居関剛一(公認会計士)

 

Ⅰ 概要

 現行の各非営利法人の会計基準を比較すると「税効果会計を適用する旨の記載がある法人(公益法人、社会福祉法人他)」と「税効果会計を適用する旨の記載がない法人(学校法人、NPO 法人)」とが並存する。
 また、税効果会計適用に係る重要性の原則については、企業会計(税効果会計 [1998])が「重要性が乏しい一時差異等については、繰延税金資産及び繰延税金負債を計上しないことができる。」としているのに対し、非営利法人(公益法人会計 [2008]、社福会計取扱[2016] においては、「法人税法上の収益事業に係る課税所得の額に重要性が乏しい場合、税効果会計を適用しないで、繰延税金資産又は繰延税金負債を計上しないことができる。」と定められている。
 税効果会計適用時に使われる勘定科目である法人税等調整額、繰延税金資産(負債)等は、いったん別途作成する「法人税法上の収益事業の損益計算書」を利用して計算される。しかし、法人税法上の収益事業と財務諸表の区分(例えば正味財産増減計算書内訳表の区分)が一致していない場合、特に法人税法上の収益事業が複数の会計部門にまたがる場合など、これらの勘定科目を各会計部門へどのように計上するのかという問題が生じるが、各種非営利法人の会計基準はもちろん実務指針においても何ら記載されてはいない。
 税効果会計を適用した場合の注記については、企業会計が、税効果会計 [1998] において、「1. 繰延税金資産及び繰延税金負債の発生原因別の主な内訳」、「2. 税引前当期純利益又は税金等調整前当期純利益に対する法人税等(法人税等調整額を含む)の比率と法定実効税率との間に重要な差異があるときは、当該差異の原因となった主要な項目別の内訳」、「3. 税率の変更により繰延税金資産及び繰延税金負債の金額が修正されたときは、その旨及び修正額」、「4. 決算日後に税率の変更があった場合には、その内容及びその影響」を記載することを定めているのに対し、非営利法人においては、その特有の収益事業課税の問題によって、企業会計で定める注記事項がそのまま適用できず、例えば公益法人(JICPA第38 号のQ47)においては、「繰延税金資産及び繰延税金負債の発生の主な原因別の内訳」が注記例として記載されている。

Ⅱ 提言・考察 非営利法人に対して統一的に税効果会計を適用するにあたっての課題とその解決策について考察し、提言していく。

 まず、非営利法人への税効果会計の適用については以下のように考える。非営利法人のうち、「法人税法に定める収益事業に該当する事業を行っている法人」には法人税の課税所得(負の課税所得を含む)が発生するため、税効果会計を適用することができる。なお全ての所得に対して課税される「非営利型でない一般社団・財団法人」について税効果会計を適用することができるのは当然である。したがって、法人税法に定める収益事業に該当する事業を行っている非営利法人(全ての所得に対して課税される「非営利型でない一般社団・財団法人」を含む)においては、税効果会計を適用し、一時差異等に係る税金の額に重要性が乏しい場合は適用しないことができる、として統一化を図ることを提言する。
 次に、税効果会計適用に係る重要性の原則については、以下のように考える。企業会計の場合は、課税所得の額に重要性が乏しいことを理由として税効果会計を適用しないことはできない。
 しかし、公益法人と社会福祉法人(両法人ともに法人税法上の収益事業課税が適用される)には、一時差異等に係る税額に重要性が乏しい場合は当然として、「Ⅰ 概要」に記載したように収益事業に係る課税所得が少ないことが税効果会計を適用しない理由となる。この結果、法人税法上の収益事業課税が適用されるがその収益事業の規模が極めて小さい非営利法人が、一時差異の金額を算出しなくて済むという、事務の簡素化というメリットを現実に享受できている。
 非営利法人の会計基準の統一化の観点からは、この「法人税法上の収益事業に係る課税所得の額の重要性が乏しい場合」というルールが必要であるのか改めて検討していくことを提言する。
 税効果会計適用時に使われる勘定科目である法人税等調整額、繰延税金資産(負債)等の各部門への按分計算の方法については、「各会計部門へは合理的な方法で按分することを原則とし、重要性が乏しい場合は主な収益の発生部門に一括計上できる」等で統一して規定することを提言する。
 税効果会計を適用した場合の注記については、公益法人において、「Ⅰ 概要」に記載の通り「繰延税金資産及び繰延税金負債の発生の主な原因別の内訳」のみが注記例として記載されているのに対し、社会福祉法人(JICPA 第5 号)においては、これに加え、「法人税法上の非収益事業と収益事業の区分」及び「法人税法上の収益事業に係る法定実効税率と税効果会計適用後の法人税等の負担率との差異の原因となった主な項目別の内訳」を注記するとされている。このような注記は、社会福祉法人に限らず非営利法人が税効果会計を適用した場合に記載するべき有用な情報であるので、この方法(後者の方法)を原則とすることを提言する。

【参考文献】
税効果会計 [1998]「税効果会計に係る会計基準注解」(平成10 年10 月10 日 企業会計審議会)
公益法人会計 [2008]「公益法人会計基準について」(平成20 年4 月11 日 改正平成21 年10 月16 日 内閣府公益認定等委員会)・「公益法人会計基準注解」
社福会計取扱 [2016]「社会福祉法人会計基準の制定に伴う会計処理等に関する運用上の取扱いについて」(平成28 年3 月31 日付け 雇児発0331 第15 号・社援発0331 第39 号・老発0331 第45 号 厚生労働省雇用均等・児童家庭局長、社会・援護局長、老健局長連名通知)
非営利法人委員会研究資料第5号(JICPA 第5号)「社会福祉法人会計基準に関する実務上のQ&A」(平成24 年7 月18 日 日本公認会計士協会)
非営利法人委員会実務指針第38 号(JICPA 第38 号)「公益法人会計基準に関する実務指針」(平成28 年3 月22 日 日本公認会計士協会)