二元リーダーシップ

 リーダーシップとは、ある人(ときには集団)が権限関係、契約上やその他の義務から求められるもの以上に人々の決定と行動に影響を与えることができる能力のことである。組織では公式の権限のうえに非公式の権威をもって他人の仕事を指示し調整し実行させる能力である。二元リーダーシップとは、このリーダーシップが同じ組織において並列して2重になっている状態を指す。むろん公式組織では、意思通達―意思決定の一元性と統一性を確保するためにリーダーシップは一元性が望ましく、それを原則として組織は編成されるのが望ましい。現に、営利企業では、法規上または形式上は取締役会を主宰し最高責任を負う取締役会長と、取締役会の政策決定に従って組織を運営する最高経営者とは、それぞれの職権と地位とが明確に分離され区別されているものの、組織の集中管理・統一管理を第一義として「ワンマンコントロール」が基本であり、従って、一般にCEOの取締役会長兼任制が認められる。このワンマンコントロールをモニタリングしチェックするのが所有権者の代理機関としての取締役会の役割である。非営利組織においては政策策定と政策実践の厳格な分権管理を旨とする「マルチコントロール」がその特質である。営利組織と非営利組織の決定的な違いは、組織リーダーシップの一元性(CEOの会長兼任による支配)と二元性(理事長とCEOの並行支配)にある。現に、非営利組織では理事長兼任制は不文律か規定上か原則ではないし一般的ではない。その結果、非営利組織では理事会が最高の政策策定機関のままであることである。確かに、リーダーシップの二元性は非営利組織の有効性と正当性を担保しているが、そこから、非営利組織の特有な問題を抱えることになる。政策策定機関としての理事会(あるいは理事長)の行動を監視するエージェンシー・コスト、理事会や理事長とCEOの間の相互の情報伝達・交換コスト、両者の軋轢・対立・敵対の調整コストを要する。二元リーダーシップは組織の有効な指導力を希釈し、組織における意思決定において重大な不一致が生じる可能性を高くして、そのための調整コストが大きくなる。特に、ルースカプリングが特徴の教育、保健、文化・芸術の非営利組織では、専門職の職能が組織の目的であるので、専門職の経営者や管理者が最終の目的職能を担い、理事会がそれを支える二次目的の組織維持職能を担うというパラドックスにあり、手段としての経営の責任(最高議決機関としての理事会が担当)と、目的達成の責任(学長・病院長等の専門職)の逆立ちの二元リーダーシップに分断されている。少なくともこの間の調整コストはきわめて大きい。しかし、だからといって非営利組織ではミッションが漂流し変質するおそれがあるから、少なくとも経営専門家の理事長の一元リーダーシップにしてはならない。二元リーダーシップを前提に「権限分割と調整・調和・妥協」のシステムと行動が求められる。シェアード・ガバナンス(共有・協同ガバナンス)を支える二元リーダーシップが必要である。
(堀田和宏)