非営利セクター

 「非営利組織の集合」を意味する場合と、社会経済組織のなかで国家(公共)セクターでも営利企業セクターでもない第三のセクター、「サードセクター」を意味する場合とがある。前者の非営利組織は英語でnonprofitorganization、いわゆるNPOであるが、ここでいう非営利は利益を出すこと自体を否定するものではない。否定されるのは組織の構成員に利益を分配することであり、これを非分配制約と表現する。非営利組織の具体的な姿は文化や歴史、税制等によって各国さまざまであり、何を非営利組織とするかは国によって異なる。共通する標準的な定義としてもっともよく用いられるものは、「公的に(社会的に)組織化されている、民間であって政府組織の一部ではないこと、自律的な統治をしていること、利益を分配しないこと、意味のある程度にボランタリーに支えられていること」である。ここで「公的(社会的)組織」という場合、必ずしも法人組織を必須とするものではないが、自然発生的な同族組織や地縁組織ではなく、ある目的のために人々が意識的に構成する組織、結社、アソシエーションであるということである。非分配制約が重視されているのは、多くの場合、これが税制上の優遇措置、法人税の非課税にとどまらず、寄付金の寄付者への所得控除や税額控除と結びついているからである。特に、多くの非営利組織が寄付金によって支えられているアメリカでは重要な意味をもっている。
 非分配制約の場合、「非営利」は「営利を追求しない(not-for-profit)」ことを意味する。ここには、前者の非営利組織に加えて、協同組合、共済組織、互助組織、社会的企業、コミュニティビジネスなどさまざまな組織が入る。いずれも社会的課題の解決を目指すものであり、ボランタリーに加えて自助や共助が重視されることから、ヨーロッパではその特徴を捉えて、「社会的経済」、「連帯経済」と呼ばれることがある。非営利セクターが大きな位置を占める分野は、医療、福祉、教育、科学研究、文化・芸術・スポーツといった公共サービス分野、さらに、環境、国際開発支援・交流、貧困対策、障碍者や長期失業者への雇用確保、災害復興支援、地域おこし、政策提言・人権擁護(アドボカシー)といった社会活動分野がある。これらの分野で大きな位置を占めるのは、こうした分野が、市場での利潤追求活動では達成しえないこと(市場の失敗)に加えて、政府もまた財政危機や信頼の喪失によって課題に応えきれていない(政府の失敗)という現実があるからである。非営利セクター諸組織は、民間である特徴を生かし、創意的で柔軟、先進的な活動で、ニーズに即した公共サービス提供、課題解決への取り組みを展開している。財源には、寄付、政府の助成金、サービス提供による事業収入等があり、それぞれの収入源による場合、これらの混合による場合がある。もっぱら政府補助金に頼る場合には、民間としての自立性に問題が生じる。逆にもっぱらサービス販売収入による場合には企業との競合など社会的課題解決の課題が薄らぐ可能性もある。全体として、病院や一部の学校法人を除き、規模は小さく、安定的な成長が最大の課題である。地球温暖化など環境危機が深まり、貧困など社会的断絶が深刻化している現代にあって、非営利セクターの役割はますます重要になっている。
(川口清史)