マルチステークホルダー

 組織が経済活動を行うとき、組織内外の個人や団体が、組織に影響を及ぼす可能性や組織から影響を受ける可能性がある。このような個人や団体をステークホルダー(stakeholder)と称し、日本では利害関係者と表記されることが多い。利害関係者は、経営資源を提供する株主・投資家のほか、経済活動の受益者である消費者、顧客、住民など多岐にわたる。組織が自己の経済活動について、利害関係者に与えうる利害を適切に説明する義務を有することは、経営倫理の領域において会計学や経営学の領域を中心にアカウンタビリティ(accountability)として研究されてきた。本来、アカウンタビリティとは、資産の受託者が資産の委託者に対して会計上の説明義務を負うことを意味するが、近年では、経済活動のグローバル化や複雑化によって、より広義の説明責任を示す用語として用いられている。経営倫理やアカウンタビリティは、組織が利害関係者に対して倫理に基づき道義的説明責任を負うことを前提とする概念であり、営利組織、非営利組織のいずれにも適用される。特に、非営利で高い公益性を有する事業に取り組む非営利組織の場合、活動目的が社会的道義や公共倫理に及ぶ場合、組織が説明責任を果たすべき利害関係者には、寄付者、政府、会員などの資金提供者に加え、受益者、理事、スタッフ、地域住民のほか、社会全般にまで及ぶことがある。そのため、他の組織と比較して、より広義の説明責任を果たすことが求められる。これらの広域な範囲に及ぶ利害関係者をマルチステークホルダーと総称し、マルチステークホルダーを説明責任の対象とする考え方をマルチステークホルダー理論と呼ぶ。
(中嶋貴子)