みなし譲渡所得課税

 個人は、1暦年(1月1日から12月31日)にえた所得について、所得税が課される。所得の計算は、利子所得や事業所得、給与所得等、10種類に区分して計算されるが、その1つに譲渡所得がある。譲渡所得は、土地や建物、株式等を譲渡したことにより生じた所得であり、以下の算式により計算される(所得税法33)。
 所得金額=収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額(50万円)
 取得費は譲渡した資産の取得に要した費用であり、譲渡費用はこの資産の譲渡に要する費用をいう。ここで重要なのが収入金額であり、これは収入した金額ではなく、収入すべき金額とされ、すでに収入した金額はもちろん、これから収入するはずの金額も含まれる。この収入するはずの金額は、契約により今後収入する金額のみならず、本来であれば収入するはずの金額も含まれる(所得税法36)。個人が法人に土地等を贈与や遺贈により寄付する場合、実際に収入する金額はないにもかかわらず、本来であれば収入するはずの金額、すなわち販売時価相当額が収入金額となり(所得税法59Ⅰ)、この金額から取得費と譲渡費用を控除するため、寄付を行ったとしても譲渡所得が生じることになり、これをみなし譲渡所得という。なお、時価に比して著しく低い価額を対価とする譲渡もみなし譲渡所得の対象となる(所得税法59Ⅱ)。課税上このような取り扱いがなされるのは、含み益のある資産をいったん市場で売却して現金化し、その現金を寄付した場合と同様に考えることにより、資産の値上がり益という所得の帰属を明確にするため、寄付を含む資産の譲渡を契機としてそこで課税清算を行うのである。従って、含み益のある資産を寄付する場合には、納税資金の確保を考慮しておく必要がある。ただし、国または地方公共団体に対して寄付を行った場合には、前述のみなし譲渡の規定の適用の対象外となる特例措置が設けられている(租特法40Ⅰ)。さらに、公益法人等に対する資産の寄付で、その資産が教育または科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与すること、資産が2年以内に公益目的事業に供されあるいは供される見込みである等の要件を満たすものとして国税庁長官の承認を受けた場合も同様の特例が適用される(租特法40Ⅱ)。
(藤井 誠)