デマンドサイド理論

 非営利組織がなぜ存在するのかという問いに対して、経済学では「公共財」や「市場の失敗」などの既存の理論を応用する形で答えを模索してきた。Weisbrod, B. A. (ワイズブロッド)は、政府による公共財の提供においては、その財の提供のための財源にかぎりがあること、そしてその財の需要は正規分布することを前提として「公共財理論」を提示した。つまり政府はかぎられた予算のなかで公共財を提供する際に、需要のメジアン(中央値)の需要、あるいは中位投票者の満足を中心にした供給しかできないために、財源の範囲を超過した需要に応えることができない。このような状況は「政府の失敗」と呼ばれる。そうした需要をカバーするため、つまり「政府の失敗」を補完するために民間の非営利組織が発生するとした。しかし、この理論によって教育やヘルスケア部門など政府によるサービス提供が行われているにもかかわらず、民間の事業者も存在することについては説明できるが、その政府による公共財提供の補完がなぜ非営利組織であって営利企業ではないのかは説明できない。また、公共財とはいえない財の提供を行う非営利組織の存在が説明できない。一方、Hansmann, H. (ハンズマン)は、財の提供者と利用者との間に情報の非対称性がある市場においては、営利企業では機会主義的行動のインセンティブをもつために契約を交わそうとする利用者がなく、その結果としてその財の提供自体がされなくなってしまうという「市場の失敗」のケースから、そのような状況においても機会主義的行動のインセンティブをもたない非営利組織であれば契約が成立するという「契約の失敗理論」を提示した。これらの理論はいずれも、財の需要側(demand-side)の状況によって非営利組織の発生や存在が説明されているため、デマンドサイド理論と呼ばれる。
(吉田忠彦)