こうしたことから、メセナという語は、企業宣伝のための芸術支援ではなく、純粋な芸術・文化支援という側面、すなわち「見返りのない寄付」という象徴的意味が強調された独特の規範的含意を有することになった。21世紀初頭には、カタカナ語に対する社会の批判から、国立国語研究所の「外来語」委員会による、『「外来語」言い換え提案』にメセナの用語も俎上にあがったが、上記のような規範的含意があるため、企業メセナ協議会等から強い反対にあい、用語はいい換えられることなく、メセナ、フィランソロピーとして社会貢献の重要用語として使用されている。なお、「見返りのない寄付」については、協賛費(宣伝広告費)と寄付の相違の税務的な相違を説明するなかで、見返りがなければ寄付、あれば宣伝広告費(経費)というフランス側の説明が上記の時代背景のなかで規範的に強調されていったものである。宣伝広告費で拠出すれば「メセナではない」、寄付金ならば「メセナである」というような単純な区分は今では国内でも姿を消している。
(出口正之)