ポスト産業社会

 農耕社会から産業革命を契機として産業社会が生まれてきた。人間や動物の筋力によるエネルギーを機械によるエネルギーに転換し、工業生産において物的生産物の拡大、経済の飛躍的発展を可能にして産業社会の実態をつくりあげた。その効果により実現した経済大国では、さらなる価値創造として情報技術が発展し、コンピュータが工業生産をより効率化して物的豊かさを拡大するとともに、情報によるコミュニケーションや知識、サービスなどの価値を創造した。さらに人工知能の可能性に何回かのブームと挫折を経て期待が寄せられてきている。社会がその構造様式によって規定されるとすれば、ポスト産業社会は情報社会として認知されてきている。産業社会は安くてよいモノの豊富な拡大に成功してきたが、ポスト産業社会は、それを超えて情報を活用して差別化された新しい価値を求める社会へと向かうものであるということができる。経営学者Drucker, P. F. (ドラッカー)は、ドイツで経験したヒットラーの独裁主義の終焉に代わる社会として、ナチスに追われるようにして移住したアメリカ産業社会に未来を見出した。彼の終生変わらざる価値観であった「自由と機能」を実現する社会として、アメリカ産業社会に期待し『産業人の未来』(1942年)を著した。世界で注目を浴びた独特の主張と、産業社会を充実するマネジメント論を展開しその育成を支えようとした。しかるに、アメリカ産業社会はドラッカーの期待に反して、企業が公器としての存在を軽視しもっぱら利潤拡大に関心を集中させるところとなった。彼の期待した「自由と機能」を実現できない現実を目の当たりにし、それを実現するポスト産業社会として「多元的組織社会」を構想し、何よりも非営利部門に期待を傾けることになっていった。ポスト産業社会を望ましい社会として根づかせ発展を期すために、企業・行政の変革、なかんずく非営利組織の働きが要となってきている。
(島田 恒)