福祉オンブズマン

 オンブズマン(ombudsman)とは、本来「代理人」を意味する言葉で、オンブズマン制度は、1809年にスウェーデンにおいて議会の代理人として行政を監視する制度として始まった。オンブズマンは、行政の監視、苦情処理、市民の権利擁護等の機能を有するが、行政活動全般を対象とするのが「一般オンブズマン」、ある特定分野のみを対象とするのが「特殊オンブズマン」と呼ばれており、福祉オンブズマンは、福祉分野のみを対象とする「特殊オンブズマン」といえる。日本においては、平成2(1990)年に神奈川県川崎市が「一般オンブズマン」、東京都中野区が「福祉オンブズマン」をはじめて導入した。以降、福祉サービス利用者の権利侵害の実態が明らかになったことも相まって福祉オンブズマンへの関心が高まり、平成12(2000)年の社福法改正(昭和26[1951]年制定の社会福祉事業法が社会福祉基礎構造改革を反映して改称ならびに改正)により、社会福祉事業経営者に苦情解決システム導入が努力義務として課され、都道府県社会福祉協議会には運営適正化委員会が設置されることになったことで(社福法82〜87)、苦情調整委員会等の名称で福祉サービスの苦情対応・審査等を行う「福祉オンブズマン」を導入する自治体が増加した。上述の行政設置型の公的な福祉オンブズマン以外にも、市民による福祉オンブズマンの類型等もある。自治体の監査権限がサービス内容の評価には及ばないことから、サービスの質を客観的に評価する福祉サービス評価(第三者評価)も「えひめ福祉オンブズネット」が平成9(1997)年に情報公開制度を活用して特別養護老人ホームの内部資料を入手し、その実態を分析・公開したのを皮切りに市民福祉オンブズマン団体が同様の活動を先駆的に行った。平成16(2004)年5月、厚生労働省は「福祉サービス第三者評価事業に関する指針」を発出(平成26[2014]年4月、同指針の全部改正、平成30[2018]年3月、一部改正)し、評価事業の導入と評価の質の向上を図っている。
(李 庸吉)