和田一夫(公認会計士)

 

Ⅰ 概要

 我が国の営利法人では、事業用の固定資産はその収益性が当初の予想よりも低下し投資額の回収が見込めなくなった場合、原則として資産の回収可能性を帳簿価額に反映させ早期に費用化させる「固定資産の減損に係る会計基準」が適用される。
 「固定資産の減損に係る会計基準」において、固定資産の減損とは、資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった状態であり、減損処理とは、そのような場合に、一定の条件の下で回収可能性を反映させるように帳簿価額を減額する会計処理である。このような固定資産の減損処理は事業用資産の過大な帳簿価額を減額し、将来に損失を繰り延べないために行われる会計処理と考えることが適当である1
 非営利法人は、組織の活動を通じて公益または共益に資することを目的とし、資源提供者に対して経済的利益を提供することを目的としない組織である。
 したがって、資源提供者から組織に提供された資源は、組織がその目的を達成するために実施する活動に利用される2
 非営利法人といえども収益を稼得し剰余金を蓄積する事業もあることから、営利法人と同様の固定資産の減損会計が適用される必要があると考えられるが、多くの非営利事業については利益の稼得を目的とせず、対価を得て投資の回収そのものを行わないことから、営利法人の固定資産の減損会計がそのまま適用されることについては否定的である。
 本稿では、「公益法人会計基準」、「独立法人会計紀基準」・「IPSAS(InternationalPublic Sector Accounting Standards)」「SFAS(Statement of Financial AccountingStandards)」における固定資産の減損を参考にしつつ、私見として非営利法人に適用されるべき減損会計について考察する。

1 公益法人会計基準における固定資産の減損

 「公益法人会計基準に関する実務指針」では、公益法人における固定資産の減損会計は企業会計と同一ではなく、その適用は以下のとおりである。
 平成20 年会計基準第2 3(6)では、「資産の時価が著しく下落したときは、回復の見込みがあると認められる場合を除き、時価をもって貸借対照表価額としなければならない。」とされており、原則として、強制評価減を行う必要がある。
 ただし、「有形固定資産及び無形固定資産について使用価値が時価を超える場合、取得価額から減価償却累計額を控除した価額を超えない限りにおいて、資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュ・フローの現在価値をもって算定する使用価値をもって貸借対照表価額とすることができる。」とされており、例外として、帳簿価額(取得価額から減価償却累計額を控除した価額)を超えない限り、使用価値で評価することもできる。
 なお、公益法人において固定資産を使用価値により評価するか否かは任意であるが、使用価値による評価は、対価を伴う事業に供している固定資産に限られる。

2 独立行政法人会計基準における固定資産の減損

 独立行政法人会計基準における固定資産の減損とは、固定資産に現在期待されるサービス提供能力が当該資産の取得時に想定されたサービス提供能力に比べ著しく減少し、将来にわたりその回復が見込めない状態又は固定資産の将来の経済的便益が著しく減少した状態において、貸借対照表に計上される固定資産の過大な帳簿価額を適正な金額まで減額すること及び独立行政法人の業務運営状況を明らかにすることを目的とする。
 また減損の兆候として (1)固定資産を使用する業務実績の著しい低下、(2)固定資産の使用範囲又は使用方法の著しい低下、(3)固定資産の業務運営環境の著しい悪化、(4)固定資産の市場価格の著しい下落、(5)固定資産の全部又は一部につき使用しないという決定を行ったこと、が定められている。減損の兆候⑴から⑶までに該当し当該資産がその使用目的に従った機能を現に有し将来の使用の見込みが客観的に存在しない場合、減損の兆候⑷に該当し当該資産の市場価格の回復の見込みがあると認められない場合、減損の兆候⑸に該当する場合、減損を認識し、減損が認識された当該固定資産について、帳簿価額が回収可能サービス価額3を上回るときは、帳簿価額を回収可能サービス価額まで減額しなければならない。
 なお、固定資産の減損が、独立行政法人が中期計画、中長期計画および事業計画または年度計画で想定した業務運営を行わなかったことにより生じたものであるときは、減損損失の科目により当期の臨時損失として計上し、その減損が、独立行政法人が中期計画等または年度計画で想定した業務運営を行ったにもかかわらず生じたものであるときは、当該減損額は損益計算書上の費用には計上せず、損益外減損損失累計額の科目により資本剰余金の控除項目として計上することになる。

