マネジドケア

 医療管理を強化し、医療費の効率化を図る保険の仕組みである。保険会社が患者の医療サービスへのアクセスや医師・病院が施す医療サービスの内容を管理・制限する一方、医師・病院に財政的リスクを転嫁することで医療費の抑制を図る医療保険の仕組みである。アメリカでは全国民を対象にした国民皆保険制度はなく、営利民間保険会社による医療保険が主流である。アメリカでは急増する医療費を抑制するために、1990年代にマネジドケアが導入された。マネジドケアによる医療費抑制方法は、①契約医師グループや病院を一定のネットワーク内に制限すること(アクセス制限)、②緊急でない手術を受ける場合や入院する場合には、あらかじめ保険者の承認を要求すること(事前承認)、③クリティカルパス、診療ガイドライン、疾病管理や使用薬剤リスト一覧表の使用など、多様な管理手法を活用することによって、診療内容の管理ないしは医療サービスの利用を適正化すること(利用管理)、④人頭払いやボーナス制度の導入など、保険者だけではなく医師および医療機関に財政リスクを負担させること(インセンティブの転嫁)、などである。マネジドケアの加入者は、原則、保険者が指定した医療機関を受診せねばならず、指定外の医療機関を受診した場合には保険給付を受けられないか、多額の自己負担が求められる。さらには医療機関の医師が患者に対する検査や治療が必要と判断した場合でも、保険者の許可を受けることが必要とされた。アメリカでは、このようなアクセス制限や厳しい利用管理などに対して、全国的に批判が生じ、州によっては患者保護法が制定されるなど、マネジドケアの機能に制限がかけられるようになった。2000年以降に入り、マネジドケアの導入による医療費抑制の効果も想定されたほど大きくないことが明らかにされた。
(井上祐介)