情ですが、それだけで申立てが当然に否定されるわけではありません。行方不明や重い病気などにより職務遂行が事実上不可能で、ほかに後任を選任する方法もないときは、具体的な事情に応じて裁判所が判断します。単に一時的な病気であることや、役員間に意見の相違があることだけで当然に選任されるものではありません。

一時役員(仮理事)の選任要件

申立権者と管轄裁判所

一時役員の選任を申し立てることができるのは、法律上の「利害関係人」に限られます。一般社団法人における利害関係人には、主に以下の者が該当します。

  • 法人の社員
  • 残存している他の役員
  • 法人の債権者など、選任について具体的な法律上の利害を有する者

申立先は、法人の主たる事務所の所在地を管轄する地方裁判所です(一般法人法第287条第1項)。申立てにあたっては、申立書に加えて、法人の履歴事項全部証明書、定款、役員が欠けたことを証明する資料(死亡診断書や戸籍謄本、辞任届など)や、法人内部では後任を選任できない事情を示す資料を提出します。具体的な必要書類は事案や裁判所の運用によって異なります。

予納金制度と手続きの期間

一時役員の選任申立てでは、選任される一時役員への報酬や実費を担保するため、裁判所が申立人に予納金の納付を求める場合があります。裁判所は、選任した一時役員に法人が支払う報酬額を定めることができます(一般法人法第75条第3項。なお、一時代表理事は同法第79条第3項)。一時役員の候補者は裁判所が選定し、事案や裁判所の運用によっては、中立性を確保するため弁護士などの専門家が選ばれることがあります。

予納金の金額は、事案の複雑さや、後任役員が選任されて一時役員が退任するまでの見込み期間などによって個別に判断されます。後任選任の見通しが立っている場合と、一時役員の就任が長期化する見込みの場合とでは必要な金額が異なり、長期化が見込まれる事案では相当高額になる可能性があります。

申立てから実際に一時役員が選任されるまでには、候補者の選定、審問、予納金や登録免許税の納付などの手続きがあります。所要期間は事案と裁判所の審理状況によって異なるため、緊急性がある場合は申立先の裁判所や専門家に早めに確認する必要があります。


役員間紛争と「職務執行停止・職務代行者選任の仮処分」

法人の内部で役員同士が激しく対立し、特定の理事による不正な業務執行を緊急に止める必要がある場合には、一時役員の選任ではなく、民事保全法に基づく「職務執行停止及び職務代行者選任の仮処分」を検討します。単に役員間で意見が対立しているだけで利用できる制度ではなく、対象役員の選任決議の無効や解任事由などの被保全権利と、判決を待てない保全の必要性を明らかにして疎明する必要があります(民事保全法第13条、第23条第2項)。

仮理事と職務代行者の制度比較

仮処分の要件

この仮処分を申し立てるためには、主に以下の2つの要件を満たす必要があります。

  1. 被保全権利 対象となる役員の選任決議が無効であること、または解任事由が存在することなど、本案訴訟において勝訴する見込み(権利の存在)があること。
  2. 保全の必要性 判決を待っていては、法人に回復困難な著しい損害や急迫な危険が生じるおそれがあること。

裁判所によって仮処分が決定されると、対象となった理事は職務の執行を停止され、代わりに「職務代行者」が選任されて法人の業務を担うことになります。

職務代行者の権限と常務の範囲

裁判所から選任された職務代行者は、仮処分命令に別段の定めがある場合を除き、一般社団法人の「常務に属しない行為」をするには裁判所の許可を得なければなりません(一般法人法第80条第1項)。何が常務に当たるかは、行為の内容、法人の事業・規模、従来の運営状況、仮処分命令の内容などに応じて個別に判断されます。以下は一般的な目安であり、個別事案で一律に決まるものではありません。

常務に属する可能性が高い行為

法人の日常的な運営や、現状を維持するための行為です。仮処分命令に別段の定めがなければ、職務代行者が単独で行える場合があります。

  • 通常の取引先への支払い、職員への給与支給
  • 定時社員総会の招集
  • 日常的なサービスの提供や契約の更新

常務に属しない可能性が高い行為

法人の基本構造や財産状態に重大な影響を与える行為です。これらを行うには、事前に裁判所の許可を要する可能性が高いといえます。

  • 基本財産の処分や、多額の借入れ
  • 新規事業の開始や、重要な契約の締結
  • 定款の変更
  • 役員の解任を目的とする臨時社員総会の招集

もし職務代行者が裁判所の許可を得ずに常務に属しない行為を行った場合、その行為は原則として無効となります。ただし、一般社団法人は、その無効を善意の第三者に対抗できません(一般法人法第80条第2項)。常務に当たるか判断が難しい行為は、事前に裁判所への許可申立てを検討する必要があります。