3 IPSAS(International Public Sector Accounting Standards)第21 号

 資金生成資産(Cash-Generating Assets)とは商業上の利益を生成することを主な目的として保有する資産(Cash-Generating assets held with the primary objective ofgenerating a commercial return.)であり、非資金生成資産(Non-Cash-Generating Assets)とは、資金生成資産以外の資産をいう。
 非資金生成資産は、帳簿価額が回収可能サービス額を上回るときに減損するとされており、減損の兆候が表れたときは、主体は回収可能サービス額を正式に見積もり減損を認識・測定することが要求される。減損の兆候として(1)資産によってもたらされるサービスに対する需要の喪失または一時的中断、(2)事業の技術的・法的・政策的環境における悪影響、(3)資産の物的損害、(4)資産の遊休化、事業の廃止もしくはリストラクチャリングの計画、資産の処分計画、(5)資産の建設の中止決定、(6)資産のサービス提供の成果の著しい悪化が定められている。なお、回収可能サービス額は資産の売却費用控除後の公正価値(市場価格)と使用価値(減価償却後の資産の再調達原価)のいずれか高い金額と定義され、帳簿価額が回収可能サービス額を上回る額が減損損失として計上される。
 また、減損の兆候の回復等が認められるときは過年度の減損損失の戻入れについて定められていることが特徴的である。

4 SFAS(Statement of Financial Accounting Standards)第144 号

 減損とは、長期性資産(資産グループ)の簿価が公正価値(市場価格等)を上回る場合が存在している状況をいう。
 長期性資産(資産グループ)の簿価の回収可能性がないことを示す(1)市場価格の著しい下落、(2)利用範囲・方法の著しく不利な変化、(3)価値に影響を及ぼす法的要因又は景況における著しく不利な変化、(4)取得や建設のための当初の見積額から累積原価が著しく超過、(5)営業損失又はキャッシュフロー損失の継続及び継続予測、(6)予測した経過年数より著しく前に売却又は処分の予測といった減損の兆候が表れたときは、長期性資産の回収可能性がテストされる。そこで、長期性資産(資産グループ)の割引前キャッシュフローの合計を簿価が上回った場合、長期性資産(資産グループ)の簿価は回収可能性がないと考え、長期性資産(資産グループ)の簿価が公正価値を超える額の減損損失が認識・測定される。
 また、SFASでは、ある資産が組織全体レベル以外の区分認識できるキャッシュフローを持たない場合には、回収可能性テストは組織全体レベルでも行われなければならないと結論付け、非営利法人は、資産運用費用を賄う原資として、法人全体に対する指定のない寄付を含めなければならないとしている。

