ファンドレイジング・コスト

 非営利組織の活動目的(ミッション)を達成するためには、多くの場合、社会からそのミッションに対する理解と支援をえることが重要となる。社会からの支援の象徴の1つが、会員数や寄付金などの増加である。ファンドレイジングとは、非営利組織の活動目的を社会に理解してもらい、支援を広げていく活動でもある。会員数を増加させることや、寄付金などの資金を獲得するためにはコストが必要となる。たとえば、活動目的や具体的な活動内容を伝えるためのパンフレット・リーフレット・フライヤーなど紙媒体の作成・印刷、それら紙媒体のダイレクトメールによる発送、画像・動画などを作成し、ホームページやツイッターなど各種SNSでの発信、個人や企業への個別訪問による説明、広報のためのイベント開催、支援者のデータベース作成・維持、オンライン決済手数料、そして、これらの活動を担うスタッフ(ファンドレイザー)の人件費などである。このような費用はいずれもファンドレイジング・コストであり、決して小さくはない。ファンドレイジング・コストは、日本の非営利法人の会計報告では、「印刷製本費」、「旅費交通費」、「通信運搬費」、「人件費」などの科目に含まれて会計処理されている。このような現状に対して、「いくらの資金を集めるために、どのくらいのコストがかかったか」というファンドレイジング・コストという視点をしっかりもって、結果を金額的に明らかにすることが必要ではないかという考え方も存在する。事実、アメリカやイギリスの非営利組織の会計報告(活動計算書)においては、「資金調達費(fundraising,raising funds)」という独立した科目で表示されている。日本においても、NPO法人会計基準の改定の際に「ファンドレイジング費用」を独立して表記することについて議論が行われたが、平成29年(2017)年の改定では見送られることとなった。改定の議論の際にNPO法人、助成団体、会計専門家などに行ったアンケートによれば、「まだまだファンドレイジングという言葉自体は、現場ではなじみが少ない。」、「ファンドレイジング費用の定義があいまいである。」、「ファンドレイジング費用を公開していくことの意味がまだよく理解できない。」などの回答が多く見受けられた。「ファンドレイジング」、「ファンドレイザー」、「ファンドレイジング・コスト」などの言葉と概念が、非営利組織の関係者だけでなく、社会全体においてどのように理解されていくのか注目される。
(五百竹宏明)