福祉ミックス論

 政府による公的サービスの提供にのみ依存するのではなく、市場やインフォーマルな部門も取り入れた福祉サービスの提供を主張する考えである。Rose, R.(ローズ)は、福祉ミックスの定義式として、TWS(社会の福祉全体量)=H(家族によって供給される福祉)+M(市場によって供給される福祉)+S(政府によって供給される福祉)を提示しており、いずれかの1つにのみ依存するのではなく、それぞれが苦手とする事柄を補完し合うことの重要性を唱えている。その場合、家族・市場・政府による、それぞれの最適な供給割合は、政治や経済、文化などが異なる国によって差異があると考えられる。このような、福祉ミックス論の類似概念として、福祉多元主義(welfare pluralism)や福祉の混合経済(mixedeconomy of welfare)があり、福祉ミックス論と同様に、公的部門以外の多様な供給主体を取り入れた社会を目指すことを目的としている。福祉ミックス論や福祉多元主義、福祉の混合経済が提唱されるようになった背景として、1970年代のオイルショックが引き金となった福祉国家の危機がある。オイルショックにより税収が落ち込み、各国の財政難が鮮明化されることで、今まで拡大してきた社会保障費の見直しが求められるようになった。アメリカやイギリスなどは、今までの福祉国家の方向性を否定し、政府は社会保障費の削減と最低限度の保障だけを行い、市場や個人などを中心とした公的部門以による社会サービスの供給を志向した。一方、スウェーデンなどの北欧諸国は、社会保障制度を通して富裕層から貧困層への再配分を行うとともに、今までの福祉国家を越えた新たな福祉国家の創造を目指して、公的部門以外のボランタリーや非営利組織などとの協調を図った。福祉多元主義や福祉の混合経済について提唱したJohnson, N.W.(ジョンソン)は、社会サービスの供給部門として、「国家」、「営利」、「ボランタリーおよびコミュニティ」、「インフォーマル」部門をあげており、福祉ミックス論や福祉多元主義、福祉の混合経済を示す際には、この4部門があげられることも多い。
(酒井美和)