Ⅱ 提言・考察

1 提言

 (1)資金生成資産については営利法人と同様の減損会計の適用が望ましい。
 (2)非資金生成資産については非営利法人に則した減損会計の適用が望ましい。

2 考察

 非営利法人における事業活動にはいくつかの分類があり、稼得収益につき投資額の回収を予定する事業、投資額の回収を予定しない事業という分類の一方で、超過利益を稼得すること目的とする事業、超過利益を稼得すること目的としない事業という分類もある4。非営利法人は、資源提供者に経済的利益を提供することを目的としないが、組織が経済的利益を稼得することを否定するものではない。非営利法人においても、公益又は共益に関する組織目的を追求した活動の結果として、経済的利益が稼得され、剰余金が蓄積されることはある5
 非営利法人が超過利益を稼得することを目的とする事業活動において、当該事業の用に供されている固定資産が収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなる状態となった場合には、営利法人と同様の固定資産の減損処理が必要になると考えるべきである。つまり、超過利益を稼得することを目的として保有する固定資産を「資金生成資産」と定義 6すれば、その収益性が低下し投資額の回収が見込めなくなった場合、帳簿価額が価値を過大に表示したまま将来に損失を繰り延べることなく、資産の回収可能性を帳簿価額に反映させ早期に費用化する処理は営利法人と同様に有用である。 一方で、超過利益を稼得することを目的として保有する固定資産すなわち資金生成資産以外の資産を「非資金生成資産」と定義6すると、非資金生成資産は超過利益を稼得することを目的としないため投資額を当該資産に帰属する収益で回収するという概念は当てはまらない。しかしながら、固定資産に現在期待されるサービス提供能力が減少している状態の場合には減損として帳簿価額に反映させることを検討すべきである。
 前述の「独立法人会計基準」やIPSASにおいては、非資金生成資産の減損の兆候が示されている。「独立法人会計基準」やIPSASが公会計の枠組みの中で減損を規定しているが、非営利法人については事業計画等についての位置付けが公的組織とは異なると考えられるため、減損の兆候には (1)業務運営環境の著しい悪化(固定資産の技術的・法的・政策的環境における長期的な悪影響など)、(2)固定資産の使用方法または範囲について、当該資産の使用可能性の著しい低下(資産が遊休になること、資産の属する事業の廃止もしくはリストラクチャリングの計画など)、(3)固定資産に起きた著しい物的損害、(4)固定資産の時価(公正な評価額)の著しい下落7といった事象が掲げられる。
 減損の兆候が表れ、減損の測定・認識にあたっては、帳簿価額と比較する公正な評価額は、原則として再調達原価を基礎とし、償却資産の場合、減価償却後の再調達原価とする。
 IPSAS 21 号(58〜70 項)では、非資金生成資産の減損損失の戻入れを規定している。しかしながら、減損損失の戻入れは、金融商品に適用されている時価評価のように資産価値の変動によって利益を測定することに繋がるリスクがあるため、本稿では減損損失の戻入れは行わないものとする。なお、減損損失の戻入れは行わないが、減損の兆候となる時価(公正な評価額)の著しい下落については、時価が回復しないと合理的に判断される目安として時価(公正な評価額)が帳簿価額と比較し3 年程度継続して50%超下落していることが妥当と考える。

【注】
1 固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書(平成14 年8 月9 日企業会計審議会)三 基本的な考え方 1
2 非営利組織会計検討会による報告 非営利組織の財務報告の在り方に関する論点整理(平成27 年5 月26 日日本公認会計士協会)1.5
3 回収可能サービス価額とは、当該資産の正味売却価額(観察可能な市場価格-処分費用)と使用価値相当額(減価償却後再調達価額)のいずれか高い額をいう。
4 非営利組織会計検討会による報告 非営利組織の財務報告の在り方に関する論点整理(平成27 年5 月26 日日本公認会計士協会)6.10
5 同上 1.7
6 IPSAS(International Public Sector Accounting Standards)第21 号の定義とは一致しない。
7 IPSAS 21 号(非資金生成資産の減損)では、必ずしも市場価格の著しい下落を減損の兆候としていない。BC(Basis For Conclusion)21.では、これは非資金生成資産の市場価格の変動が資産の継続的利用のサービス量の変動を反映していないというのがその理由である。しかし、本稿では非営利法人の財政状態の適正表示の観点から市場価格の著しい下落を減損の兆候とした。

【参考文献】
「公益法人会計基準に関する実務指針」(平成28 年3 月29 日、日本公認会計士協会非営利法人委員会報告第38 号)
「独立行政法人会計基準」・「独立行政法人会計基準注解」(平成12 年2 月16 日(平成27年1 月27 日改訂)独立行政法人会計基準研究会
IPSAS(International Public Sector Accounting Standards)February 2008SFAS(Statement of Financial Accounting Standards)August 2001
「固定資産の減損に係る会計基準」・「固定資産の減損に係る会計基準注解」(平成14 年8月9 日企業会計審議会)
「非営利法人委員会研究報告第25 号 非営利組織の会計枠組み構築に向けて」(平成25 年7月2 日 日本公認会計士協会)「非営利組織会計検討会による報告 非営利組織の財務報告の在り方に関する論点整理」(平成27 年5 月26 日 日本公認会計士協会)