バランスド・スコアカード

 1992年にハーバードビジネススクールのKaplan, R. S. (キャプラン)とコンサルタントのNorton, D. P. (ノートン)によって提唱された経営ツールである。導入企業は全世界的な規模であり、企業では定着した経営ツールである。行政組織や非営利組織では、キャプランとノートンの著書で多くの事例が紹介されており、シャーロット市(アメリカ、ノースカロライナ州)は典型的な導入事例である。日本では、経営品質向上による安定的経営を企図して医療施設経営に導入されているほか、大学や行政組織および関連する事業、社会福祉法人への適用が試みられている。バランスド・スコアカード(BSC)は、ミッションやビジョンを達成するための戦略を、財務、顧客、業務プロセス、学習と成長の4つの視点に分けて検討し、かつ、個別の戦略ごとに重要成功要因および重要評価指標を設定し、戦略を現場の言葉に変換するところに特徴がある。この特徴は2つある。第1に、時間的な多面性と数値的な多面性が含まれる。前者には、財務(短期)と顧客(長期)の2つの視点間でのバランスに配慮することのみならず、各視点に、あるべき成果(遅行指標)と推進要因となるドライバー(先行指標)を含めることを指している。一方、後者は、財務指標のみならず、非財務指標を含めることができる点である。背景として、市場における競争優位性確保の源泉として、有形資産のみならず、無形資産や組織的な能力に注目が集まり、過去の業績の財務的な測定のみならず、将来の業績をもたらす活動の測定を含む総合的な検討に注目することが重要である。第2に、視点間の関係性および主体間の関係性が含まれる。前者は、戦略を仮説と捉え、一連の因果関係として4つの視点で表現することを意味する。戦略実行の場面では、組織構成員が仮説を理解し、4つの視点に設定した先行指標と遅行指標をもとに、業務を実施し、継続的に仮説を検証し、リアルタイムに修正することが想定される。この視点間の関係性を構造的に表現したものが戦略マップである。一方、後者は、BSCをデザインする主体が、経営者のみならず、部門単位や個人単位も想定していることを意味する。組織内において、各主体がBSCを作成し、戦略のコミュニケーションツールとして機能させることができれば、組織のゴールと個人のゴールとが結びつき、組織全体の理解とコミットメントを醸成することができる。「新しい公共経営」(NPM)との関連では、さまざまな非営利組織でBSCを適用することが考えられる。キャプランとノートンの著書では、基本的な4つの視点に社会的影響の視点として5つめの視点を加えた社会的企業の事例がある。また、財務の視点を予算の視点に変え、かつ、並べ方も組織固有の仮説に基づき変更している事例なども存在する。
(八島雄士)