地域冠政策方式

 1990年代以降、地域の個別資源はもとよりさまざまなレベルの地域空間や範域等をブランド化(ブランディング:branding)し、内外に訴求する組織的な動きが広がった。地域ブランドは、ある地域について、その地域空間(都市、まち)自体や、地域が有する多様な財・サービスなどの地域資源に対する、域内外の人々からの評価であり、地域が有する無形資産や情報資源となる。地域ブランドの階層は、地域空間ブランドをはじめ、企業ブランドの階層との類比により地域組織ブランド、地域政策(施策・事業)ブランド、ファミリーブランド、個別ブランドに分けることができる。このうち、「地域政策ブランド」は、官民の数多の政策のなかからブランド化したカテゴリーを指し、そのなかでも「○○政策といえば□□(地域)の□□方式]と想起される「地域名を冠した政策方式」を「地域冠政策方式」と命名できる。ある地域に関連づけて、優れて革新的で独自性を有する政策が地域ブランドとして立ち上がり、持続的な競争優位性(SCA:Sustainable Competitive Advantage)を獲得しているものである。民間非営利組織(NPO)と地域ブランドとの関係は、第1に、NPO自体が組織として地域ブランド化の客体となる場合がある。Keller, K.L(. ケラー)は、シエラクラブ、アメリカ赤十字社、アムネスティ・インターナショナル等マーケティングを強調するNPOを組織ブランドの例としてあげる。地域に根差したNPOが地域組織ブランド化している例は内外に多数みられる。第2に、NPOは政府や企業とともに地域ブランド化の政策主体や活動組織となり、政府と民間の協働・連携(PPP:Public Private Partnership)による主体や、もっぱら民間主体が担い手となる場合など多岐にわたる。地域政策がブランド化した地域冠政策方式の例はさまざまな政策領域で見出され、政策主体をNPOが担っているものが少なくない。学校教育政策で、校園庭等の芝生化の方式として商標も取得している「鳥取方式」、医療政策で、小児救急医療の方式として知られる「熊本方式」、観光政策で、グリーンツーリズム(農泊)の方式として著名な「安心院方式」、福祉では、地域共生型デイケアサービスを創始した「富山方式」など特色ある事例が多数ある。こうした地域冠政策方式は、①新たな社会問題を「発見」し、それに取り組む、②当事者が声をあげ、助け合う、③支援や制度の隙間を埋ティ」の形成など、政府や企業に対しNPOの比較優位性としてあげられる諸点を具現化する先駆的な地域政策が、多数の支持を集めて持続、定着し、範例として広く参照されているものといえる。
(初谷 勇)