フィランソロピー

 英語のphilanthropyをもとにした外来語である。philo(愛する)、anthropos(人類) のギリシア語を語源とする。寄付活動についてはチャリティと呼ばれることが多かったが、Rockefeller, J. D. (ロックフェラー1世)が自らの活動をチャリティと呼ばずに、フィランソロピーと呼んだことから、かつては英語圏のなかでも特にアメリカにおいて好んで使用されていた用語である。ロックフェラーは、病人に薬を与える活動や必要とする人に食料を与える活動を「小売のチャリティ」と呼び、それに対して、薬を開発することを支援して病人をなくしたり、農業生産を増やす支援をして餓死者を救ったりする活動を「卸売りのフィランソロピー」と呼んで、財団の活動とは「フィランソロピー」を行うことだと主張した。とりわけ「科学的フィランソロピー」という用語を多用し、研究者支援をたくさん行った。従って、狭義には財団による専門的な支援活動をフィランソロピーということがあるが、広義には公益のための寄付・ボランティア活動すべてを含む。また、寄付者のことをフィランソロピストと呼ぶ。
 現在では世界で幅広く使用されていて、たとえば「戦略的フィランソロピー」(目標達成に対して手段としての戦略性を明確にしたフィランソロピー)、「クリエイティブ・フィランソロピー」(ロックフェラー財団などのような大型財団以外の財団での創意工夫を凝らしたフィランソロピー)などの用語が次々と誕生した。特に、今世紀に入ると、GatesⅢ,W. H. (ゲイツ)やBuffett, W. E. (バフェット)らが、20世紀初頭のCarnegie, A. (カーネギー)やロックフェラーを超えるフィランソロピー活動を行い、「フィランソロピーの黄金時代の再来」と呼ばれるようになった。グローバル化した世界にあって、短期間で巨富を築く若年層を中心に、「ベンチャー・フィランソロピー」(ベンチャー的な手法で成果主義を求める、新しいタイプのフィランソロピストによるフィランソロピー)なども提唱され、幅広い展開がみられるようになった。 別の切り口では、企業が社会に貢献することが「企業フィランソロピー」と呼ばれる。さらに海外で成功した人が出身国へ寄付することを「ディアスポラ・フィランソロピー」という。きわめて特殊な例として、イタリアなどでは、民営化に伴い政府の組織を財団形態にしたことからフィランソロピー活動が生まれているが、このことは「民営化によるフィランソロピー化」(Salamon, L. M. [サラモン])と呼ばれている。日本国内では、平成2(1990)年に企業メセナ協議会、経団連ワンパーセントクラブの発足、大阪コミュニティ財団の発足などが相次いだほか、日本フィランソロピー協会のフィランソロピー推進活動などが開始され、同年の経済白書に「フィランソロピー」が掲載され市民権をえたことから、平成2年はフィランソロピー元年と呼ばれる。近年では、新しいフィランソロピーの動きを受けて、大阪府および大阪市が「民都・大阪」フィランソロピー会議を設立し、「フィランソロピーにおける国際的な拠点都市」の実現を目指すことを旨とした「フィランソロピー都市宣言」を平成30(2018)年6月1日に世界ではじめて行った。
(出口正之)