ボランタリーの失敗

 アメリカの現代版福祉国家において、なぜ非営利セクターが「サードパーティ・ガバメント」を形成しているのかを説明するのに、「ボランタリーの失敗」を根拠として、非営利研究者のSalamon, L. M. (サラモン)が展開した理論である。それによれば、その失敗とはつぎの4点である。
 ①機能不全:集合財の生産に固有な「フリーライダー」問題を解決できないから、社会の諸問題に対処できる適切でかつ信頼できる規模で諸資源を集める能力に欠ける。そこで、ボランタリーな寄付に頼るかぎり、利用される諸資源は社会が最適と考えるよりも少なくなる。政府が資金を提供する場合にはじめて必要資金は十分となり安定的となる。また、大不況のときなどもっとも必要なときに、寄付をする人たちも少数で少しの貢献しかできない事態となるから、非営利組織は経済状況によっては機能不全に陥る。②排他的な個別主義:特定集団に対象を絞る個別主義は社会全体のニーズを組織化する基礎としては欠陥がある。必要な諸資源を提供しそれを支配する人たちがすべての集団を平等に扱わないので、別の集団は排除されてボランタリー組織の事業経営のなかに適切に代表されない。個別主義とそれに必然的に随伴する情実主義から包括的な対応を阻む。さらに、多くの人がそれぞれ自分の好む組織をつくるので、重複した無駄なサービスを供給することになる。その結果は、規模の経済性を超えて組織が増加することになり、包括的な効率性を低くしコストを高める。非営利組織は社会の重要なニーズに顧慮しないで、なおかつ利用資源を浪費する可能性がある。③パターナリズム(温情主義):もっとも重要な資源の支配者がほとんど社会のニーズを決めるような影響力を掌握することから、民間支出の配分に影響を与え、コミュニティ問題への対応に偏りが生じる。困窮者のために使われる資源についてかれらに発言権を認めないで、チャリティとして慈悲を与えるという慣性を捨てることができず、困窮者が支援を求める権利を確立することができない。さらに、民間の寄付行為が免税である点から、公的な決定過程を経ずして公的収入を配分するという彼らの便益が生じる。④アマチュアリズム:今日の社会問題には困窮者を支援する知識や技能が求められるのに、アマチュアリズムで対応する。非営利組織はボランティア活動を強調する組織であって寄付行為に依存するために、たとえば適切な報酬を出せないので専門スタッフを誘引することが困難である。要するに、上記の4つの失敗があるゆえに、非営利組織は適切にある種のサービスを供給することができないし、ある社会問題にたいしてそれを軽減させるだけの規模で対処することができないので、政府がボランタリー・セクターの支援に介入することになる。そこで、このようなボランタリー非営利組織に固有な限界があるとする視点からは、サードパーティ政府という政府と非営利部門の間の協同関係が深まることは、政府の不当な逸脱ではなくて論理的な根拠をもつ妥協の所産として理解される。
(堀田和宏)