臨床指標

 医療の質を客観的に評価する際に用いられる定量的な指標である。Donabedian, A.(ドナべディアン)が示した医療の質の評価の枠組みである、ストラクチャー(病院施設、医療機器、資金、人的資源など)、プロセス(診療行為や看護ケアなど)、アウトカム(治療成績や患者の満足度など)のうち、おもにプロセスとアウトカムを定量的に評価するものが臨床指標である。アメリカやヨーロッパでは医療の質指標(quality indicator)とも呼ばれており、多施設にわたる医療施設から臨床指標に基づいて評価されたデータを収集し、分析・評価する仕組みもつくられている。業績に基づく支払い(P4P:Pay for Performance)においても医療の質を評価する際に臨床指標が用いられている。日本でも平成15(2003)年より導入された診断群分類別包括評価制度(DPC)の評価の際に臨床指標が用いられている。
 臨床指標の要件は、①臨床の質指標としての代表性が高いこと、②標準的な成績が目安として併せて提示できること、③施設間比較ができること、④データ収集が比較的容易であること、⑤改善への努力が反映されやすいこと、⑥卓越した事例(ベストプラクティス)を示せることとされる。臨床指標活用の例として、トヨタ記念病院では、平成17(2005)年より臨床指標への取り組みを開始し、現在では以下のような臨床指標(合計126指標)を用いて医療の質を評価している。①病院全体に関する指標:平均在院日数、病床稼働率、2週間以内の入院サマリー(入院中の経過や治療内容を簡潔にまとめたもの)完成率、クリニカルパス(標準的な医療のスケジュールを書式化したもの)など。②疾患に関する指標:急性心筋梗塞の平均在院日数、糖尿病のHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)改善率、患者の紹介および逆紹介件数、肺炎の平均在院日数と初期治療成功率など。③がん診療に関する指標:がん5年生存率、消化器がんの術後在院日数、乳がんの乳房温存手術の割合など。④産科医療に関する指標:妊婦搬送の受け入れ件数と拒否件数など。⑤医療スタッフの指標:入院2日以内のリハビリ依頼率、転院・転所患者への医療ソーシャルワーカーの介入率など。⑥患者満足度に関する指標:知人にすすめたい割合、外来患者待ち時間1時間以上の割合など。
(井上祐介)