パブリック・サービス

 政府から市民に対して公的セクターか民間セクターを通して提供されるサービスを指分に機能しない場面、いわゆる「市場の失敗」の場面では、政府の介入で解決するということが当然となっていき、行政の守備範囲は広がっていった。このような時代においては、パブリック・サービスは政府が提供するということが基本であった。しかしながら、「市場の失敗」を是正するはずの政府活動が「政府の失敗」を引き起こすこととなる。行政は肥大化し、「大きな政府」は非効率を生み出し、そこに非難の矛先が向けられるようになった。そして「小さな政府」に光が当てられ、政府の活動を抑制する方向へと変わっていく。1980年代以降、欧米諸国において、「大きな政府」によるさまざまな行政問題を克服するために民間の経営理念・手法を行政機関に取り入れるニュー・パブリック・マネジメント(NPM)がすすめられ、「官から民へ」という流れがすすんだ。日本でも1990年代以降、「官から民へ」の流れがすすむこととなる。平成11年(1999)年に「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(PFI法、平成11年法律第117号)が成立し、公共施設等の建設・維持管理・運営等に民間の資金・能力を活用するPFI(PrivateFinance Initiative)が日本においてもすすめられた。平成15(2003)年には地方自治法の改正により指定管理者制度が導入され、従来、自治体出資法人等に限定されてきた公の施設の管理について、株式会社やNPO法人等の民間事業者にも開放されることとなった。平成18(2006)年には「競争の導入による公共サービスの改革に関する法律」(公共サービス改革法、平成18年法律第51号)が成立し、市場化テストが導入された。市場化テストは、パブリック・サービスにおいて「官」と「民」が対等な立場で競争入札に参加し、質・価格の観点から総合的にもっとも優れた者が、そのサービスの提供を担う仕組みである。このように、パブリック・サービスの提供における「官から民へ」というさまざまな改革がすすめられてきた。また、「大きな政府」、「政府の失敗」を背景に「ガバメントからガバナンスへ」というガバナンス論も登場する。すなわち、公共的問題の解決にあたっては、政府だけではなく、さまざまなアクターが互いに協力して公共的問題の解決に携わるというものである。平成21(2009)年9月に発足した民主党政権においては「新しい公共」が政策理念として掲げられた。「新しい公共」とは、行政機関、公務員だけがパブリック・サービスを提供するのではなく、パブリック・サービスを市民、企業、NPO等も協働して提供していくというものである。このように、近年は、パブリック・サービスは政府が独占するものではなく、パブリック・サービスを政府以外のアクターも担っていくという潮流がある。
(小野英一)