欠員・事故に伴う登記実務

一時役員(仮理事等)が選任された場合や、職務執行停止・職務代行者の仮処分が決定された場合は、法人の登記事項に反映させる必要があります。任期満了や交代に伴う通常の役員変更登記(2週間以内の期限・必要書類・登録免許税)とは異なり、裁判所の嘱託による特殊な実務が存在するため、その流れを整理しておきましょう。

一時役員(仮理事等)の登記

裁判所によって一時役員(仮理事、仮監事、一時代表理事など)が選任された場合、その就任登記を行う必要があります。一時代表理事は、登記上「仮代表理事」と記録されます。

この登記は、法人の申請によって行うのではなく、選任した裁判所の書記官が職権で法務局に対して「嘱託(しょくたく)」することで実行されます(一般法人法第315条第1項第2号イ)。嘱託による登記であっても登録免許税は発生し、一時役員選任の登記は1件につき3万円です(登録免許税法別表第一第24号(一)タ)。

なお、選任された一時理事は、代表権の有無にかかわらず「仮理事」として登記の対象となります(一般法人法第301条第2項、第315条第1項第2号イ)。一時代表理事にあたる場合は、氏名に加えて住所も登記されます。

一時役員の職務は、後任役員が就任した時点で終了する場合のほか、事情の変更を受けて裁判所が選任の裁判を取り消した時点で終了する場合があります(非訟事件手続法第59条第1項)。選任取消しの裁判がされた場合も、裁判所書記官が職権で登記を嘱託します(一般法人法第315条第1項第2号ハ)。一時役員が選任された後も、法人は通常の手続きによる後任選任を進める必要があります。

職務執行停止・職務代行者の登記

裁判所から職務執行停止または職務代行者選任の仮処分命令が出た場合は、その登記が必要です(一般法人法第305条)。登記は、裁判所書記官が主たる事務所の所在地を管轄する登記所へ嘱託します(民事保全法第56条)。

登記簿上には、対象役員の「職務執行停止」の旨と、選任された「職務代行者の氏名・住所」が記録されます。登録免許税は、職務執行停止の登記と職務代行者選任の登記について各1件3万円です。両方を嘱託する場合は合計6万円となります(登録免許税法別表第一第24号(一)タ)。

異常時における登記手続きの流れ

意思決定を止めないための実務手順

役員が欠けるという異常事態において、法人の機能を麻痺させないために実務担当者が取るべき手順をまとめます。

  1. 退任事由の確認と権利義務役員の判定 まずは欠員となった役員の退任理由(死亡、辞任、任期満了など)を確認し、権利義務役員が発生しているかを判定します。
  2. 補欠役員の確認 定款に「補欠役員」に関する規定があるか、または事前に社員総会で補欠役員が選任されているか(一般法人法第63条第2項)を確認します。補欠役員がいれば、その就任によって欠員を解消できる場合があります。
  3. 法人内部での後任選任 残存役員や権利義務役員によって社員総会を招集できる場合は、速やかに後任役員を選任します。社員総会は原則として理事が招集し、理事会設置一般社団法人では招集事項を理事会で決定します(一般法人法第36条第3項、第38条第2項)。後任役員の選任は社員総会決議によります(同法第63条第1項)。一時役員の選任申立てよりも、法人内部の通常の選任手続きを先に検討します。
  4. 裁判所への申立て(例外的な最終手段) 法人内部の手続きでは後任を選任できず、業務継続のために具体的な必要性がある場合に限り、管轄の地方裁判所への一時役員選任申立てを検討します。不正行為を行う現任役員の職務を止める必要がある場合は、一時役員選任とは別に、職務執行停止・職務代行者選任の仮処分を検討します。
役員が欠けたときの対応順

一般社団法人で役員が欠けても、直ちに一時役員の選任申立てが必要になるわけではありません。まずは補欠役員、権利義務役員、社員総会による後任選任など、法人内部で欠員を解消する方法を確認することが重要です。それでも後任を選任できない場合の一時役員(仮理事)の選任申立てや、職務代行者をめぐる対応、登記手続きについてお困りのことがあれば、全国公益法人協会の支援サービス「シェアコモン200」でご相談いただけます。回数の制限はないため、法人内部での解消を試みる段階から申立ての準備まで、順を追って確認できます。

監修者Profile
監修者イラスト
桑波田直人(くわはた・なおと)
(一財)全国公益支援財団専務理事、(株)全国非営利法人協会(全国公益法人協会)専務取締役、(公社)非営利法人研究学会常任理事。 『公益・一般法人』編集長、非営利法人研究学会事務局長等を経て現職。AIチャット「全国公益AIナビ」開発者、全国公益法人協会AI駆動自動化委員会委員長。編著に『新訂版 公益法人・一般法人の機関と運営』、『非営利用語辞典』。

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