ネットワーキング

 文字どおりにはネットワーク化することであるが、1970年代から1980年代にかけておもにアメリカで数多く発生したさまざまな自発的活動グループや団体を指してネットワーキングという言葉が使われた。それらの団体では従来のような組織ではなく、同じ意志や指向をもつ人々のゆるやかな結びつきが目指されていた。民間の自発的活動を指す言葉としては、他に「グラスルーツ」もあった。急速な経済成長によって物質的な豊かさがもたらされた反面、精神的な豊かさや生活のなかのゆとり、あるいは自然との繋がりが感じられなくなり、そうした経済や効率性を優先させる社会の流れに対抗しようという運動が起こった。社会を変える方法として、自分たち自身の生活や価値観から変えていくという考え方のもと、自然な食品や水、自然な環境のなかでの生活、そして精神世界に注目し、それらに価値を置く生活の実践を目指す団体が続々と生まれた。そのような多様な自発的活動のグループを、既存の伝統的非営利組織と区別してネットワーキングと呼んだ。アメリカの1960〜70年代にかけてのカウンター・カルチャーやフラワーチルドレン、ヒッピームーブメント、あるいはニューエイジ思想などを背景に、さまざまなグループや団体が生まれた。それらの動向は日本にも流入し、芸術や音楽などへの影響の他に生き方の実践にも取り込まれ、日本の各地でコミューンも生まれた。また、オルタナティブの思想も広く普及し、リサイクル運動、エコロジー運動、健康食品運動などを行うさまざまな団体が各地で生まれた。ネットワーキングという言葉が日本で広まったきっかけとなったのが、昭和59(1984)年に翻訳出版されたLipnack, J.and Stamps, J.( リップナックとスタンプス)による『ネットワーキング』である。そこでは治療、共有、資源利用、価値、学習、成長、進化という7つのカテゴリーに分けて当時のアメリカにおけるネットワーキングの現状が解説され、そしてそれぞれの分野の代表的団体の名簿や連絡先が示されていた。この本に触発され、日本における多様な市民活動団体の名鑑づくりが試みられたり、研究会が立ち上げられたりした。とりわけ日本ネットワーカーズ会議は、リップナックとスタンプスはじめ諸外国の市民活動団体の関係者を日本に招聘し、諸外国のネットワーキングやNPOの様子を日本に紹介し、その後の日本NPOセンターの設立や特定非営利活動促進法の成立のきっかけの1つとなった。今日ではかつての意味でのネットワーキングはNPOという言葉に置き換わり、ネットワーキングといえば各種のイベントなどで新しく知り合いをつくったり、知り合いを紹介したりという個人間や団体間での繋りづくりの活動を指すことが多い。
(吉田忠彦)