利他主義

 利己主義の反対語で「他者のためになるか」を基準に行動原理を決めることである。利他主義には以下のような考え方が存在する。 ①自己犠牲的利他主義:利己と利他がゼロサム的関係にあることを前提に、必然的に利他主義には自己犠牲を伴うものという考え方である。ボランティアのなかで日本国内ではこうした考え方が主流であり、ボランティアに利己性を内包していた場合に、激しい非難がなされることがあった。たとえば、学生のボランティア活動自体に単位を出す大学など本当のボランティアなのかという議論が湧き起こることになった。また、評判が高まることを含め、利他主義が結果的に利己に跳ね返ることもありえるので、純粋な自己犠牲的利他主義をきわめようと思えば、陰徳に徹することになる。企業のフィランソロピー活動においても、人知れずに寄付をすることを推奨し、「見返りのない寄付」こそが重要であるといった主張がバブル期に提唱されたことがあった。企業が名前を出せば、「宣伝だ」という誹謗中傷が飛ぶことすらあった。しかし、企業活動において自己犠牲を伴うものとしての利他主義的寄付活動を主張することは事実上背任行為を宣言するに等しい。また、情報公開の潮流のなかで、寄付したことを隠匿するようなことは21世紀の価値観ではかえって評価されないものと思われる。企業は、利潤を追求する企業内部に対しては「利己性」が正当化の要因となる一方、社会に対しては「利他性」を強調しなければならないところから、「企業フィラソロピーのジレンマ」が生じることになる。
 ②中立的利他主義:利己と利他とがプラスサム的関係もありうることを前提に、利他主義であるか否かということと、自己犠牲とは中立的であるとする考え方である。純粋な利他主義であっても利己的な結果を生じることがありうるという立場である。この立場に立って、企業フィランソロピーに対しては「見識ある自己利益論」が主張された。企業の利己性と利他性のジレンマを止揚する考え方である。社会の利益は安定した社会をもたらし、社会の構成員たる企業にもその恩恵が均霑されるために社会的責任として企業のフィランソロピーが正当化されるという考え方である。この考え方は自国民の税金を使用した海外援助をするときの理由づけにも使われている。今では企業と社会の関係は「WIN-WINの関係」が強調されるようになった。「WINWINの関係」は、特に企業フィランソロピーにおいては広く受け入れられている。
(出口正之)