一人医師医療法人

 医師または歯科医師が1人または2人常時勤務する診療所を開設する小規模医療法人をいう。昭和60(1985)年12月に公布された第1次医療法改正において、全国的な医療施設の量的整備が全国的にほぼ達成されたことに伴い、医療資源の地域偏在の是正、医療施設の連携の推進、診療所経営の近代化などを目的として、一人医師医療法人の開設が認められた。それまでは、診療所を開設する医療法人は医師または歯科医師が常時3人以上勤務することを要件としていた。厚生労働省の調べによると、平成30(2018)年3月末時点において医療法人総数53,944のうち、一人医師医療法人数は44,847となっており全体の約83.1%を占めている。この制度では、医療経営と家計、医業所得(事業所得)と給与所得を分離することにより、診療所経営の合理化や組織の適正化を図ることを目的としている。医療法人を設立するためには知事の認可が必要であり(医療法44)、新たに診療所を開設するために一人医師医療法人を設立する場合や経営実績が2年未満で一人医師医療法人を設立する場合には2か月以上の運転資金を有することを求められている。医療法人の会計年度は4月1日に始まり、翌年の3月31日に終わるものを原則としており(医療法53)、毎会計年度の終了後2月以内に①事業報告書、②財務目録、③貸借対照表、④損益計算書、⑤関係事業者との取引の状況に関する報告書を作成する必要がある。法人税法上、一人医師医療法人は、各事業年度のすべての所得に対して課税がなされる普通法人に該当する。すなわち、個人開業医であれば、院長に対して診療報酬等の収入金額から必要経費を控除した所得金額に所得税、住民税および事業税が課税される。他方、一人医師医療法人では、院長に対して役員報酬に所得税および住民税が課税され、法人に対して診療報酬等の収入金額から役員報酬を含めた経費を控除した所得金額に法人税、住民税および事業税が課税される。
(梅田勝利)