ローカルコンパクト

 イギリスで1998年に策定されたコンパクトは、法的拘束力のあるものではないが、政府とNPOとの協定であり、対等性、透明性、効率性、効果性など、その関係性を示すものであった。内容的には、共有ビジョンと8つの供給原則をもち、①黒人とエスニックグループ、②コミュニティグループ、③協議と政策評価、④補助と委託、⑤ボランティアの5つの行動規範(code of practice)から成り立っていた。また、2001年には、コンパクトの地方版であるローカルコンパクトのガイドラインが示され、その後、ほぼすべての自治体でローカルコンパクトが締結された。それは、地域のボランタリー・セクターと自治体および警察、消防などの公的組織(NDPB:Non Departmental Public Bodies)との間で締結される協定である。また、2002年には、財務省から省庁横断的レビューが出され、財政当局からの後押しがなされることによる弾みがついた。さらに、国家監査局(NationalAudit Office)がフルコストリカバリー(費用の完全弁償)に関する報告書を出すなど、契約レベルにおいてもその理念を実現することが求められた。コンパクトは強制力がなく、予算を伴ったものでないため、ボランタリー・セクター側も冷ややかな反応を示す傾向もみられる。また、自治体の財政難から、フルコストリカバリーが実現されている割合も高いとはいえない。労働党のブレア政権を引き継いだブラウン政権では、2009年に改訂版のリフレッシュコンパクトを策定した。これは、コンパクトの規定の分量が多く、複雑であったものを簡素化したものであり、行動規範は1つの文章に吸収された。また、社会的企業も対象とした。その後、保守党主体の連立政権に移行した2010年には、刷新コンパクト(renewed compact)が策定された。これは、共有ビジョン、共有原則をともに削除し、よりアウトカムベースに焦点を当てた改正であった。すなわち、政府と市民社会組織との間にパートナーシップにより達成すべきつぎの5つの成果を列挙し、それぞれにおいて、政府と市民社会組織が実行できる事項を明記した。それは、①強力で多様な自立した市民社会、②政策、プログラム、公共サービスの効果的で透明なデザインと開発、③責任のある高品位のプログラムとサービス、④プログラムやサービスの変更にかかわる明確な取り組み、⑤平等かつ公正な社会、である。
 以上、3つのコンパクトが存在するが、相手方の名称は、ボランタリー&コミュニティ組織→サード・セクター→市民社会組織(CSO:Civil Society Organisation)と変化し、CSOには、協同組合、共済組合などの組合組織が加えられた。日本では、平成10(1998)年にNPO法人制度が制定され、行政とNPOとの間の関係性が模索されたが、イギリスのローカルコンパクトは、自治体の協働指針や協働条例の策定に大きな影響を与えたといえる。
(金川幸司)