ポスト官僚制組織

 Weber, M. (ウェーバー)は、大規模組織が不可避的に発展させる合理的な構造特性をビューロクラシー(官僚制)と名付けた。ウェーバーによれば、正当な支配の類型として合法的支配、伝統的支配、カリスマ的支配の3類型があり、このうちの合法的支配を基礎とした近代ビューロクラシーはつぎのような特性をもった組織構造である。①職務は専門分化され、専門家によって遂行される。②権限と責任は職位自体に与えられ、それが階層的体系をなしている。③職務の遂行はさまざまな規則に基づいて行われる。④職務の執行は文書を通じて行われる。これらの諸特性をもつ官僚制は、近代社会のあらゆる組織にとって技術的にもっとも優れた、すなわち「効率性がもっとも高い組織活動」を可能にする管理構造である。しかし同時に、このビューロクラシーは、①訓練された無能、②目標置換、③個人的成長の阻害、④顧客の不満足、⑤革新の阻害などの「予期せざる結果としての逆機能」をもたらしてきたのである。このビューロクラシーを批判する議論は、従来から社会科学や経営実践のさまざまな論者によってなされてきた。こうしたなかの1つにポスト・モダン理論がある。田尾雅夫によれば、「大規模化を必然とするビューロクラシーの、いわばスケール・メリットを優先させる仕組みよりも、小粒でもピリリと辛い山椒のような組織を構想できないか、という議論に沿う考え方を総称してポスト・モダンの組織論という。幾つかの論点は柔構造化と重なり合うこともある。組織論では、ビューロクラシー批判が同じような役割を果たしている。」。従って、ポスト・モダンの組織、すなわちポスト官僚制組織は、つぎのような組織形態といえる。①タテの上意下達でなくヨコの協力関係を重視し、決定権限の一層の委譲や意思決定の迅速化を可能にする組織形態である。②コミュニケーションの円滑化を図るマトリックス組織、ハイブリッド・アレンジメント、ネットワーク組織などに代表される組織形態である。③市民運動や市民参加の非営利組織にも適合した組織形態である。
 しかしポスト官僚制組織は、上述の官僚制のメリットである「効率性がもっとも高い組織活動」を否定しており、経営管理にさまざまな混乱や困難を惹起する可能性が高い組織形態であり、実際の適用例は決して多くはない。
(小島廣光)