注意義務

 一般社団・財団法人などの非営利法人とその評議員、理事、監事(役員)および会計監査人とは委任の関係にある。このことは、一般法人法など、各種非営利法人の根拠法に明記されており、これにより、役員および会計監査人(役員等)は、民法644の規定に基づき、委任者である法人に対し善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負っている(善管注意義務)。善良な管理者の注意とは、自らの財産に対して行う一般的な注意ではなく、受任者の社会的、経済的な地位に応じて一般に要求される程度の注意を要請するものであり、専門的な資格や経験を有する者であれば、その資格や経験に応じた高度な判断が要請される。受任者である役員等に善管注意義務違反があると認められる場合には、役員等は委任者である法人に対して、債務不履行に基づく損害賠償の義務を負う。この場合の損害賠償の義務は、法令または定款等に定めた手続きにより減免することが可能な場合があるが、税制優遇の対象となる非営利法人においては、役員等の善管注意義務違反で法人の財産を毀損した場合には、たんに法人内の損失責任の問題にとどまらず、社会的な責任が問われることとなる。また、職務上の義務違反、職務懈怠は役員の解任理由となる。
 ほかに、理事は委任者である法人のため、法令、定款、社員総会等の決議を遵守し、忠実にその職務を行わなければならないとする忠実義務を負う。法人の利益に相反する行為を行うことは忠実義務に反するため、理事が法人の事業の部類に属する取引を行うこと(競業)および法人と利益が相反する取引(利益相反取引)を行うことは禁じられている。ただし、事前に社員総会等所定の決議機関の承認を受けた場合については、このかぎりではない。また、理事が法人に著しい損害を及ぼすおそれのある事実を発見したときには、監事(監事を置いていない一般社団法人にあっては社員)へ報告をしなければならない(報告義務)ことも、法人への忠実義務の1つであると解される。
(本郷順子)