保険医療機関及び保険医療療養担当規則(療養担当規則)

 昭和32(1957)年に制定された、保険診療を行うにあたって、保険医療機関と保険医が遵守すべき基本的事項を定めた厚生労働省令で、昭和18(1943)年告示の健康保険保険医療養担当規定が前身である(昭和32年厚生省令第15号)。内容としては、第1章「保険医療機関の療養担当」、第2章「保険医の診療方針等」から構成されている。 第1章では、保険医療機関の療養担当療養の給付の担当範囲、担当方針等を示した保険医療機関の療養担当に係る内容、第2章では、診療の一般的・具体的方針、診療録の記載等を示した保険医の診療方針等に係る内容について規定されている。「療養の給付」とは、①診療、②薬剤または治療材料の支給、③処置、手術その他の治療、④居宅における療養上の管理およびその療養に伴う世話その他の看護、⑤病院または診療所への入院およびその療養に伴う世話その他の看護の5項目で構成されている。
 以下は療養担当規則の特徴を記載する。①療養の給付の担当の範囲(同規則1):上述の5項目。②療養の給付の担当方針(同規則2):保険医療機関は、懇切丁寧に療養の給付を担当し、保険医療機関が担当する療養の給付は、患者の療養上妥当適切なものであること。③適正な手続きの確保(同規則2の3):保険医療機関は、その担当する療養の給付に関し、所管に対する申請、届出等に係る手続きおよび療養の給付に関する費用の請求に係る手続を適正に行うこと。④経済上の利益の提供による誘引の禁止(同規則2の4の2):保険医療機関は、患者に対して、一部負担金の額に応じて収益業務に係る物品の対価の額の値引きをする等、健康保険事業の健全な運営を損なうおそれのある経済上の利益の提供により、自己の保険医療機関において診療を受けるように誘引してはならないこと。⑤特定の保険薬局への患者誘導の禁止(同規則2の5、19の3)、処方箋の交付(同規則23):患者に対して、「特定の保険薬局において調剤を受けるべき旨の指示等」を行ったり、「指示等を行うことの対償として、保険薬局から金品その他の財産上の利益」を受けたりすることについて禁止していること。また、保険医は、その交付した処方箋に関し、保険薬局の保険薬剤師から疑義の照会があった場合には、適切に対応する必要があること。ただし、地域包括診療料、地域包括診療加算を算定する保険医療機関については、一部の行為において説明や情報提供することは禁止に該当しない。⑥診療録の記載および整備、帳簿類の保存(同規則8、9、22):保険医は、患者の診療を行った場合には、遅滞なく、必要な事項を診療録に記載すること。また、保険医療機関は、これらの診療録について、整備、一定期間保存すること。⑦施術の同意(同規則17):あん摩・マッサージ、はりおよびきゅうの施術を受ける際に無診察同意を行ってはならないこと。⑧特殊療法・研究的診療等の禁止(同規則18、19、20):先進医療、患者申出療養等の例外を除き、医学的評価が十分に確立されていない「特殊な療法又は新しい療法等」の実施、「厚生労働大臣の定める医薬品以外の薬物」の使用、「研究の目的」による検査の実施などは、保険診療上認められないこと。⑨健康診断の禁止(同規則20):健康診断は、療養の給付の対象ではないこと。⑩濃厚(過剰)診療の禁止(同規則20):検査、投薬、注射、手術・処置等は、診療上の必要性を十分考慮したうえで行う必要があること。⑪適正な費用の請求の確保(同規則23の2):保険医は、その行った診療に関する情報の提供等について、保険医療機関が行う療養の給付に関する費用の請求が適切なものとなるよう努めなければならないこと。
(上村知宏)