ミッション

 ①自分の恣意を超えた次元の内容を帯びた任務(使命)を、②外部へ出ていって達成する、という2つの意味を含んでいる。それは人間の自由と社会の調和という根元法則にかかわるものであり、高次の理念である。非営利組織はそれを社会的責任の自覚において受け止め、果たすべき使命として組織行動において達成しようとする。近代理論の祖といわれるBarnard, C. I.( バーナード)によれば、公式組織とは「2人以上の人々の意識的に調整された活動や諸力の体系」であるから、「意識的に調整された」目的が必要であり、それが非営利組織におけるミッションである。バーナードのいう目的は、組織の中核となる価値観を視野に入れたものであり、そこに含まれる道徳性の高さが組織の質を決定していく。非営利組織にあっては社会を変え人間を変えていこうとする価値観をミッションの中核に位置づける。まさに、非営利組織存在の生命であり、ミッション・エージェンシーとしての原点である。個別組織にとっては、自らの独自のミッションを広くミッション・ステートメントとして表明していく。もともとミッションとは、キリスト教の概念から出発しており、キリストによって発せられた大宣教命令を指している(ミッショナリー、ミッション・スクールという用語が定着している。)。それを色濃く反映している大阪淀川キリスト教病院の事例でみるならば、そのミッション・ステートメントは「全人医療」で表現され、「からだとこころとたましいが一体である人間(全人)に、キリストの愛をもって仕える医療」と定義されている。データをみて患者を診ない、技術優先の延命治療など、からだの治療に集中してきた医療機関の実態があるが、それを超え、こころやたましいに対しても配慮をしていくのがこの病院のミッションである。独自の価値観を定め、それを実現することで、医療世界、ひいては社会や人間のあり方について貢献しようとしている。非営利組織の成果がミッションの実現であるとするならば、ミッションはその経営上の効果についても大きな影響力を有している。淀川キリスト教病院の事例でいうならば、ミッション・ステートメントに掲げられた「全人医療」は、たとえばホスピス事業によって代表され、その卓越した実績は病院全体の市民からの評価にも繋がっている。また、そのミッションに憧れをもち、その価値観のもとでチーム医療活動を続けていく医療者の貢献意欲を高揚し、活性化に繋がっている。ミッションが現実的経営効果を高め成果をあげていくことに結びついている。その意味で、非営利組織におけるミッションは、その信念をもって社会を変え人間を変えていく目標であると同時に、現実の経営活動の重要な推進力になっていることが分かる。非営利組織の経営を、ミッション・ベイスト・マネジメントと称するゆえんである。
(島田 恒)