ライフサイクル

 活動循環のことであり、組織も生命体とみなし、その誕生から成長、成熟、衰退、あるいは消滅までの活動の変遷過程を指す。非営利組織は幾つかの多様な発展段階を経てビジョン、ミッション、戦略を変えて変遷する。組織は再生能力があるので、成長の初期の段階に戻るとする楽観論もあるが、非営利組織はつぎのような発展段階でそれぞれ違った課題があり、それは機会であったり脅威であったりしながら変質するとする厳しいライフサイクルを描く。
 ①創成期:人々がビジョンとミッションで集まり協同する情熱と創造性が特徴で、自給自足である。従って、創成期は資金や人材が極度に不足しており、あるビジョンをミッションと戦略に落とし込むことがそれ自体困難である。ミッションの諸目的を達成するのが著しく限定される。②成長期:これまでの業績もあり広く可視化されるようになれば、資金・人材を誘引することが容易となり、公式の組織がつくられる。スタッフが専門化され、たんなる存続から需要によく反応するようになる。しかし、急激な成長のために複雑になった組織を経営する困難な問題に遭遇する。③成熟期:コスト志向の経営専門家の意思決定への参加から組織の事業企画は効率志向を重視し、組織は成熟し安定して組織はほとんど自動操作で動く。しかし、そこには成熟それ自体のリスク―自己満足、官僚制化、停滞、消滅のリスク―が潜む。この成熟の過程で経営専門家の権力が増大する。初期の活動は理事会が支配しているが、成熟するにつれて、最初は専門スタッフが、その後は経営管理スタッフが意思決定過程を支配するに至る。その結果、組織のミッションとその達成方法が確実に変化する。ただし、組織が第5段階の検討と刷新の段階を踏んで、そのミッションと事業企画を再検討して、微小な修正で第4段階に戻るとか、大きな変革で第2段階に戻ることもある。④衰退期:すべての非営利組織がこのように再検討して再生することはない。それぞれの段階にはそれなりの困難な問題が出来し、場合によっては第5段階に至るまでに活動を停止したり、組織が消滅したりすることがある。
 営利組織における利潤目的にたいする手段としての「製品のライフサイクル」に対応するのが、非営利組織における目的としての「ミッションのライフサイクル」である。手段ではなくて目的の変遷である。非営利組織のビジョン、ミッション、戦略は非営利組織の発展段階によって劇的に形成される。ミッション変更によるライフサイクルの延長が戦略となる。この場合、ミッションにもっとも大きな影響を与えるのは「市場」よりも「政府」の公共政策の変化であり、政府と非営利組織との関係である。また、ミッションの漂流や変更や逸脱が生じるので、組織のライフサイクルと理事会との関係の変質が重要な問題となる。理事会の役割の変化―決定から承認へ、実践から監視へ、最後には形式的承認で役割放棄する形骸化へという変質である。
(堀田和宏)