目標

 組織の目標は、使命(ミッション)から導き出されたものでなければならない。さもなければ、使命は決して実現されることのない洞察、意図、モットーに終わってしまうからである。なお、使命とは、組織が提供するサービスは何か、およびその受益者は誰かを一般的に定義したものであり、組織の中核価値を明示的もしくは暗示的に含んでいる。
 Drucker, P. F. (ドラッカー)は、組織の目標の設定と実行計画に関して、きわめて包括的かつ詳細な議論を展開している。その主要な内容は以下のとおりである。
 組織の目標は、つぎの5つの条件を備えていなければならない。第1に、上述のように、目標は使命から導出されるものであり、抽象的なものであってはならない。使命を実現するためのコミットメントであり、成果を評価するための基準である。第2に、目標は行動のためのものである。そのまま具体的な仕事と成果に繋がるものである。目標は仕事と成果にとって基準となり、組織成員を動機づけるものでなければならない。第3に、目標は資源と行動の集中を可能にするものでなければならない。目標は、事業活動のなかから重要なものを区別し、人、金、ものという主たる資源の集中を可能にするものである。従って、それは網羅的なものではなく、優先順位を伴うものである。第4に、目標は1つではなく複数でなければならない。最近の目標管理(MBO:Management by Objectives)の議論は、正しい目標を1つ求めている。これは誤解である。マネジメントとは多様なニーズをバランスさせることである。そのためには、複数の目標が必要である。第5に、目標は事業の成否にかかわるすべての領域について不可欠である。目標の内容は事業によって異なるが、事業の成否を決める要素はいかなる組織においても同じである。目標が必要な領域はつぎの8つである。なお各領域の具体的な目標は、括弧のなかに示されるとおりである。①マーケティング(集中の目標、最適な市場地位の目標)、②イノベーション(事業のイノベーション目標)、③生産性(物的資源生産性目標、労働生産性目標、資本生産性目標)、④物的資源(物的資源の獲得・利用目標)、⑤人的資源(人的資源の獲得・利用目標)、⑥資金(資金の獲得・利用目標)、⑦社会的責任(社会的責任の達成目標)、⑧条件としての利益(組織存続の条件としての利益目標)の8つである。これら目標の設定に際しては、ドラッカーによれば、つぎの3種類のバランスが必要である。1. 7つの領域における各目標を利益とバランスさせる。2. 現在と将来の目標とをバランスさせる。3. 各目標をバランスさせる。すなわち、目標間のトレードオフが必要である。
 最後に、ドラッカーによれば、目標は行動に移され達成されなければならない。目標を設定するのは、組織のエネルギーと資源を正しい領域に集中するためである。従って、目標の検討の結果、具体的な目標、期限、担当を含む実行計画が設定され実行される必要がある。目標は実行されなければ意味がないのである。
(小島廣光)