発生主義

 会計上、財・サービスの消費に基づいて、収益と費用を認識しようとする考え方を指す。原材料や労働サービスを消費して、製品を製造していく過程を想定するならば、財・サービスの消費により、消費された経済的価値は消滅するとともに、仕掛品や製品といった新たな経済的価値が創造されていると考えられる。会計上は、消費された経済的価値を費用として捉え、創造される経済的価値を収益として捉える。そこで、同一の原因(財・サービスの消費)に基づき発生した収益と費用が同一の会計期間に認識されることにより、適正な期間損益計算が達成されると考える。すなわち、努力(犠牲)たる費用と成果たる収益を同一期間に帰属させることを要請する会計思考である。従って、発生主義に基づく計算体系(発生主義会計)においては、「収益と費用の対応」が基本的かつ重要な要請となる。こうした収益と費用の対応関係は、収益が増額すればそれに応じて費用も増額するといった直接的な対応関係が認められることもあれば、間接的に対応関係があるものとみなすこともある。しかし非営利活動の領域では、収益と費用の対応関係が直接的にも間接的にも認められない状況が想定される。たとえば、寄付等による無償による金銭等の受入れや対価を求めないサービスの提供等が、通常の事象として生じうる。これらの事象の場合、同一の原因により収益と費用が生じるとは考えられず、それぞれの収益や費用に対応する費用や収益は存在しないと考えられる。そのため非営利活動にかかわる発生主義は、特定の収益と費用が同一の原因に基づいて生じている場合であれば営利活動の領域と同様に同一の会計期間に認識することを求めるものの、対応関係にある収益あるいは費用が存在しない場合には、現金収支にかかわらず、経済価値の消滅あるいは経済価値の創造に基づいて、費用と収益がそれぞれ独立的に認識されることを求めることになる。非営利活動の領域において、発生主義の会計思考を導入することにより、収益と費用の対応関係にかかわらず、導入される代表的な会計処理としては、固定資産の減価償却や引当金の計上をあげることができる。減価償却は、使用している固定資産について直接的に財・サービスの消費を把握できない場合、あるいは直接に把握することに合理性がない場合に、その使用期間にわたって時の経過等に基づいてその取得に要した支出額を各期間に費用として配分していく手続きである。また引当金の計上は、財・サービスの消費の事実があり、それに応じて将来に支出が生じる場合に、その財・サービスの消費の期間に将来支出額に基づいて費用が認識されることに伴って行われる手続きである。このように、非営利活動に係る会計における発生主義には、対応概念が不可欠ではない点において、企業会計とは異なることに留意しなければならない。
(齋藤真哉)