タウンミーティング

 アメリカにおいて、萌芽形態の自治政府の形成、次いで直接民主政から間接民主政(代議制)へと発展していく民主政発展モデルの母体となったニューイングランド地方の住民全員参加による町会(議会)をいう。1620年のメイフラワー号による巡礼始祖のプリマス上陸以降、ニューイングランド地方へ移住した多数の清教徒は、マサチューセッツ湾植民地を建設し、イギリス王の勅許状をもとにマサチューセッツ湾会社を設立した。コモンウェルス(commonwealth)と呼ばれたマサチューセッツ湾植民地は、会社役員と株主から成る総会議(general court)による植民地統治と、非公式な住民の集まりを発端とし、総会議から設立承認をえた町(town)による住民自治により発展した。アメリカのタウンミーティングは、マサチューセッツから、コネチカット、ロードアイランド、ニューハンプシャー、バーモントそしてメイン州に広がった。現在でも、これらニューイングランド地方6州を中心にタウンミーティングが存続している。タウンは各州の憲法および州法により規定された権限を有する準地方自治体(quasi-municipality)であり、タウンミーティングはその立法部に当たる。住民の意思を最大限立法行為に反映できるように形成されたニューイングランド地方のタウンミーテングの伝統的な形態は、「開放型タウンミーティング」(open town meeting)であり、直接民主政の原型を成す。年1回全員参加のタウンミーティングが開催され、役職員の選出、条例・予算の議決、地方債発行の議決、その他の案件の決定を参加者全員の議論・投票により行い、タウンミーティングは議事機関の役割を担う。一方、政策形成の役割は、住民により選出された理事で構成される理事会(board of selectman)が担う。月2回程度開催され、案件の協議や、住民総会で審議する議題等の検討を行う。実質的な政策実施や行政は、理事会が任命するタウンマネージャー(town manager)またはタウンアドミニストレーター(town administrator)等が担う。
 全員参加のタウンミーティングでタウンの懸案事項を決定する直接民主主義を基盤としつつ、タウンの政府形態は、3世紀の間に立法部・行政部各々に関し変化を遂げ、立方および行政双方を担当する「タウン議会」が置かれる場合もあらわれた。また、タウンの立法部であるタウンミーティングについても、権限や住民の参加形態に変化がみられる。1つは「予算タウンミーティング(BTM:BudgetaryTown Meeting)」で、タウンミーティングの権限を、理事会から提出された予算案の審議議決にかぎり付与するものである。2つは、州法によりタウンミーティングに付与された全権限を、タウンの各地区を代表する公選された有権者のグループ:代表制タウンミーティング(RTM:RepresentativeTownMeeting)に付与するものである。タウンミーティングも、人々の生活様式や価値観の変化に伴い、住民の負担に配慮し、より参加を得られ機能しやすい形態が並存するようになった。日本では、人口減少下での小規模自治体における町村総会制度(自治法94、95)の採否や、市町村合併により広域化した基礎自治体における地域自治組織への住民参加のあり方などが議論されてきた。ICT(Informationand Communication Technology)の飛躍的発展やコロナ禍による生活様式の変容等を背景として、日本の地方自治・地域自治における直接民主制と間接民主制の関係を考察するうえで、タウンミーティングを参照する意義は大きい。
(初谷 勇)